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「危なかった…」で終わらせない、実例から学ぶバイクの危険回避

脇道から突然出てきた四輪車、見通しの悪いコーナーの先に現れた対向車、前方を走行する車両の急ブレーキ……。バイクに乗っていて、事故には至らなかったものの、あと少しタイミングが違えば接触していたかもしれないと、ヒヤリとする瞬間に出会うことがあります。こうした出来事は「ヒヤリハット」と呼ばれ、事故の一歩手前ともいえる状況です。事故にならなかったことでそのまま忘れてしまいがちですが、振り返ってみると、そこには共通する危険のパターンが潜んでいることも少なくありません。そこで今回は、実際にライダーが経験したヒヤリハット事例と回避策について、モータージャーナリスト宮城光さんに聞きました。「なぜ危険だったのか」「どうすれば防げたのか」。4つのヒヤリハット事例を通して、走行中に潜むリスクを改めて確認していきましょう。

宮城光さん

全日本ロード選手権や全米選手権でのチャンピオン経験を持つレジェンドライダー。現在は安全運転の啓発やライディング技術の指導など、モビリティスペシャリストとして多方面で活躍中。レーサーとしての経験と長年バイクと向き合ってきたからこその知見は、多くのライダーから支持されています。

ヒヤリハットはどんな場面で起きる?

ヒヤリハットは、日常の運転のなかで誰にでも起こり得ます。特に交差点や駐車場の出入口のように視界が制限されやすい場所、渋滞の車列の間ですり抜けをしている時、峠道のコーナーなど、注意力が分散しやすいシチュエーションでは特に発生しやすくなります。こうした場面では、「見落としていた危険」が突如顔を出すもの。ライダーがヒヤリとする瞬間は、ほんの一瞬の判断や意識の差で事故に直結することもあるため、日頃からリスクを察知する感覚を養うことが重要です。

事例① 駐車場から突然出てくる車

状況

市街地を走行中、コンビニ駐車場から車が突然飛び出してきた。
ブレーキで回避したが、接触寸前だった。

危険ポイント

  • 死角になっている駐車場出口
  • 運転者がこちらを見ていない場合の飛び出し

回避ポイント

  • 運転者の顔を見る
  • 飛び出しを前提に走る

宮城光さんの分析

「駐車場から出てくる車に対しては、危険予測をどれだけできているかがポイントです。コンクリートの壁や建物の角で死角がある場合、そこに人や車がいるかもしれないと常に意識して運転することが大事です。むしろ出てくることを前提に考えて、あらかじめ速度を落としたり、車線内で右側に寄ったり、場合によってはライトの点灯で自分の存在を知らせたりと、こちら側も工夫しなければなりません。

また、このようなシチュエーションの場合、車や自転車、歩行者同士のコミュニケーションが取れているかどうかも重要になります。ヒヤリハットというのは、単に危険な状況に遭遇するというだけでなく、コミュニケーション不足からも生まれるものなんですよね。アイコンタクトを取るとか、手を上げるとか、ウインカーやパッシングで意思表示をするとか、そういう基本的なモビリティコミュニケーションが事故回避にもつながります。

駐車場から出てくる車への具体的な対策としては、“運転者の顔を見る”というのが一つのポイントで、こちらを見ていなければ、そのまま出てくる可能性が高いです。実際、右を見て左を見て、再度右を確認せずに出てくる人も多いので、そういう動きから予測して回避につなげていきます。予測ができれば予防ができる。そのためには運転中の注意の向け方も大事で、ナビを見ながら走るにしても、コンビニや駐車場の出口など車が出てきそうな場所では、ナビではなく周囲に意識を集中するように意識しましょう」

事例② 渋滞車列の横ですり抜け中に右折車

状況

渋滞車列の横を低速ですり抜けていたところ、対向車が車列の間から右折。
急ブレーキで回避。

危険ポイント

  • 車列で視界が遮られる
  • 右折車はバイクに気づきにくい
  • 進路が交差する

回避ポイント

  • すり抜けをしない
  • 右折車を常に想定
  • 対向車のタイヤの向きを確認

宮城光さんの分析

「まず大前提として、交差点や信号付近での危険なすり抜けや無理な進入は、そもそもやらないという判断が重要です。これはテクニックの問題ではなく、やってはいけない行為に近いものだからです。実際に交差点では、ウインカーを出さない車、遅れて出す車、大回りで左折する車など、予測しづらい動きが多く存在します。そうした状況で同一車線内をすり抜けながら進入することは、非常にリスクが高く、例えるなら「赤信号に突っ込む」のと同じほどの危険性があります。本当にそこまでのリスクを負ってまで急ぐ必要があるのか?という視点を持つことが重要ですし、安全運転とは、単に技術ではなく、やらない判断ができるかどうかに大きく左右されます。

回避策としては、無理にすり抜けをしなくてもいいような、予定の組み立て方を考えることが大切です。実際、時間に追われていると黄色信号で無理に進んだり、すり抜けをしたりと、判断がどんどん雑になっていきます。その結果、ストレスも増えて、走り自体が楽しくなくなってしまう。バイクは本来、楽しむための乗り物です。だからこそ、走り方だけでなく、スケジュールの組み方そのものを見直すことも安全の一部です」

事例③ トラックの後ろで前方が見えない

状況

トラックの後ろを走行中、信号の変化に気づくのが遅れ、追突寸前になった。

危険ポイント

  • 視界が遮られる
  • 信号の変化が見えない

回避ポイント

  • 車間距離を多めに取る
  • 前方が見える位置へ移動

宮城光さんの分析

「前方が見えない状態で信号の変化に気づかないのは、車間距離が不足している証拠です。たまたま事故になっていないだけで非常に危険です。対策としては、車間距離を十分にとり、トラックの真後ろに付かないこと。また、常にブレーキを準備しておくことが重要です。例えば、大型トラックの後ろについてしまい、信号が見えないといった状況は実際に起こり得ますし、経験があるという人は多いと思います。ただ、大型車の真後ろで信号が見えないという状況は、かなり車間距離が詰まっている状態です。時速40km程度でも、数メートルの距離しかなければ急ブレーキに対応できず、追突のリスクも高くなります。回避策としては、まず基本は前方が見える位置を自分で確保することです。可能であれば車線を変えて視界を確保しましょう。1車線の場合はしっかり車間距離を取ることが重要であり、前が見える状況を自分で作ることが基本です。バイクだからこそ、事前に多くの交通環境情報を手に入れて、交通の流れを把握してください!」

事例④ 見通しの悪いコーナーの対向車

状況

峠道の右コーナーに進入。対向車線からオーバースピードのバイクが接近しヒヤリ。

危険ポイント

  • 視界外の対向車
  • センターライン付近の走行
  • 速度過多

回避ポイント

  • コーナー進入速度を落とす
  • センターラインに寄りすぎない
  • 対向車を想定

宮城光さんの分析

「見通しの悪いコーナーでの対向車とのヒヤリハットは、多くの場合、速度と位置取りが大きく関係しています。まず前提として、峠道に表示されている制限速度は、単に『その速度で走る』という意味ではなく、それ以下であれば安全に止まれる・避けられる目安として設定されています。実際にその速度域で走っていれば、対向車がはみ出してきたり、路面に何かがあったりしても対応できる可能性が高くなります。逆にそれを超えた速度で走っていると、止まれない、避けられない、曲がりきれないといった状況に陥りやすくなります。

また、このシチュエーションで大切なのは、自分がヒヤリとする側であるだけでなく、周囲をヒヤリとさせている可能性もあるという視点です。自分が速度を出して走っていることで、対向車や周囲の人に不安や恐怖を与えているかもしれない。この意識を持つことが、安全運転の大きな一歩になります。

ヒヤリハットの回避策としては、まずは『確実に止まれる速度で走ること』が基本になります。その上で重要になるのが、コーナーに応じた位置取りです。右コーナーではできるだけ左側を走ることで対向車との距離を確保し、左コーナーでは状況に応じて中央寄りを使うことで視界を確保するなど、場面ごとに最適な位置を選ぶ必要があります。

常に同じ位置を走り続けることが良いというわけではありません。例えば左側に歩行者や自転車が多い状況であれば中央寄りを選ぶべきですし、対向車がはみ出してきそうな状況であればしっかり左に寄るべきです。状況は常に変化しているため、それに応じて柔軟に対応していくことが求められます。

常に周囲の情報を取り続け、瞬時に判断を重ねていくこと。だからこそ集中力も必要で、走り終えた後には独特の疲労感もありますが、その分、しっかりと走れたときの充実感にもつながっていきます」

ヒヤリハットに共通する原因

4つの事例を見てきて、ヒヤリハットに共通する原因は何でしょうか。

「ヒヤリハットの原因は一つ。『周りを見ているけれど分析していない』という点だと思います。走りながら瞬間的に状況を判断したり、相手がどう動くか予測したりする力が欠けている時に起こりやすいです。さらに言えば、そもそも“見ているけど見えていない”場合も多いです。例えば、駅のホームを歩いていても、多くの人はスマホを見ていて、目が画面に向いています。周囲のことはなんとなく見えている感覚かもしれませんが、横で手を振っても気づきません。車社会でも同じで、周囲が見えていないと、日常的にヒヤリハットに遭遇する危険性が高まります。結局、ヒヤリハットを防ぐには、ちゃんと周囲を観察して、相手の動きを予測し、認識し合うことが大事です。言葉を使わなくてもお互いを見て認識し合う、そういう非言語のモビリティコミュニケーションが重要です。これができないと、日常の移動でも危険な状況がどんどん増えてしまいます」

宮城光さんからメッセージ

最後に、宮城さんからメッセージをいただきました。

「道路交通法を守って走っていたらヒヤリハットすることはまずないと思います。やっぱりちょっと速度が超過していたり、すり抜けであったり、車間距離が取れていなかったり、そういう日頃から注意されていることを守れていない時に何かが起きやすい。バイクでもその機動性を武器にして急な車線変更をしてしまっていないか、という視点も大事だと思います。つまり、自分がヒヤリハットを経験しているだけでなく、周囲にヒヤリハットを起こさせていないか、という視点も重要です。つい相手側の問題として捉えがちですが、自分も当事者として関わっているかもしれない。そういう意識を持って走ることが大切だと思います」

事故は突然起きるものではなく、必ずその前には「危険の兆し」があります。

ヒヤリとした経験を「運が良かった」「たまたま避けられた」で終わらせず、なぜ危険だったのかを振り返り考えること。この記事の事例を参考に、安全にバイクライフを楽しみましょう。

梅本まどかと宮城光のセーフティ ライディング|一般社団法人 日本自動車工業会

https://www.jama.or.jp/operation/motorcycle/safety_riding2023/index.html

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