伊豆スカイラインの二輪車事故実態にみる「バイク事故ゼロ」を目指して
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一般社団法人 日本二輪車普及安全協会によると、二輪車通行規制の対象になっている区間は全国に500ヵ所存在するそうである。これらは一部のライダーによる騒音問題や無謀な運転による事故発生等の理由で、規制が実施されたものだ。風光明媚な道路を、バイクだけ通行が規制されていることにはライダーから不満の声も多い。
ツーリングスポットとしても著名な静岡県にある伊豆スカイラインでは、バイクの事故が発生するたびに通行規制の話が持ち上がり、まさに首の皮一枚で繋がっている状態だ。
そこで今回は、伊豆スカイラインにおける安全運転普及活動ならびに安全啓発活動を続けるモーターサイクルジャーナリスト、カズ中西さん(以下、中西さん)にその活動や昨今の事故傾向をインタビューし、現場での実態を伺った。
何度も訪れたことのあるライダーも、これから走りに行こうと考えているライダーも、是非読んでいただきたい。
伊豆スカイラインの事故検証から
伊豆スカイラインは、三島警察署と大仁警察署の2つに管轄がまたがっている道路だ。本道路で実際に二輪車の重大事故が発生すると、その後、中西さんは管轄警察署と一緒に現場検証を行う。こうしてできあがったのが、事故多発地帯を示した上記の地図だ。この注意喚起チラシを、ことある毎にライダーへ配布するのも、伊豆スカイラインの二輪事故抑止における大事な活動の一つ。
中西さんは二輪車による事故が起こると、現場まで急行し実際の情報を基に走行シミュレーションをするとのことだ。
こちらの画像は、実際に事故が起きた現場だ。ガードレールの下側にはバイクが接触したことを示す痕跡が残っている。この痕跡を見て、「スピード超過によってコーナの外に膨らんでしまったのか」あるいは「曲がれると思ったカーブが、思ったより鋭角で曲がりきれなかったのか」といった仮説を立てながら、事故当事者しか判り得ない事故の原因に近づくことができる。こうした事故原因や発生場所を集積してマップを作成しているのである。
データから見る気を付けるポイントは?
大仁・三島の両警察署から伊豆スカイラインの事故件数、事故発生時間帯、場所の特徴、負傷者の年齢別人数等のデータを提供していただいた。
また、大仁警察署交通課稲葉(いなば)課長(以下、稲葉課長)に、数字だけでは判りづらい部分を補足説明して頂いた。
2021年はオリンピック開催による渋滞の影響に加え、熱海市伊豆山地区で発生した土砂災害により国道135号が通行止めとなっていることを受け、静岡県との協議の結果、緊急措置として伊豆スカイラインを7月14日から8月8日まで前倒しして無料開放したが、その間、6件の事故が発生した。
継続的な安全啓発活動の効果もあり、伊豆スカイラインの事故件数は全体的には減少傾向にあるが、残念ながら上記のように、今年は無料開放期間に事故が6件発生してしまった。なお、5年以上前までは単独事故が約4割を占めていたが、ここ数年は右左折や出会い頭、追い越しといったように事故原因も多様化傾向にある。
やはり、事故を起こしやすい場所はカーブだ。スピードの出し過ぎにより、減速不足などでバイクのコントロールが出来ずに曲がり切れないケースがほとんどである。
そもそも伊豆スカイラインには信号や横断歩道が無いため、ライダーの“安全運転意識”に起因する事故がほとんどだ。いわゆるライダーの運転操作などといった自己運転技術の過信、もしくは安全確認不足に原因がある。
最近では、駐車スペースから出る際にカーブ先から来る車両の確認を怠り、出会い頭に接触するケースも増えているそうだ。
ライダーは様々な想定をして走行することが求められる
稲葉課長によると、ここ数年は9月から11月の秋の期間に、シカとの衝突事故が増えているとのこと。
野生のシカは臆病な性格で、大きな音に驚くと突発的に前進で逃げる習性がある。そのため、車両が行き交う道路であっても飛び出してくることがあり非常に危険だ。
衝突はもとより、避けようとして転倒してしまったとしても、速度が高ければ高いだけその代償は大きい。そのため、シカの急な飛び出しを想定し、いざという時に止まれるまたは回避できるくらいの気持ちで走るしか方法がないのだ。
なお、“対シカ”は単独事故扱いとなり、怪我があっても届け出が無ければ事故件数にはカウントされない場合もある。事故発生の際は、必ず届けを出すことが大切である。
長年、安全運転啓発活動を行っている中西さんによると、ライディングスキルの向上ももちろん重要だが、それ以上に高い安全意識を持つことが非常に重要だと語る。
今どきの若者の感覚や価値観を尊重したうえで、一人一人に笑顔で優しく語りかけるように安全意識向上の啓発を続けている。
交通安全は、ライダー一人ひとりの自制心の上に成り立っている。そのうえで、適切な運転技術や的確な状況判断といった付加要素によって、安全運転へとつながる。
飛び出してくるシカや、対向車も想定して走ることが出来なければ、楽しいはずのツーリングが暗転してしまう。はやる気持ちを抑え、楽しい旅の思い出を無事に持ち帰れるよう、安全運転を常に意識しながら楽しく走ってほしい。