【実録!事故現場】現場診断とはいつ誰が何のために行っているのか?
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去る2022年11月某日、長い直線の続く静岡県内の幹線道路において、排気量250㏄のオフロードバイクに乗った男性ライダーが亡くなる交通事故が起きた。この事故を受け所轄警察主体で各方面の関係部署に声を掛け、実際の現場において現場診断が行われた。
当事者なき検証となったが、この現場診断とは一体どのような時に誰が何のために行い、その結果によってどのような対策が講じられるのだろうか。所轄警察ならびに実際に立ち会ったプロライダーKAZU中西氏のご協力によって情報提供していただいた。
※一般的に耳にする“現場検証”は、事故の当事者及び関係者と警察で実施され、事故の経緯を検証し調書が作られるものですが、 “死亡事故現場診断” は死者が出た場合に実施され、警察が、道路管理者、交通安全関連団体、ほかから事故再発防止の対策についての意見を警察がヒアリングします。
現場は長い直線の国道。果たしてここで何が起こったのだろうか?
現場診断が行われるか否かはケースバイケースだが、関係筋によれば死亡事故が起きた場合は内部規則として二週間以内に警察署内で可能な対策を打たなければならないそう。例えば、事故の主な原因が速度超過であると判断した場合には、事故現場付近で取り締まりや一斉検問などで対策を打つ。それから1ヶ月以内に現場診断が必要だと判断されると、実施しなければいけない内規になっている。
事故検分の第一義はもちろん「事故原因の究明・確認」であり、第二義は「事故再発を防ぐための対策」だ。捜査状況や、事故発生状況によってこの1ヶ月という時限は変わらないが、現場診断が行われることに変わりはないそうだ。
また、現場診断が必要か否かは、その事故が誰にでも起こりうる場合は緊急性が要求され、所轄警察からの呼びかけにより、国土交通省、日本二輪車普及安全協会、地元のバイクショップ、プロライダーなどが立ち会う。遺族をはじめとする関係者から事情聴取しきれていない場合は、マスコミを呼ぶことはないが、前記のように緊急性がある場合は地元の放送局や新聞社にも声がかかる。
前方の車両の影で見えなかったこぶし大の石に乗り上げた
事故当時、バイクの後ろを走行していたトラックのドライブレコーダーに記録されていた映像を警察は入手することができた。
ドライブレコーダーの映像分析によると、当時オフロードバイクは推定で時速70km/h前後で走行しており、前方車両との車間距離は約30m以内だった。
そしてこの場所で、バイクの前方を走行していた車両が通過した直後にライダーの眼前に現れたのは、こぶし大の石だった。突然現れたこの石を避けることができず、乗り上げてしまったのだった。跳ね上がったバイクは、たまらず大きくハンドルを3度、4度、5度と大きく振られ、ライダーを振り落としてしまう。振り落とされたライダーは中央分離帯の縁石に頭部を強打し、帰らぬ人となった。
筆者も実は同様の経験をしたばかりだった。
それは片側一車線の海沿いの国道、前方にはバスが走っていた。バスの後続なので速度は控えめだったが、突然バスが減速しハザードランプを一回点滅させた。
何事かと思い筆者も減速すると、走行するバスの底から突然現れたのは横たわる大きなタヌキ。バスがハザードランプで後続の筆者に知らせてくれなかったら、車間距離をつめていてもう少しスピードがでていたら、タヌキに乗り上げ転倒は免れなかっただろう。
現場診断によってどのような対策がなされるのか
前記のドライブレコーダーの記録を含めた現場診断を受けて、各所が対策に動くのである。
国土交通省では日ごろから2日に1回は道路上の落下物確認のパトロールを実施しており、それ以上にパトロール回数を増やすのは難しかった。従って道路上の落下物を発見した方から通報を受けるシステムをさらに強化することに加え、検問による過積載の取り締まり強化を検討している。
日本二輪車普及安全協会は、適切な車間距離や速度超過が事故に起因しているとみており、速度超過や車間距離についてWEBサイトなどで告知することで、さらなる注意喚起を図ることを検討している。
バイクショップでは、バイク走行において普段から十分な注意を持って走行するよう自店の顧客に対して情報共有とともに注意を促した。
所轄警察の交通課長は、バイクの特性として中低速においては小回りが可能だが、高速では急旋回や落下物の回避は不可能であり、走行中の前方視界を確保すべく十分な車間距離が必要であるという見解だった。また、日常的な安全に対する意識向上のための注意喚起とともに速度違反の取り締まりに対する必要性が検討された。
プロライダーでもあるKAZU中西氏の見解は、車間距離が不十分であったとしている。適切な車間距離を保ち、路上の落下物など何があるか判らないという意識での走行が必要。目の前にどのようなモノが現れても即座に対応できるくらいの適切な速度と車間距離が重要であり、その注意喚起と情報拡散が必要であると語った。また証拠物件のため現物は確認していないが、ヘルメットが古い、もしくは材質に問題があったなどの疑問も残るとのことだった。
このように、現場診断では各所において様々な課題・対策案が共有されるのだ。
路面は何が起こるか判らない、という意識で走行してほしい
つい先日も、トラックの荷台に積載した大型のポリタンクが落下し、対向車線のクルマにぶつかり跳ね返って、落下させた車両の後ろを走行していた親子連れのバイクに直撃し、大怪我をするという事故があった。
本件にあたった交通課長も、過去に国道で浴槽の落下物に遭遇した恐怖を思い起こされていた。
KAZU中西氏は、静岡県の有料道路“伊豆スカイライン”における交通事故ゼロを目指し安全啓発活動を続ける「伊豆スカ事故ゼロ小隊」の隊長も務めている。いわく、伊豆スカイラインで最近はイノシシやシカといった野生動物との接触事故も多いそうだ。現場診断の経験も豊富であり普段からそういった状況を目の当たりにしているKAZU中西氏から、最後にライダーへの提言をいただいた。
「何があるかわからないつもりでバイクに乗らないといけない。何があっても安全に停止するためには、乗り物の性能に対する熟知と乗り手の技量に依存するが、乗り手の技量のなかには危険予測も含まれる。何かあるなと感じたらまずしっかりと減速して欲しい。伊豆スカイラインでもシカとの衝突で年間20名弱のライダーが怪我をしている。危険予測がしきれてないのではないか。動物飛び出し注意の看板が立っている場所は、たいていは過去に事故があったところだ。仮に動物が飛び出してきたとしても、そこの制限速度を守っていれば停止または回避できるケースが多い。経験豊富なライダーであれば、なおさらのことお手本になって欲しい。」
ツーリングを楽しい思い出で締めくくるためにも、まさか自分が、まさか道路にこんなものが、と後で思うのではなく、今一度、どんなシーンでも安全に止まれる心のブレーキを備えて欲しい。