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三ない運動の方針転換「乗せて教えるバイクの安全運転教育」を推進する埼玉県のその後を追う!

今から約40年前に全国高等学校PTA連合会(以下、全高P連)によって特別決議された、高校生に対して “バイクの免許を取らない”、“バイクに乗らない”、“バイクを買わない” をスローガンとする「三ない運動」。全国統一での三ない運動は2017年に終了しており、現在では各自治体の高等学校PTA連合会(以下、高P連)、もしくは各校の校則に委ねられている。

また、これまで三ない運動に強固な姿勢であった埼玉県が2019年4月にこの運動を見直し、新指導要項として乗せて教えるバイクの安全運転教育へと方針転換をした。三ない運動を廃止してから約3年が経過し、埼玉県の安全運転教育はどのような局面を迎えているのかを調査すべく、「高校生の自動二輪車等の交通安全講習」を取材した。

 

【おさらい】三ない運動とは?

冒頭でも少し触れたが、「三ない運動」とは、1982年に全高P連によって特別決議された、 「バイクの免許を取らない、バイクに乗らない、バイクを買わない」をスローガンに、高校生へのバイク利用を禁止する社会運動だ。

1980年前後といえば、爆発的なバイクブームにより重大事故や暴走族が増えた結果、バイクに対するネガ ティブイメージが蔓延した時期である。これを危惧した全高P連が、高校生の命を守り、暴走族加入など非行を防止する目的で始まったのが「三ない運動」である。

1990年代半ばまでは全国的な運動となっていたが、1997年には”特別決議”から”宣言”にトーンダウンし、2012年には”マナーアップ運動”へと変化していった。

当時は世相を反映した運動であったものの、2010年代に入るとその運動の 在り方や効果自体が疑問視されるようになった。ついに、2015年には群馬県が議会の決議により、生徒と保護者が希望する場合は「運転免許取得を制限しない」という方針のもと三ない運動を廃止した。2017年には全高P連による全国一律での三ない運動の実施は終了した。

 

バイクに乗る全ての高校生に安全運転教育を届けたい

三ない運動により起こる弊害として、学校に隠れて免許を取得し交通事故に遭遇してしまっているという実態がある。また乗らないことが前提となっているためバイクの安全運転教育が実施されていない現実もある。

バイクの免許取得年齢に達する高校生年代は、交通社会に参入する責任を自覚させ、自他の命を守る交通行動を身に付けさせる重要な時期であるが、三ない運動によりバイクの安全運転教育を届ける機会も失われていた。

こういった中、埼玉県においては二輪車関係団体の働きかけにより、県議会で「三ない運動の効果と今後についてを問う」一般質問を契機に、「埼玉県 高校生の自動二輪等の交通安全に関する検討委員会」が2016年に立ち上がった。委員会での協議の結果、「三ない運動廃止」「高校生への安全運転教育実施」の提言書がまとまり、最終的に2019年から新指導要項の運用が開始され、バイクに乗る高校生に安全運転教育を届ける仕組みが出来上がった。

詳細は「埼玉県三ない運動の見直しの記録」として公開しているので参考にされたい。

https://www.jama.or.jp/motorcycle/environment/saitama_3naiundou_minaoshi.html

 

体験型が織り込まれた実践的な内容の安全講習

閑話休題、2021年9月19日に、埼玉県の秩父中央自動車学校で開催された今年5回目となる「埼玉県 高校生の自動二輪車等の交通安全講習」を取材した。

開催側は、埼玉県教育局県立学校部、埼玉県警察本部交通部、埼玉県交通安全協会、埼玉県指定自動車教習所協会、埼玉県二輪車普及安全協会等と万全の体制。

この日の受講人数は、午前と午後の部合わせて男子生徒37名・女子生徒28名の合計65名の高校生だ。バイクは原付だけではなく4台の普通自動二輪車で参加する生徒もいた。

この安全運転講習の受講を条件に、保護者の同意を得た上で、学校に申請をした生徒に対して、埼玉県は免許取得およびバイクに乗ることを承認しているとあって、非常に活況な印象を受けた。

この安全運転講習で特に印象的だったのは、バイクに乗って間もない生徒の視点に立ち、様々なことを体験してもらおうという、入念に練られたプログラム内容だ。

 

30km/hと35m/hで速度を変え、コーナリングの限界速度を体験する生徒

例えば、時速30キロからの制動(ブレーキ)は、教習所や一般的な安全運転講習でも見られるが、時速30キロでのコーナリングを経験させた後に、同じコースを時速35キロで走行させることで、バイクがコーナーで大きく外側に膨らんでしまうということを、実際に体験し、カーブには限界速度があることを理解させていた。

また、クルマや様々な障害物によって生じる死角を実際に確認するなど、走行中に想定される危険を擬似的に体験させるプログラムも導入されていた。

 

エアバックを膨らませる体験

さらに、白バイ隊員も装着しているライダー用のエアバックを実際に装着し、展開させる体験も実施されていた。

これらの実践的な安全運転講習プログラムは、 関係者間で反省検討を繰り返し、必要に応じて都度改訂が行われるという実に柔軟で頼もしい体制と言える。

 

高校生の通学はかなりハードな実態

安全運転講習に参加していた生徒に任意のアンケート※を実施し、19名からの回答が得られた。

まず、バイクで通学をしている生徒は、19名中17名。通学時間は最短でも20分、最長だと50分以上の生徒もおり、30分以上と答えた生徒が50%以上を占めた。

バイク通学の主な理由は、ほとんどの生徒が必要不可欠な移動手段としてとらえており、保護者からも十分な理解を得ていた。

日々の通学ゆえに、早朝や夜になることもあれば、寒い冬や突然の雨など、バイク通学をする生徒がおかれている環境はそれなりに過酷である。

さらに、バイク通学中に危険を感じた経験について聞いてみると、以下のような回答が得られた。

  • 横からクルマが飛び出してきた(4人/19人中)
  • 濡れたマンホールや落ち葉で滑って転倒しそうになった(4人/19人中)
  • 未舗装路で滑って転倒しそうになった(3人/19人中)
  • クルマによる煽り運転/幅寄せ行為(3人/19人中)
  • 単独事故または事故被害(2人/19人中)

そのほかにも

  • カーブを曲がり切れず衝突しそうになった
  • 走行中に蜂に刺された
  • 鹿とぶつかった

など、利便性が高く必要不可欠な通学の移動手段ではあるものの、親目線で見ると、夕暮れや夜など、毎日の部活終わりですら心配になる。

※MOTOINFO調べ

 

開催者からひしひしと感じる親目線での愛情

ヒザをついて生徒のバイクを覗き込む指導員

安全運転講習への参加は自前のバイクが原則。

実技が始まる前に、しきりに生徒が乗るバイクの回りをインストラクターの皆さんがうろうろ。ブレーキを握ってみたり、ハンドルを少し左右に動かしてみたり。なかにはヒザをついて、下からバイクを覗き込む指導員も。

そう、バイク通学は雨天も夜間もあり、バイクの整備も非常に重要だ。それを十分に理解しているからこそ、出来る限りの車両チェックをしていたのである。やはり親ではないとしても我が子のように心配なのだ。

 

女性白バイ隊員と談笑する女子高校生は、なんと2時間以上かけて講習に参加

実技や座学も、コロナ禍ということもあり換気の気配りやソーシャルディスタンスなど、感染対策を講じている。そんなとき、普段接する機会のない白バイ隊員と生徒の会話に花が咲く。やはりそこにも、お姉さんのような愛情を持った接し方が感じ取れる。

 

バイクを必要とする生徒がいる限り継続の重要性を痛感

今回講習を受けた生徒からは、危険予測の大切さや、正しい安全運転技術を身につけることの重要性といった安全運転に対する意識向上の現れが顕著に見られた。

しかしながら、昨年も埼玉県内における高校生のバイク重大事故は5件発生。その5件とも安全運転講習未受講の生徒であったり、届け出をしていない生徒であった。

全国のバイクに乗る高校生に安全運転教育が届けられるようになれば、在学中の事故を最小限に抑え、高校卒業後の初心運転者事故削減、生涯に渡り事故を誘発させない・事故に巻き込まれない交通社会人の育成にも寄与するという、正の連鎖が生まれると考えている。

高校生の命を守るためにも、安全運転教育を前提とした三ない運動見直しの取り組みは、二輪車業界や各関連団体が責務としてとらえ、埼玉県における好事例を皮切りに、今一度、全国的に検討すべき重要な問題であると考える。これからも引き続き本取り組みの進捗を発信していきたい。

MOTOINFOでは今後更に、埼玉県がどの様な経緯を経てこの様に変わっていったのか、他道府県への取り組みをどの様に考え今後進めていくのかなど引き続きウォッチしていきたい。

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