
バイクの機動力で災害時に活躍!医薬品代行輸送
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災害は、家屋の倒壊や道路の陥没などをはじめ人々の暮らしにさまざまな被害をもたらします。令和6年(2024年)1月に発生した能登半島地震では、地震によって道路が寸断されたため、避難所や高齢者養護施設に避難する患者に医薬品を届けられないという事態も起こりました。
そうした状況を知った大分県災害ボランティアバイク隊事務局広報 兼 由布市災害ボランティアバイク隊広報の小野精治氏(以下、小野氏)は、大分県由布市で養護老人ホームなどを運営する社会福祉法人寿永会と大分県中部保健所由布保健部、大分市薬剤師会と協力して、災害時におけるバイクでの薬の「代行輸送体制」を構築しました。その取り組みについて、中心となって活躍された由布市バイク隊の小野氏にお話を伺いました。
あなたの町に災害ボランティアバイク隊はいますか?広い視野と幅広い連携で活躍する大分県由布市災害ボランティアバイク隊
命を救うバイクの新たな活躍の場
災害時の孤立集落へバイクで直接医薬品を届ける

災害発生時にバイクの機動力を生かして支援活動に協力するレスキューバイク隊は全国各地に点在しており、これまでMOTOINFOでも各地域のレスキューバイク隊を紹介してきました。このほど、2022年10月にご紹介した由布市バイク隊がバイクによる災害支援活動の新たな取り組みとして「大規模災害時のバイクによる医薬品等の代行輸送」を実施することになりました。
高血圧や糖尿病などの持病がある方は、定期的に持病の薬を飲み続けなければなりません。しかし地震等の大きな自然災害によって道路が崩壊してしまい、持病の薬を受け取れなくなる事態になってしまいました。2016年の熊本地震、2024年の能登半島地震でも、インフラがダメージを受けたことで医薬品を受け取れず、心臓や血管などの病気を引き起こしての災害関連死が発生しています。
実際に能登半島地震の被災地へ医療支援に赴いた日本医科大学付属病院 救命救急科の医療チームは、避難所に避難していたおよそ400人の高齢者の中の30人余りが「3日から1週間以内に、高血圧や糖尿病などの持病の薬がなくなる」と答えたと報告しています。

内閣府が発表した「中山間地等の集落散在地域における孤立集落発生の可能性に関する状況フォローアップ調査」でも示されましたが、大分県は全国で4番目に「孤立集落発生(数)リスクが高い」ことが分かりました。こうした調査結果を受け、万が一の災害時に備えておかねばと対策に乗り出したのが、大分県由布市で養護老人ホームなどを運営する社会福祉法人寿永会です。災害時のBCP(business continuity planning / 事業継続計画)を充実させる計画の一環として、「バイクによる薬の代行輸送」を構築しました。クルマでは走行困難な損壊した道路でも、バイクの機動力で乗り越えて薬を届けようという取り組みです。
薬機法に基づく薬のバイク代行輸送のマニュアル化

飲食物や衣類といった日用品と違い、医薬品の取り扱いについては「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び 安全性の確保等に関する法律(薬機法)」で厳格に取り決められています。通常は薬剤師から処方される薬を受け取るという流れのあいだに、代行者としてバイク隊のメンバーが加わるので、正しく薬を代行輸送するための薬機法に従った実施マニュアルが必要になります。そのマニュアルは寿永会と由布市バイク隊によって作成されました。
この取り組みを実施するにあたり、バイク隊側が取り組む「薬の代行輸送」に関わる危機管理について以下の3点を遵守する必要があります。
【ポイント1】身分証明書

代行輸送を受け持つバイク隊が、薬機法に基づいたマニュアルに準ずる者であることを薬局側に提示する身分証明書を作成します。本代行輸送において知り得た個人情報は、第三者に対して提供しないことを約束する「秘密保持の宣言」旨が記載された身分証明書を提示することで、代行目的と対応者の情報漏洩防止の宣言が確認できます。
【ポイント2】自己責任の宣言
ボランティア活動が前提となるバイク隊は、本代行輸送における安全管理責任を自身で担う必要があるので、代行輸送における事故等において依頼側に賠償責任が発生しないこと、また目的地に到達しなくてはならないという契約責任が発生しないことを「バイク隊による薬の代行輸送」の協定書に記載します。つまり、事故につながるような無理な代行輸送をしない判断がバイク隊に求められている、ということです。
【ポイント3】危機管理対策

薬の代行輸送の実施マニュアルと合わせて、輸送に関する取り扱いルールについての講習会を実施します。
薬を輸送するパックについては、
1, 防水性が高く、輸送担当者には開けられない鍵付きのものを採用すること
2, 万が一の事故等によって輸送パックが拾得物扱いとなっても、「命をつなぐ薬であり、拾った方はこちらの住所、もしくはこちらの電話番号まで連絡をお願いします」との札をパックに貼っておくこと
という2点の対策を講じます。
災害時「薬の代行輸」実施マニュアル

作成されたマニュアルでは、薬の輸送代行が必要と判断される状況において、まず「薬局と薬の受取人が通信連絡を取れるかどうか」が前提となります。まったく連絡が取れない場合はオンライン服薬指導ができないため、輸送代行の実施は不可と判断されます。映像および音声によるオンライン服薬指導ができれば、処方箋が発行できた際にバイク隊による代行輸送の依頼へと進められます。
想定外のことが起こる自然災害の現場で、状況に応じてバイク隊による薬の輸送代行を実施するかどうかを判断せねばなりませんが、こうした方法をあらかじめ準備しておくことで、失わずに済む命を救える可能性を作れるのです。
レスキューバイク隊の活動の幅がさらに広がる

全国で初となる「バイク隊による薬の輸送代行」を推進した大分県ボランティアバイク隊 広報の小野氏は、全国の災害バイク隊や自治体にも取り入れてもらうべく、全国展開を希望しています。2年前の2023年より、三重県鈴鹿市のバイク用品メーカー「モリワキエンジニアリング」取締役専務の森脇南海子氏が発起人である災害バイク隊「ライド・エイド」とすでに連携が始まっています。
また2024年12月26日には、MOTOINFOでご紹介した記事がキッカケとなって、国⼟交通省 関東地⽅整備局と特定非営利活動法⼈千葉レスキューサポートバイク、埼玉レスキューサポート・バイクネットワークが、災害時における応急対策及び復旧対策を円滑に実施する体制を構築するため、オートバイ等を活用した情報収集等の支援に関する覚書を締結しました。

災害時におけるバイクを活用した支援活動は、さらなる広がりを見せています。これからもMOTOINFOでは各地の災害バイク隊の取り組みをご紹介していきますので、ご期待ください。
大分県由布市 災害ボランティアバイク隊
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