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災害体験から政治家へと転身したプロライダー(東京都日の出町議会議員 鈴木 正彦さん)

2019年10月6日に南鳥島近海で発生した台風第19号は、日本列島の太平洋沿岸を沿うように北上。その後、関東地方を通過し、13日12時に日本の東側でようやく温帯低気圧に変わりました。台風第19号の接近・通過に伴い、東京都、埼玉県を含む関東から岩手県までの1都12県という広い範囲で大雨特別警報が発表され、大雨、暴風、高波、高潮となり、最大級の警戒が呼びかけられました。

画像提供:本人

後に“令和元年東日本台風”と名付けられたこの激甚災害は、東京都の西部に位置する日の出町にも大きな被害をもたらしました。雨が激しくなるなか、居ても立ってもいられず、バイクで被害状況の確認に動いたひとりのライダーがいました。日の出町でバイクショップを経営するロードレース国際A級の鈴木 正彦さん(以下、鈴木さん)です。

心配する家族を背に現状把握へと向かった

夜22時の時点で、すでに都道184号線の道路が崩落したとの連絡を受けていたため、夜明け前に現場確認をするのは危険だと判断し、十分な装備を整えたうえで待機しました。

夜明けとともにバイクで、孤立している集落から市街地まで出られるルートを見つけるべく、現地へと急ぎました。災害時の活動は一人で敢行するため、二次災害(自分自身も被災する)を引き起こさないためにも、タフで走破性の高いオフロードタイプのバイクが大いに活躍したと言います。

画像提供:本人

日の出町に住みはじめてから半年という鈴木さんでしたが、周辺の林道はほぼ把握していました。そのため、北側から孤立集落へ抜けられる林道が土砂崩れによって全て通行できないことを把握すると、残す東側からのルート(オフロードバイク1台がやっと通れるほどの道)を走行し、街までたどり着くことができたのでした。

街の住民から「鈴木さん、どうやって来たの?」と驚きと安堵の顔を浮かべていました。ライフライン復旧の目処が立っていないことから、水や食料をバックに満載して孤立集落と市街地を何度も往復したそうですが、その道中には無数の倒木や落石があったため、一刻も早くクルマの通行を可能とすべく、できる限り自分の手で端に寄せながら走行したと言います。

日常的にバイクに乗っているからこそのライディングスキルや、バイクならではの機動力が、こういった有事の際に本当に役立つことを実感したそうです。

災害現場で都議会議員との出会いが政治参画のきっかけに

画像提供:本人

その後、鈴木さんは土砂崩落現場の直前までクルマで入るスペースを許可されたことから、悪路での走破性が高い4WDのクルマを急遽購入したというのですから驚きです。夫婦でスーパーマーケットの閉店時間(22時)ギリギリまで、孤立集落に残された住民の食料を買い出しに行っては届けていました。

そうしているときに、真っ暗な崩落現場の闇の中に立っていた女性が、鈴木さん夫婦に気付くなり声をかけてきたと言います。「この度は大変なことになってしまいましたね。今、一番お困りの事は何でしょうか?」そう声を掛けてくれたのが、東京都議会議員の清水やすこさんだったそうです。

「やはり一番はクルマが通行できる道路が無くなってしまったことで、何とか早急な復旧を」と鈴木さんは清水都議に訴えました。

当時は、22時過ぎに桎梏(しっこく)の災害現場に都議会議員が現地に来ていたことにも驚いたそうですが、さらに翌日には小池都知事が現地を訪れ、現場の状況を視察するなり、急ピッチで道路が復旧されたことに深く感銘を受けたとのことです。

世のため人のために尽力する政治家としての仕事、それを目の当たりにした鈴木さんは次第に政治の世界への関心も持つようになり、4年後、ついには日の出町町会議員選挙に出馬し議員に選出されました。

将来的にはバイクレスキュー隊の活動を活性化させたい

画像提供:本人

平井川の崩落後に鈴木さんが取った行動は、ともすれば「二次災害が起きたらどうするんだ」という謗りを受けかねなかったと、ご自身でも振り返っていました。

しかし、改めてバイクについての適切な技量を持った人が上手く安全に活用すれば、孤立した住民の不安解消に役立つことを鈴木さん自身が実証しました。

この体験を活かし、これから鈴木さんが町議として目指していることがあるそうです。

「バイクの機動力を活かし、災害時に役立つ活動をもっと広めたい」

政治の世界に足を踏み入れ、そして日本の中心ともいえる東京都とのつながりができました。

そのうえでMFJ公認インストラクターでもある鈴木さんは、今後必要な3つのポイントを指摘しています。

  1. バイクレスキュー活動・組織のレベルアップを図り、認知度を上げる
  2. 災害発生後の、特に初動である程度の権限を持てるようにする
  3. 業界との連携によりレスキュー隊へのトレーニングや指導を可能とする

この3つが、バイクレスキュー隊の活動を活性化させるポイントだと鈴木さんは考えています。

資料提供:大分県由布市ボランティアバイク隊

以前、大分県由布市災害ボランティアバイク隊を取材した際の資料にもありましたが、ボランティアバイク隊の活動を必要とされている範囲は全国に及んでいます。

あなたの町に災害ボランティアバイク隊はいますか?広い視野と幅広い連携で活躍する大分県由布市災害ボランティアバイク隊

災害発生時に、土砂崩落や地盤沈下など、危険と思われる箇所は「この先一般の方の進入禁止」として規制線が張られることがよくあります。そのため、バイクレスキュー隊などが規制線の先に立ち入るためには、然るべき走行技術や経験、組織としての情報伝達網などが体系化されていることが求められます。安全を委ねられている自治体としても、そうした相互での信頼関係がないと、おいそれと通行を許可できないでしょう。

鈴木さんは、バイクレスキュー隊が災害など有事の際に地域安全の一助となるために、二輪業界団体との連携を含め、実体験を基にした災害時のナレッジ共有や、運転技術、情報伝達手法、地元とのネットワーク構築など、さまざまな課題をひとつひとつクリアにしながら体系化していく必要があると言います。また、こうしたバイクレスキュー活動は、東京都が率先して推進していきたいという意気込みを語っていただきました。

全国に点在しているバイクレスキュー活動あるいは組織・団体は、すでに地元住民たちにとって非常に心強い存在だと思いますが、今後ますます災害が増える可能性のある日本において、さらにバイクの有用性とともにプレゼンス向上の気運が高まっています。

現役のライダーであり日の出町議会議員でもある鈴木さんの今後の活躍に、多くのライダーからの期待が集まります。

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