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【9/1は防災の日】バイクの機動性を活かして災害時に活動した事例紹介

被災地からの映像でしばしば聞かれるのが「情報がなくて不安。携帯もつながらない」と言う声だ。実際の被災時においてバイクによる情報収集や、その他様々な活動をしている静岡市と三島市に話を伺ってきた。

 

【静岡市オフロードバイク隊】職員の発案、そして東海地方だからこそ、迅速な決断だった

元モトクロスライダーから丸太越えのトレーニングを受ける(画像提供:静岡市オフロードバイク隊)

平成7年1月17日5時46分、淡路島北部においてマグニチュード7.3の地震が発生した。この災害による人的被害は、死者6,434名、行方不明者3名、負傷者43,792名という戦後最悪の極めて深刻な被害をもたらした(消防庁調べ、平成17年12月22日現在)。

のちに阪神・淡路大震災と称された震災が起きた翌日、一人の静岡市職員が現地(神戸市)に向かった。
何故か。1854年の安政東海地震から大きな地震が起きておらず、100~150年周期で大地震が発生すると言われている駿河湾に面しているのは静岡県という元々災害意識が高いという背景があったからだ。

 

情報がない事により動きようがない現場の窮状を見た職員は、その半年後静岡市に戻り、伝えたのだった

防災関係機関も参加した共同訓練として自衛隊も一緒に指導を受けている(画像提供:静岡市オフロードバイク隊)

とにかく情報が集まって来ない、クルマが通行できない、歩けないから、行動範囲が狭い。

だからと言って待っていても情報は向こうから来てくれない、被災状況も避難している場所の情報もない。そうすると行政側は、災害に対する対処に進めない、必要とする人員を集められない・振り分けられない、と正に情報が無いと何もできないという、情報の重要性を感じた半年の現地滞在だった。

静岡市に戻り、災害時の現地ではオフロードバイクの機動性が最も有効であると訴え、そして、静岡市自体が災害に対する意識が高かった事もあり、一年も経たず静岡市オフロードバイク隊(通称:SCOUT)が発足したのだった。

オフロードバイク隊員としての条件は、普通二輪免許を所有する事のみ。バイク30台及び、いざと言う時の装備や備品は市が予算を確保して準備された。

隊員は、「災害時にバイクの免許を活かして役立ちたい」その志を持ったものが集まった。

 

普段はそれぞれの仕事をこなし、いざとなったら市役所全体も災害時の勤務形態に様変わりし、彼らにも集合の号令がかかる

訓練集合風景(画像提供:静岡市オフロードバイク隊)

現在隊員は32名。女性3名、20代の隊員もいて平均年齢は40歳前後。

月に一度の頻度で、訓練を実施。市で実施する大きな総合防災訓練の他、陸上自衛隊との共同訓練、防災関係機関や他の公共団体との訓練、バイクメーカーの支援により、モトクロ・トライアルライダーが走行スキル向上の為、実際の情報収集活動(走行)を想定した練習や、丸太越えなどのテクニックも教えてもらっているとのこと。

 

ともかく情報入手が先決

道を進む装備、自身の安全装備、もしものための支援装備と大変な重装備になる(画像提供:静岡市オフロードバイク隊)

山間地が8割を占めると言われる静岡市、説明を受けて「なるほど」と思ったのが、万が一静岡市で大きな災害が起こり、県外からも支援が必要になった場合、まず市内に入るルートが確保されなければ陸の孤島となってしまうという事です。

狭くても少しの幅の道があれば走行でき、電柱一本くらいなら乗り越える事ができるオフロードバイクは、そんな時に機動性を発揮する。

電柱一本が道をふさいでいたら、クルマはそこでストップしてしまうのである。

情報収集のために出動する隊員は通信手段の確保が重要であるため必ずサブバッテリーを携行し、通信機器の充電ができるようにしているほか、食料・飲料や宿泊装備、 万が一に備えガソリン携行缶等も持参しているそう。

 

東日本大震災、4日後には仙台入りしていたオフロードバイク隊

道なき道を地図をあてに進む (画像提供:静岡市オフロードバイク隊)

東日本大震災時、オフロードバイク隊は静岡市の先遣隊として、バイク4台のほか燃料や食料等を自前のトランスポートトラックに積載し自走で現地入り。現地本部を設け、現地での支援活動や情報収集活動等を行った。

現地では必要なモノが手に入らない事も想定され、静岡で現地のロードマップを準備し、各自に出向くエリアの計画を作らせ、岩手県から福島県までの東北南北約500キロを走行した。

当時は3月のまだ気温の低い中、途中道なき道を走り、時には障害物を乗り越え、陽が落ちる前までの厳しい活動と思われたが、お伺いしたところ、普段の走行訓練を実践のごとく意識して行ってきた事が、実災害の現場においてもとても役立ったとの事でした。

 

被災の衝撃で、構えるカメラの手も震える(画像提供:静岡市オフロードバイク隊)

 

熊本地震では、二人乗りで活動

初の二人乗りでの出動。後ろの隊員は撮影、前の隊員は運転に集中 (画像提供:静岡市オフロードバイク隊)

平成28年4月14日14日、熊本県熊本地方、深さ11㎞で発生したマグニチュード6.5の地震(国土交通省気象庁HPから)によって50人の犠牲者(直接死)が確認され、約2,800人の負傷者、約18万人の避難者数を出す、大きな震災となった。

熊本では東日本大震災と同様に静岡市の先遣隊としてトランスポートトラックで現地入りし、バイク3台と隊員4名、その他の職員2名で活動。

ここでは初めて二人乗りで災害現場に出動、何故ならば、走行できる道の捜索、写真撮影、本部への連絡など、いくつもの役割を一人でこなすのはさすがに大変なためだ。そこで、二人乗りで後ろの隊員は撮影に専念して貰う事で、前のライダーは危険な箇所もある道を走行する事に専念できたそうだ。

熊本でオフロードバイク隊が起動性を発揮したのは発生した大渋滞。渋滞しているだけで、通行できない、或いは非常に時間がかかる所を、短時間で、多くの情報、被害情報は勿論、インフラ(電気・水道など)の被害情報等を収集した。

場所によっては陥没がある道路や、倒壊した家屋の散乱したもので狭くなっている道もバイクなら通行可能だった。

 

クルマが通れないような所も進んでいくオフロードバイク隊のライダー(画像提供:静岡市オフロードバイク隊)

 

熱海市の土石流のニュースを見て思った、情報伝達のスピード

オフロードバイク隊の寺田さん(左)と村松さん(右) (画像提供:静岡市オフロードバイク隊)

今後のオフロードバイク隊における、機動力の向上や、展望についてもお伺いしました。

先日熱海市で起きた土石流は、近隣にお住まいの方の携帯動画によって、動画を見た方に大きな衝撃を与えました。

また、ドローンで映された全貌の動画を見たオフロードバイク隊は、情報収集は勿論重要なのだが、今の時代、情報を持って帰ってから伝えるスピード感にはもどかしさを感じたそうです。

可能ならば、バイク自体にカメラが備わっていて現場からライブ的に被害状況が伝わるのが一番早いのではないか?また、ドローンを使う事によって、より広範囲の情報が取れるのではないか?と。

普段の訓練が現場で生きた事を忘れずに、今後も普段からの心構えや訓練にいそしむ気持ちが強まったとの事でした。

 

【三島市オフロードバイク隊】阪神・淡路大震災をきっかけに発足したバイク隊が三島でも結成されていた

阪神・淡路大震災の発生後、毎日のように現地の被災状況がテレビ等で放送された。

移動手段を失った人が原付で移動する姿も見られた。

三島市においても、東海地震等の発生時には、建物の倒壊や道路の損壊、情報インフラのシャットダウンによる情報収集困難を予想し、不整路や狭い道路でも通行可能なオフロードバイクによる情報収集を行う事が決まった。行政機関として情報の空白時間を最小限に食い止める事を目的として発足されたのが三島市職員15名からなる三島市オフロードバイク隊であった。

上記震災発生一週間後に、調査の為に一か月派遣された隊員もおり、また静岡市オフロードバイク隊の有効性も検証され、静岡市の積極的な支援・指導が得られた事から、三島市におけるオフロードバイク隊の立ち上げはスムーズだった。

 

静岡市同様、平常時は各課の行政業務、災害時には災害対策本部直轄の情報収集部門として招集される。

毎月の走行・通信訓練の他、年に3回の防災訓練参加、または静岡市、陸上自衛隊との合同訓練にも参加している。

連絡体制は、休日や夜間においては、市の危機管理部による参集メール、勤務時には庁内メールによって発令されるが、発災を探知した隊員からの情報発信というルートも備え、市内震度4以上の地震においては自主参集も可能としている。

三島市での活動では、市内に大型地震が発生した場合は、まず緊急車両の輸送ルートの確保の為、クルマの走行できる主要な国道、県道、幹線道路等の被害状況確認、そして沿線住宅の被害状況も隊員によって確認され、場合によっては救援部隊を現地に誘導するところまで支援を行う。

 

経路確認作業訓練(画像提供:三島市オフロードバイク隊)

出動時の装備例(画像提供:三島市オフロードバイク隊)

また、地形上多い河川の氾濫には特に注意を払っており、大雨が続く場合には最低限の人数(2名1班)でも、主要な河川の監視カメラが配置されていない所を中心に、水位状況の把握に向かい、避難指示や避難場所開設等の決定に必要な情報を本部に伝達するため、消防と連携することもあるそうだ。

 

自衛隊との連携事例が多い三島市の例

ヘリポート開設の訓練(画像提供:三島市オフロードバイク隊)

平成23年3月の東日本大震災時、三島市でも震度4を記録し緊急輸送路の通行状況を確認。その4日後に発生した静岡県東部地震震度4の際には上記同様緊急輸送路の通行状況を確認し、自衛隊偵察班へ情報提供。

令和元年10月の台風19号における被害調査においては、がけ崩れ、冠水箇所の確認し、自衛隊偵察班へ被害状況について情報提供をした。

一つ、興味深い活動が、被災地で迅速にヘリポートを開設し、離着陸を誘導する役割だ。

何処でも可能な事ではないことかも知れないが、そのサポートには特殊な知識や訓練が必要と思われ、こういった活動をされている他の地域のバイク隊においても参考になると思われる。

 

ヘリコプター着陸の誘導(画像提供:三島市オフロードバイク隊)

ヘリコプターは、ヘリポートとして指定された場所に地上班の安全確認や、誘導があって着陸する事が認められるのだが、地上班を現地に送る時間がかかる事から、三島市のオフロードバイク隊がその役割を担う形になったそうだ。

その際、重要なのが、ヘリコプター運用機関との連絡調整。災害本部にヘリコプター運航機関の担当が派遣され、運航計画を共有し、本部がヘリポート開設、誘導を行うバイク隊を指揮することだ。

ヘリコプターは、救助犬の搬送、負傷者の搬送等緊急を要する様々な用途に使われ、その為のヘリポートの開設には渋滞での時間のロスを避けられるバイクの機動性が生かされるという訳だ。

自衛隊の他にも、県警、消防、病院のドクターヘリにも対応できるように訓練をおこなっている。

 

三島市オフロードバイク隊佐藤さん(左)と危機管理課松本さん(右) (画像提供:三島市オフロードバイク隊)

今回お話を伺った静岡市、三島市ともに、普段から災害が起こった時の連絡網や行動規範が決まっており、またそれに備えた訓練も広範囲に及び、バイクによる活躍がより一層期待される。

日頃からの訓練によって成し得る活動であるため、容易なことではないが、一つでも多くの市町村でも同様の活動が広まれば、お互いの支援体制が強化されるのではないだろうか。

 

MOTOINFOでは、これからも社会に役立つバイクをご紹介していきます。

もし本稿のようなご活動をされているバイク隊の方、もしくはご存知の方がおりましたら、ぜひご連絡ください。

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