わたしたちの暮らしを守る防災バイクの存在(東京電力RPバイク隊)
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昨今の異常気象により、台風や大雨など各地で激甚化する自然災害 。毎年頻発かつ激甚化する自然災害への一次対策として、機動力に優れたバイクを導入する企業が増えている。
今回ご紹介する東京電力リニューアブルパワー株式会社(以下、東京電力RP)も、災害時における水力発電所の状態把握にバイクを活用している企業の一つである。 現在、東京電力RPでは163箇所の水力発電所を保有しており、各地域の事業所が発電所の監視、運用、保守に当たっている。
現場出向業務にクルマを使用することについては、安全性や有用性の高さから至極当然の選択であるものの、当時、バイク導入については社内での理解度も低く、バイク隊発足へ向けた苦労はそこから始まった。
発足は「危ない」から「役立つ」へ社内イメージを変えることから
水力発電所という性質上、山間部の狭い道を通行する事や、箱根などの観光地に近い立地である事から、たびたび発生する交通渋滞に悩まされており、機動力のあるバイクの利用については以前より話にはあがっていた。災害や渋滞による現地到着が遅れるたびに話題になるものの、安全面や運用方法について決めかねており、バイクの利便性を認識しつつも、従来通りクルマを使い続けた。
ある日、たまたま社員が休日にバイクメーカー主催の運転レッスンへ参加する機会があった。そこでの指導方法が実に分かりやすく、また、バイクが持つ走破性や機動力の高さといったポテンシャルが、災害時の現場の状況確認に役立つのではないかという気づきがあり、これをきっかけにバイク隊の発足に向けて模索し、静岡市をはじめとした自治体や他企業でのバイク利活用実績や運用方法などについて情報を集め知見を深めた。
そして構想から1年、ネックとなっていた安全性担保を前提とした訓練および運用方法に目処がつき、検討開始時の危険性を解消する事でようやくバイク隊の発足に至った。この時すでに社内からは危険性の懸念よりも有用性への期待がふくらんでおり 、同時に社内イメージを変えることにも成功していた。
東京電力RP松田事業所に所属するバイク隊「RAIDEN(雷電)」は、現在7名の隊員で構成されており、普段からオフロードバイクに乗る隊員も2名いる。また、半期に一度の大規模訓練や、不定期にバイク隊での自主訓練を行っている。静岡市の合同訓練等では、他団体、他企業のバイク隊との合同訓練に参加、交流する事もあり、 バイクの利活用方法や活動の体験について意見交換をすることも多いという。
なお、本バイク隊への入隊は厳しい社内規定があり、発電所内に設けられたコースで乗車資格を得るための認定試験を受験・合格した後、見習いとしてツーマンセル(2人一組)での路上走行が可能となる。その後、発電所内のコースや実際の林道を想定したコースでの走行練習および10時間の走行トレーニングを終了した後、再度認定試験を受験・合格する事でバイクを使った単独業務を遂行することが出来るようになる。
令和元年東日本台風によって15箇所の水力発電所が全停止
2019年10月12日、記録的な大雨によって甚大な被害をもたらした令和元年東日本台風(令和元年台風第19号)が静岡県をはじめ、関東・甲信越地方、東北地方に直撃した。 この時、東京電力RP松田事業所が管理する15箇所全ての水力発電所が、河川の大幅な増水によって自動的に停止。詳細に現場の状況を把握するため天候の回復を待ってバイク隊の出動が命じられた。
一般的な水力発電は、河川に設置した取水ダムから川の水を発電所に続く水路に流して、その水を発電所付近で高いところから低いところに流す事で生まれるエネルギーを電気に変換している。そしてこの方式で発電する場合の要は、発電所への水流をコントロールする取水口である。
東京電力RP松田事業所は神奈川県西部と静岡県東部の発電関連設備を運用しており、計15ヶ所ある水力発電所と発電所へ河川の水を取り入れる取水口35ヶ所の管理を行っている。
通常の操作や運転状況・トラブルの把握は、制御装置やテレビなどでよく映像を見る定点カメラを使って施設から離れた事務所でも可能となっているものの、一部山奥深くの電源や通信線が無い場所の確認は現地でしかできない。また事務所から確認ができる箇所であっても災害時には複数ある通信線が切れるなど、想定外のトラブルが発生している可能性は僅かであっても残ってしまう。つまり、災害時等には現地まで行って目視でもって設備の健全性を確実に確認しなければいけないのだ。
隊員の行く手を阻む崩落した林道
台風の通過を待って、翌早朝から隊員たちは現地へ向かった。
バイク隊がまず発電所関連施設までのルート確保を兼ねて先遣部隊として各発電所を回り、施設の被災状況や途中の道路状況を含む被災状況を伝え、発電所関連施設の復旧優先度を決め、後発部隊となる修理対応車両(クルマ)を効率よく配置していく。被災の程度によっては出動するバイクのトップケース(バイク後部中央に備え付けられたボックス)に積載されたドローンを活用し、後発部隊との情報共有を行う事もある。
なお、バイクが導入される以前までは、クルマ移動が不可能な道の先は、徒歩を余儀なくされたそうで、場合によっては現地到着まで通常より二時間以上かかったこともあったそう。
最近では、多量の降雨により施設までの林道で一部崩落があり、かろうじてバイクが通れそうな道は残っていたものの斜面側は10m以上崩落しており、道には岩や倒木もある。もちろんクルマなど通れるはずもなく、徒歩やバイクであれば到達が可能であった。
水を守り、暮らしを守るため、バイクで活動するRAIDEN
リスク回避の観点からツーマンセル(2人1組)で出動し、被害状況の迅速な把握に努めた。幸い大きな問題もなく、連携の取れたバイク隊による情報共有によって、復旧工事調整の早期対応に繋げることができた。
また、今回の対応を経てバイク隊としての課題もいくつか顕在化した。まずは、同時に複数の現地確認を要する際、多方面の現場出向にかかる移動時間を考慮すると当時の配備車両数では明らかにリソースが不足しているということ。それに付随し、現在導入されている250ccマニュアル式のオフロードバイクは、操作方法や運転技術にそれなりの鍛練を要するということだ。この課題を解決するため、現在では155ccのオートマチック三輪スクーターも導入している。
今後、気候変動によって自然災害の発生頻度が高くなれば、必然的にバイク隊への出動要請も増すことになる。いざという日に備え、合同訓練の機会を増やすことや、バイク隊増員の必要も出てくるかもしれない。
「水力発電所は自然災害に備え、国内外の事例や知見をもとに必要な対策を行っていますが、想定外の事象が起きてしまう可能性は否定しきれません。想定外によるリスクが1%でもある場合は、速やかに現地を確認して適切な対応を確実に行う事がわれ我々の責務です。これからも安全への配慮を欠くことなく、バイクの有用性を最大限発揮できるよう運用体制をブラッシュアップし、活動を継続していきたい」と語ってくれた運営チームリーダーの加藤さん。
バイクを活用し、災害に常に備え日々の努力を怠らず、私たちの暮らしを陰で支えてくれている彼らの活動にさらなる脚光が当たることを願うと同時に、災害による出動の機会は減ることを祈るばかりである。
取材協力:東京電力リニューアブルパワー株式会社 松田事業所