自転車とバイクで試してみた!通勤に使用するメリットとは?
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会社への通勤手段は、電車やバスなどの公共交通機関をはじめ、クルマ、バイク、自転車などのパーソナルな乗り物も使われています。普段は電車通勤で、天気のいい日にはバイクや自転車でというのも気分が変わっていいものです。
近年、「働き方改革」といった背景もあるなかで、政府は企業に呼びかけて、自転車通勤を推進する取り組みを始めました。自転車は環境にやさしく、災害時に役立ち、交通渋滞を緩和し、国民の健康増進につながるといった理由によるものです。
その趣旨ならば、バイクももっと通勤に活用できる可能性があるのではないでしょうか。政府が後押しする自転車通勤のメリットに照らしながら、ここではバイク通勤のメリットについても考えてみたいと思います。
通勤目的での交通手段別分担率(東京都市圏)
国や自治体が自転車通勤を推進
国土交通省・自転車活用推進本部は、2020年4月3日、「『自転車通勤推進企業』宣言プロジェクト」をスタートさせました。自転車通勤を積極的に奨励している企業・団体を認定することで、自転車通勤の普及拡大を図っていくとのこと。認定の要件は、①従業員用の駐輪場を確保すること、②交通安全教育を実施すること、③自転車損害賠償責任保険等への加入を義務化することの3つ。認定されると、「宣言企業ロゴマーク」の使用が認められ、ホームページや名刺にロゴを表示するなどして、会社のPRに活用できます。また、宣言企業のなかから、自転車通勤者の多さや独自の取り組みなどにより「優良企業」の認定も行っています。
このプロジェクトは、2016年に制定された『自転車活用推進法』の施策として行われている。同年、自転車活用推進本部が設置され、翌17年6月には「自転車活用推進計画」が立案されています。これにより、「自転車月間」(毎年5月)、「自転車の日」(毎年5月5日)における活動や、自転車専用道路および駐輪場の整備促進、シェアサイクル施設の拡大、安全普及、災害時活用、観光促進など、自転車を活用するための総合的な取り組みを行うことになっています。
また、地方自治体にも自転車通勤を推進するところが出てきている。愛媛県の「自転車ツーキニスト推進事業所登録制度」、栃木県宇都宮市の出前講座「自転車通勤のススメ」、警視庁の「自転車安全利用モデル企業制度」などが実施されており、今後、同じような趣旨の施策が増えそうです。
自転車通勤制度導入の手引きを作成・配布
ここで注目したいのは、自転車活用推進本部の政策連携機関である自転車活用推進官民連携協議会が2019年5月に発行した『自転車通勤導入に関する手引き』(A4版・50頁)という冊子です。
内容は、自転車通勤のメリットを紹介したうえで、会社が自転車通勤制度を導入するに当たって検討すべき事柄を解説したもの。自転車通勤の対象者、対象自転車、通勤経路と距離、目的外使用、通勤手当て、安全とマナー、事故時の対応、保険への加入、駐輪場等の設備についてなど、社内制度のルール作りについて書かれています。この手引きに示された基本的な考えは、バイク通勤制度を導入する場合にも参考にできるものとなっており、新しい時代に対応した通勤制度について考え、見直しをする際の貴重な資料といえます。
自転車通勤のメリットをバイクに当てはめてみる
『自転車通勤導入に関する手引き』では、会社が自転車通勤を導入することによって得られる事業者のメリットと、従業員のメリットとを整理して紹介しています。
事業者のメリットとしては、電車通勤や自動車通勤から自転車に転換することで生じる「費用の削減」を第一に挙げています。次に、自転車に乗って気分よく通勤することで心身ともに健康維持・増進がなされ、仕事の「生産性の向上」が期待できるとしています。さらに、環境にやさしい健康的な企業としての「イメージアップ」を図ることができ、「雇用の拡大」にもつながるとアピールしています。
これらのメリットについて、自転車をバイクに置き換えて考えてみると、まず「経費の削減」については、場合によってはバイク通勤の効果も期待できます。自動車通勤が主流となっている企業ならば、通勤手当や駐車場費用の削減が検討できそうです。
「生産性の向上」については、バイクも自転車と同様に期待できます。バイクは、人と車両が一体となって運転することが楽しい乗り物であり、走行すること自体が気分のよさにつながります。混雑した電車やバスのストレスから解放されるうえに、バイクを運転することで気持ちの切り替えになり、仕事に向き合う集中力の向上が期待できます。事業者にとってバイク通勤を導入するメリットは、ここがいちばん大きいものとなりそうです。
続いて従業員のメリットについてみると、「通勤時間の短縮」が挙げられ、500mから5km弱の距離ならば、自転車の所用時間はほかの交通機関よりも短いと述べています。
また、「身体面の健康増進」、「精神面の健康増進」もメリットとして挙がっています。
「通勤時間の短縮」に関しては、バイクにも優れた効果が期待できます。この点については、一般社団法人日本自動車工業会(自工会)が過去に実測調査を行っており、東京都内の渋滞した道路(三原橋交差点―上野駅前交差点:3.4km)と、渋滞していない道路(等々力不動前交差点―武蔵新田駅前交差点:5.8km)について、交通機関別に移動にかかる時間(旅行速度)を実測しており、バイク(とくに原付二種)が最も迅速な乗り物という結果になりました。このことから、バイク通勤はほかの通勤手段よりも時間を節約できると考えられ、通勤距離によっては自転車以上の効果が期待できます。
次に「身体面の健康増進」に関しては、バイクの運転が通勤シーンで“適度な運動”になるとは考えづらいでしょう。むしろ肉体的な運動量が小さいことで、疲労が少なく汗をかかずに済むことなど、バイクならではの大きなメリットと捉えることもできます。
最後の「精神面の健康増進」に関しては先に述べた通りで、特にバイク好きな人ならば、仕事の行き帰りにバイクに乗ることで高揚感を得られたり、気分をリフレッシュできるため、精神面の健康にはよい影響をもたらすものと考えられそうです。
交通機関別旅行速度(東京都内)
自転車・バイクで”模擬通勤”を実施
ここまでの考察を実地に検証するため、東京都内で仮の通勤区間を設定し、被験者に電車、自転車、バイクそれぞれで移動してもらい、走行距離と所用時間を計測したほか、交通手段ごとのメリットとデメリットについて感想をインタビューしました。
被験者は東京都豊島区の27歳男性。400ccの普通二輪車を所有しており、実験に使用してもらいました。自転車はシェアリングサイクル(24インチ)を利用。このシェアリングサイクルの駐輪場(豊島区池袋3-3-10)を起点に、東京都庁第一庁舎(新宿区西新宿2-8-1)を終点として、平日朝8時過ぎに模擬通勤を実施しました。電車は東京メトロ副都心線「要町」駅から都営大江戸線「都庁前」駅までを利用。自転車とバイクはネットのルート検索を使って、それぞれのモードでの最適ルートを通行しました。どの交通手段も、徒歩で移動した区間も含めて所用時間を計測。もちろんバイク・自転車は、遵法走行に徹し、けっして急がず安全に配慮していただきました。
結果は表の通り。所用時間がいちばん短かったのはバイクの29分、電車は30分、自転車は33分でした。バイク・自転車は、道路の混雑状況や赤信号の数に影響を受け、電車は乗り継ぎのタイミングでタイムロスもあります。1回だけの実験ではあくまで参考にしかならないですが、現実的にはこうなるという結果の一つです。
被験者は、次のように感想を述べています。
【電車通勤の感想】
電車通勤は乗り換えに7分かかりましたが、乗車時間自体は短くて、わりと早く着いた印象です。電車に乗ること自体は日常的なことですし、移動中は仕事のことをぼーっと考えたりして、特別に何か意識したことはありません。ただ、混雑した電車内ではウイルス感染への心配から、かなりストレスを感じます。会社が自転車通勤かバイク通勤を認めてくれるなら、なるべく電車通勤をやめて、どちらか自分に都合のいいほうを選択すると思います。
【自転車通勤の感想】
「自転車通勤のメリットは、移動の費用がかからないということに尽きると思います。都庁周辺の駐輪場も1日100円程度ですから毎日でも負担になりません。6km近く走ってかなりの運動になったので、体力づくりしたい人にはおススメです。でも私の場合は、坂が辛くて3kmまでが限界かなと思いました。汗だくになったので、着替えが必須です。それから、普段はあまり意識しませんでしたが、スマホに示されたルートが自転車で走っていい道なのかそうでないのか判然としない区間があって、違法走行していないか不安でした。歩道での走行も、人や自転車の飛び出しが気になって、サイクリング気分というわけにはいかないと思います」
【バイク通勤の感想】
「ストレスなく楽に移動できたという点では、バイクがいちばんです。交通ルールも明確なので安全運転に集中できて、ぼーっと仕事のことを考えたりすることもなく、バイクモードと仕事モードの気分の切り替えになります。この点は私にとって、大きなメリットだと感じました。ただしバイクのルートには交通渋滞もあって、爽快感までは得られなかったですね。赤信号の多さも気になりました。ちなみにこの日は雨予報だったので、レインウエアを着て出たのですが、にわか雨にも困りませんでした。自転車ではさすがに雨だと出かけたくないですね。会社に駐車できるスペースがあればいいのですが、自分で確保するとなると費用がかかります。そのあたりが気になったところです」
バイク通勤のメリットとデメリット、引き続き検証していく必要がありそうです。
JAMA 「Motorcycle Information」2020年8月号より
問い合わせ先 |
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国土交通省 自転車活用推進本部事務局 TEL:03-5253-8111 URL:www.mlit.go.jp |
一般社団法人日本自動車工業会(広報室) TEL:03-5405-6179 URL:www.jama.or.jp |