
見た目はふだんのジーンズに近いまま、作りはバイクに乗ること前提に再設計されている。それが「バイクデニム」。写真はBMCのエアインテーク空冷式ジーンズ
ジーンズで乗るのはNG?普段着風でも実は別物、「バイクデニム」の中身を知る
目次 - INDEX
バイクの装備は、安全性こそが命。でも「いかにもガチガチのライディングパンツは見た目がちょっと…」と敬遠して、結局いつものジーンズで乗ってしまう。そんなライダーや街乗り派は、決して少なくないはずです。
注目したいのは、見た目はジーンズに近いまま、作りはバイクに乗ること前提で再設計されている「バイクデニム」というカテゴリー。普通のジーンズとの違いはどこにあるのか、ジャンルを牽引するブランドがどのようなことを考えてものづくりをしているのか、ジーンズメーカー出身で、自身もバイク用デニムブランド「BLUE MONSTER CLOTHING」を運営する、バイク系YouTuberのローリー青野氏の解説とともにご紹介しましょう。
「デニム」とは何か、普段着の代表格、その魅力

「デニム」とは、一般に綿を中心とした糸を綾織りで仕上げた頑丈な生地のことです。経糸(たていと)にインディゴで染めた糸を、緯糸(よこいと)に未染色の糸を使うことで、独特の表情と、履けば履くほど色落ち・色変化が進む”育つ”性格が生まれます。
もともとはフランス南部・ニーム発祥の綾織り生地(serge de Nîmes=セルジュ・ドゥ・ニーム)で、これがアメリカに渡って炭鉱・農作業向けのワークウェアとして広まったのが、いまのデニムの源流です。20世紀半ば以降は若者のストリートカルチャーへと展開し、その丈夫さや無骨さからバイクカルチャーとも結びつきが強い素材になっていきました。日本でも1990年代〜2000年代にかけてはヴィンテージブームが過熱し、リーバイス501の年代ごとの仕様差や、赤耳の有無に、当時のデニムマニアたちは大金を払いました。
しかしその温度感が、ここ10年ほどで明らかに変わりました。GUやZARAをはじめとするファストファッションが、デニムをコーディネートの定番素材に押し上げ、シルエットも細く、ストレッチ入り、軽量、夏向け、と機能で選ぶアイテムに変化し、「育てる楽しみ」や「ブランド神話」よりも、「いつでも気軽に履ける、インディゴ色のボトムス」としての立場が広がってきています。
バイクカルチャーと結びつきの強かったデニム。ただし、その「頑丈な生地感」が、バイクに乗るときにはかえってデメリットになる場面もあります。
ジーンズで乗るとなぜ不便?一般デニムの限界

一般的なジーンズでバイクに乗ると、またがった瞬間に分かる“不具合”がいくつか出てきます。
- 裾が上がり、くるぶしが露出する(火傷・打撲リスクが高まる)
- 腰のライズが低くウエスト後ろが下がりがちなため、腰が露出しやすい
- 股・膝で生地が突っ張り、屈伸やステップ操作の妨げになる
- 膝や腰のプロテクターを後付けする想定で作られていない
いずれも、独特の前傾姿勢を取り続けるバイク特有の悩みであり、「街用」として最適化された服を、「ライディング用」として流用していることに起因します。乗車時の着心地、ライディングポジションを取った時のシルエット、プロテクター対応、バイクに乗りやすいジーンズとは何か。ユーザーの声に応える形で、「バイクに乗ること自体を前提に、ジーンズを設計から作り直す」という発想で生まれたのが、現在の「バイクデニム」というカテゴリーです。
普通のジーンズと違うバイクデニムの「ポイント3つ」

では、バイクデニムは具体的にどこを“バイク用”として作り込んでいるのでしょうか。各社で細部の打ち出しは違うものの、バイクデニムには共通する3つのポイントがあります。順に見ていきましょう。
今回、バイク用ジーンズ販売数日本一を掲げるBLUE MONSTER CLOTHING(以下、BMC)の代表・ローリー青野氏に取材しているので、各ポイントにあわせてBMCの設計例も紹介していきます。青野氏はもともと日本を代表する国産ジーンズブランド・EDWIN出身。デニムの伝統と、ライダーの実生活、その両方から逆算した設計思想で、独立後にBMCを立ち上げた人物です。
①ライディング前提のパターン(立体裁断)
バイクにまたがった姿勢で生地が突っ張らないよう、最初から「曲がった状態」を前提に型を組むのがバイクデニムの基本構造です。具体的には、太もも裏側に通常より多めの生地を回し、膝周りに余裕を持たせる立体裁断の作りになっています。
(ローリー青野氏)
「立体裁断の最大のメリットは、バイクにまたがった時に太もも周り、膝周りが突っ張らないということです。後ろの生地がほぼ前に来ているので、ストレスがなくなる。曲がった状態を初めから作っているので、これ以上股下が上がらないようになっているんです」
「またがるとくるぶしが出てしまう」「膝を動かした時に生地が突っ張ってステップ操作がしづらい」という、前述した悩みの多くは、このパターン設計でかなりの部分を解決できます。

②プロテクター対応
膝や腰のプロテクターを後付けする想定で作られていないのが、一般ジーンズの限界の一つでした。バイクデニムはこの点を最初から織り込み、膝・腰のプロテクターポケットを備えたモデルが多く見られます。装着するか外して履くかはユーザー側の判断、というスタンスのモデルが多く、「街では薄手のジーンズとして履き、走るときだけプロテクターを入れる」という運用がしやすい設計になっています。

(ローリー青野氏)
「プロテクターを入れるポケットは各社調整式で、膝の位置に合うようにできます。うちは縫い糸をばらして調整できるようになっています。プロテクター自体は普通のEVAを使っていますが、うちはメッシュ仕様にしています。だから装着していても、ここで風が抜ける。プロテクターを入れたまま夏でも快適に走れる。よく見かけるタイプは風が通らないのですが、僕らはそこにこだわっています」
③しっかりした生地強度
バイクで万一の転倒や事故が起きた場合、ライダーが路面を滑るケースも少なくありません。欧州の二輪事故調査「MAIDS」でも、事故後のライダーの挙動として、路面を滑るケースが一定割合で報告されています。だからこそ、バイクデニムにおいて生地の丈夫さは、快適性だけでなく安全性を考えるうえでも重要なポイントになります。
では生地の強度はどう考えればいいのでしょうか。衣料品の生地や縫製には、引張強さや縫目強さなどを評価する試験方法があり、メーカー各社はこうした考え方を踏まえながら、自社基準で生地物性や縫製品質を管理しています。ただし、すべてのバイクデニムが同じ耐摩耗性能を持つわけではありません。安全性をより重視する場合は、プロテクターの有無や配置に加え、摩擦耐性を高めた素材の採用、欧州のバイク用衣類規格であるEN 17092への適合有無なども確認しておきたいポイントです。
「丈夫さ」の先にある各社のアプローチ

ここから先、つまり「生地や縫製の基本性能を意識したうえで、ライダーをどう守るか、どう快適にするか」のアプローチは、メーカーによって大きく分かれます。
バイクウェアブランドのなかには、ケブラーなどの特殊繊維を内側に仕込んで「摩擦耐性の強化」を真正面から打ち出すモデルも多く存在します。一方、BMCが選んでいるのは、それとは違う方向性です。
(ローリー青野氏)
「僕はYouTubeなどでも走行風を操る魔術師って名乗っています(笑)。これまでの用品は3シーズン対応のものなどが多かったと思いますが、アパレルの世界はそうではない。春、夏、秋、冬と違うじゃないですか。特に夏と冬に特化していますが、春・秋向けも僕らはしっかり作っています。車両メーカーさんは年中乗ってほしいという思いでバイクを作られている。そこに対してウェアメーカーが最適なアイテムを出さないと、ライダーが『冬は乗りません』『夏は乗りません』となって、業界が盛り上がらないでしょう?また、僕らは10マイルを大事にしています。バイク乗りの普段の行動半径は、だいたい16km。この範囲内をいかに快適に乗れるか、いつでも乗りたくなるか。そこが大事です」
夏向けに走行風を生地から内側に取り込んで体を冷やす「空冷式」、冬向けに走行風を遮断する「防風」シリーズ、と季節ごとに走行風コントロールの設計を変えるのがBMC流。走行中、絶えず体に風が当たり続けるバイクは、気温だけでなく走行風による体感温度の変化が大きい乗り物です。そこをアパレル側の設計で吸収し、ライダーの体感的なストレスを下げる、という発想です。
その先に青野氏が見据えているのが「アクティブセーフティ」、つまり“事故を起こさない能力”です。寒さや暑さで体感的なストレスが高まれば集中力は落ち、判断は鈍る。逆に体感が整っていれば、ライダーの余裕が生まれ、結果として事故を起こしにくくなる。「快適性は安全性の一部」と捉える、これが、BMCが特殊繊維による摩擦耐性訴求ではなく、走行風コントロールを軸に据えている理由です。
もう一点、BMCの製品で印象的だったのが「洗っても寸法が戻る設計」。洗濯するとデニムは縮むもの、と思っている人は多いはずですが、青野氏によればアパレル業界からの見方は少し違うそうです。
履いているうちに、ジーンズには絶えずテンション(張力)がかかり、生地は少しずつ伸びていきます。「ユーザーさんは『伸びた』と言うのですが」と青野氏。実は洗濯はこのテンションを取り除く工程で、生地は伸びる前の“リラックスした状態”、つまり初期サイズに戻る。だから洗濯した直後は、履いていた時よりむしろ“きつくなった”と感じるわけです。
BMCのバイクデニムは、この「洗濯後に常に初期サイズに戻る」ことを前提に寸法設計されています。何度履き洗いしてもサイズが崩れない=シルエットも崩れずに長く履けるということで、「育てる」を楽しみたいデニム好きにも、街で着崩したくない街乗り派にも、地味だが効くポイントです。
ジーンズの意味が変わり、バイクとの距離も変わる

ライディングウェアの選択は、もはや「ガチ装備か、ファッション優先か」の二択ではなくなっています。
普段のジーンズと変わらない見た目で、バイク乗車を前提に再設計された「バイクデニム」は、各社が異なるアプローチで日々進化させているカテゴリー。それぞれの進化を眺めながら、自分のデニム観・ライフスタイルに合った一本を選ぶ。それが、街乗り派ライダーの新しい安全装備の入口になります。
最後に、ジーンズを知り尽くした男、ローリー青野氏は、デニムのバイクウェアの魅力を次のように熱く語りました。
(ローリー青野氏)
「ジーンズは、僕ら40代には特別な価値のあるものですが、今はコーディネートの一種で、しかもデニムって万能ですよね。バイクに乗るぞというときに、気負わなくていい。見た目はカジュアルなのに、バイクに乗るときに最適化されている。そういうジーンズが、いまはあるんです。ぜひ一度、試してみてほしい」特別な一本だったジーンズが、コーディネートの一要素に変わってきたのと並走して、バイクとの付き合い方も、もっと気軽な方向にひらかれつつあります。次に一本買い足すジーンズは、街でも、バイクの上でも、無理なく付き合える一本を選んでみてはいかがでしょうか。

















