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やらないとどうなる?バイクの健康診断

大切な愛車と長く付き合っていくためには、日々のメンテナンスが欠かせません。しかし、「点検ってどこから手を付ければいいかわからない」と戸惑う初心者や週末ライダーも多いのではないでしょうか。さらに言えば、電子制御が多く採用されている「現代のバイク」は、一昔前と構造が全く異なっており、点検の常識も大きくアップデートされています。今回は「バイクの健康診断」と題して、モータースポーツをはじめ長年の経験と豊富な知識を持つプロメカニック、モータークリニック「ストラーダ」の渡辺健氏(以下、渡辺さん)に話を聞きました。

なぜ点検するのか?

バイクは、走行距離や時間の経過とともに、各部が必ず劣化します。メンテナンスと聞くと、「自分で直さなければならない」と身構えてしまう人も多いですが、渡辺さんは「点検とは自分で修理をすることではなく、愛車の『正しい基準を知るための確認作業』である」と断言します。異常を感じたら無理にいじらず、プロに任せるのが現代の正解です。

では、点検を怠り放置すれば一体どうなるのでしょうか。例えばチェーンがたるみきって外れれば、エンジンケースを割ってしまったり、最悪の場合は後輪に絡んでロックし、命に関わる重大事故や大ケガに直結します。また、ブレーキパッドが減りすぎていることに気づかないと、制動力が著しく損なわれるだけでなく、金属の台座部分がディスクローターをガリガリと削ってしまい、結果的に高額な修理代がかかってしまいます。

しっかりと点検をする最大のメリットは、大きな安心感が得られることです。精神的に余裕が生まれるため、運転も格段に楽しくなり、結果的に安全なバイクライフへと繋がります。

昔の常識は通用しない「現代バイクの新常識」

現代のバイクを点検する上で、昔の知識にとらわれるのは非常に危険です。古い点検手法を無理に当てはめようとすると、かえって愛車を壊してしまうことになりかねません。

昔の知識の弊害

例えば、昔の感覚で「プラグ交換」を素人がやろうとすると、複雑なカバーや燃料タンクを外す必要があり、その過程で繊細なコネクターを破損させるなど、かえってトラブルの原因になりかねないため、安易に手を出さない方が良いと渡辺さんは語ります。

FI車の要は「水温」

現在のバイク、とくに近年の新車のほとんどすべてが、フューエルインジェクション(FI / 電子制御燃料噴射)を採用しています。昔のキャブレター車とは異なり、コンピューターが「冷えているときは燃料を濃く、温まると薄くする」といった噴射量を決定しています。このとき、コンピューターが判断を下す最大の基準となっているのが、人間の体温にあたる「水温(空冷の場合は油温)」なのです。つまり、冷却システムは現代バイクの心臓部と言えます。

「燃料コック」の消滅

昔から提唱されている点検の合言葉「ぶたと燃料」や「ネンオシャチエブクトウバシメ」でも必ず含まれる「燃料」についてですが、現代のバイクはFI化に伴い「リザーブ(予備)コック」が消滅しました。そのため、多くの現行車では燃料計や警告灯によって残量を把握できるようになっています。

「足元から上へ」順に見ていく新点検ステップ

点検箇所は多岐にわたりますが、渡辺さんが提唱するのは「一番下の足元から順に上に見ていく」方法です。誰でも迷わずに実践できる8ステップを解説します。

① タイヤ(空気圧と溝)

まずは路面に唯一接しているタイヤです。タイヤはゴムの分子構造から自然と空気が抜けてしまうのは避けられません。自動車に比べるとエアボリュームが少ないバイクの場合は、空気圧が減りやすい傾向にあるので、最低でも1〜2ヶ月に1回は見るべきです。できれば、エアゲージを常備しておきたいところ。エアゲージ付きのポンプでも目安はわかるので、日常点検では問題ないでしょう。空気圧は、スイングアーム付近のステッカーや取扱説明書に記載されていることが多いです。

空気が抜けたまま走ると、転がり抵抗の増加、燃費の悪化、ハンドリングの悪化を招き、押し引きが極端に重くなるだけでなく、乗り心地まで悪くなります。異常に気づく一番の方法は、「適正な空気圧が入っているときの『バイクの押し引きの重さ(転がり抵抗)』を体で覚えておくこと」です。

溝の減り具合は、タイヤ側面にある三角マークの延長線上にある「スリップサイン」を目視確認しましょう。ヒビがある場合もNGです。判断がつかなければプロに見てもらうのが確実です。

空気圧の減りが早い場合は、石けん水をエアバルブにかけてみましょう。泡が立てば、そこからエアが漏れています

② チェーン

少し上に視線を移し、駆動を担うチェーンを確認します。スイングアームのステッカーなどに記載された「規定値のたるみ(遊び)」があるか、チェーンを上下に動かして目視確認します。チェーン外側のサビは気になるものの、本当に重要なのはスプロケットの歯と直接噛み合う『内側のローラー部分』です。また、素人がむやみにチェーン清掃や給油をしようとすると、チェーンとスプロケットに指を挟み切断するような事故が起きる可能性もあるため、自信のない方は無理をせずプロに任せた方が賢明です。

③ ブレーキ

命を守るブレーキは、キャリパーの隙間から覗き込んでパッドの残量を確認します。パッドの減り具合は少しわかりづらいので、新品時や状態が良いときに、スマートフォンのカメラでキャリパーの隙間を写真に撮っておくことをおすすめします。後で見比べることで、素人でも減り具合が一目で正確にわかります。

ブレーキキャリパーの隙間をのぞき込みます。この車種のフロントブレーキは、前側からのぞき込むことで確認ができます
ブレーキは油圧によって動いています。リザーバータンクからフルードの量を確認できます。残量が少なかったり汚れていたらバイクショップへ

④ エンジンオイル

エンジン横の点検窓やレベルゲージで量を確認します。新しいエンジンオイルは「ウイスキーのような琥珀色」をしており、劣化していくと「紅茶の色」になり、最後は「真っ黒」になります。スティック型のレベルゲージの場合は、白い布などに染みこませて色を確認しましょう。オイル交換の目安は一般的に3,000〜5,000km、または半年〜1年程度がひとつの目安とされますが、必ず車種ごとの指定を確認しましょう。距離を全く走っていなくても、エンジン内の空気に触れるだけで確実にエンジンオイルは酸化していくため、定期的な交換が必須となります。

オイル量を見る際は、バイクを垂直に立てましょう

⑤ 冷却水

リザーバータンクの量を目視で確認します。水温は現代FI車のコンピューターが基準とする「最重要項目」のため、必ず神経を使って見るべきポイントです。本来グリーンやレッドの鮮やかな色をしているはずの液体が茶色く変色していたら、すぐにプロに見せましょう。

クーラントのリザーバータンクは、隠されていることも多いので説明書などで位置を確認しましょう

⑥ ガソリン

メーターの残量計を見ます。もしどうしても心配でタンクキャップを開けて直接確認したい場合は、暗いからといって絶対にライターで照らすような危険な真似(引火による大事故)はしてはいけません。

⑦ 操作系(スロットル・クラッチ・ブレーキ)

ハンドル周りのレバー類・スロットルに説明書どおりの規定値の遊びがあるか確認します。設計上必要な遊びが確保されていないと、ハンドルを直進位置で合わせたつもりでも、左右いっぱいに切った際にスロットルワイヤーが引っ張られ、勝手にエンジン回転数が上がってしまうこともあります。

また、レバーをギュッと握って離した際、スムーズに戻らなければ内部のワイヤー劣化を疑い、バイクショップへ直行しましょう。

ワイヤーの遊びは、このダブルナットで調整できます

⑧ 外装・灯火類・視界

最後に視界の確保と灯火類のチェックです。ちなみに、バックミラーやメーター周り、ヘッドライトの清掃には、ドラッグストアなどで数十円で買える「精製水(バッテリー補充液として売られている純水)」を使うと便利。水道水には不純物やミネラルが含まれており、乾くとどうしても白い跡(水垢)が残ってしまいますが、純水なら不純物が一切ないため拭き跡が全く残らず、驚くほどクリアに仕上がります。仕上げにコットンで乾拭きすると完璧です。

「バッテリーと電子制御」のリアル

最後に、現代のバイクと向き合う上で絶対に知っておかなければならないのが、電気系統の進化です。

昔のバイクは「良い圧縮、良い火花、良い混合気」の3要素が揃えばエンジンが動くと言われていましたが、その時代はとうに終わりました。現代のバイクは「電気がなければ何も始まらない」と言っても過言ではありません。

特に最近主流となりつつある軽量なリチウムイオンバッテリーは、昔の鉛バッテリーのように徐々に弱っていく(ライトが暗くなるなど)のではなく、ある日突然切れてしまう傾向があります。そのため、始動時にセルモーターの回り方(キュルルという音)が普段より鈍いと感じたり、電源がそもそもつかないときは、真っ先にバッテリーの寿命を疑うべきです。

さらに恐ろしいことに、不用意にバッテリーを外すと車体の電子設定が全てリセットされてしまうリスクがあります。車種によっては、バッテリー交換や電装系作業の際に初期化や再設定が必要になる場合もあります。

バイクの電子制御化が進み、OBD(車載自己診断機能)によるコンピューター診断が必要な場面も増えています。今や、バイクショップでさえ専用機器がないと手も足も出ない時代に突入しているのです。

だからこそ、オーナー自身は今回紹介した「足元から順に見ていく」健康診断で愛車の「基準」を知り、少しでも異常を感じたら信頼できるプロのメカニックに託す。それこそが、現代の複雑化したバイクを安全に、そして最高に楽しく乗り続けるための正解なのです。

車両点検のポイント「ネンオシャチエブクトウバシメ」|警視庁

https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kotsu/jikoboshi/nirinsha/safety_riders.files/01.pdf

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