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バイクライフに必要な安全運転とはどうあるべきか?産・官・学で議論した

一人でも多くのライダーが安全運転を心がけることで、より快適で安心できる交通環境が生まれ、私たちライダーが一層バイクライフを楽しむことができます。多種多様なモビリティが登場して複雑化する交通環境において、より安全で快適なバイクライフを過ごせる社会としていくためには、どんな取り組みや心構えが求められるのでしょうか。2024年9月12日(木)、一般社団法人日本二輪車普及安全協会(以下、日本二普協)がバイク業界における産・官・学それぞれの識者を招いて意見交換するシンポジウム『二輪車の安全運転を考える』の第3回が開催されました。今回はその模様をお届けします。

第1部:講演

今回のシンポジウムで講師として登壇したのは、神奈川県警察本部 交通部 交通総務課 課長代理の小坂直人さん(以下、小坂さん)、埼玉県立秩父農工科学高等学校 教諭の今井教夫さん(以下、今井さん)、株式会社スズキ二輪 代表取締役社長の濱本英信さん
(以下、濱本さん)、株式会社アールエスタイチ 企画部 部長の栗栖慎太郎さん(以下、栗栖さん)の4名です。それでは第1部の講演の模様をお伝えします。

【講演1】「神奈川県警における二輪車交通事故防止対策について」

神奈川県警察本部 交通部 交通総務課 課長代理
小坂直人さん

「神奈川県における二輪車の交通事故死者数は4割に及ぶなど、多くの割合を占めるのが特徴です。警察としては取り締まりや交通事故の捜査等を行っていますが、二輪車交通事故防止対策としては、二輪車のみならず相手方となる四輪車の運転者にもアプローチしていかなければなりません。

神奈川県の二輪車交通事故防止対策には3つの大きな柱があります。それは『交通安全教育』『広報啓発』『交通指導取り締まり』です。

『交通安全教育』は、交通法規を知識として身につけ、二輪車事故の実態として発生のパターンを知り、また安全走行技術を学ぼうというものです。そして安全運転を心がけようという気持ちを人の中に作り上げることを目的としています。

次に『広報啓発』。これは情報発信で、幅広い年齢層のライダーに向けての情報発信が必要です。X等SNSへのポストも届けたい相手に対してアプローチを図り、SNSを通じて大きな反響を得ることで多くの人に見ていただければと考えています。

そして『交通指導取り締まり』について、神奈川県警察ではAIでの分析を取り締まりや交通安全対策に活用しています。神奈川県警察が保有する過去の交通事故に関する統計データに加えて、気候や地形等のデータをAIに学習させて発生傾向を分析し、発生時の特徴を捉えて類似性によって将来の発生を予測するといったものです。令和3年4月から実施しています。今後も社会の変化にも対応しつつ、交通事故防止を皆様と同じ目線で推進していきたいと考えています」

【講演2】「地域と連携した交通安全」

埼玉県立秩父農工科学高等学校 教諭
今井教夫さん

「私が勤める学校において、通学方法としてバイクを使用している生徒は721名中49名で、バイクの免許取得者数(原付)は93名、免許取得率は全体の13%になります。『三ない運動』(※)があった頃はこのような数値を把握できず、安全教育もまったくできないという状況でした。それが現在は数値も把握でき、安全運転教育にも取り組めるようになってきています。

地域との連携という点においては、埼玉県の秩父地区は秩父警察署と強く連携しており、高校生が警察とともに自転車乗車時のヘルメット着用を呼びかけたり、「ゆっくり走ろう」「自転車の一旦停止を守ろう」というキャンペーンなども行っています。さらに埼玉県としての取り組みとして、自動二輪車を運転している高校生に対して交通安全意識を啓発し、交通社会の一員となる自覚や資質向上を図っています。必要な知識及び技能を習得してもらうことが目的で、高校生の自動二輪車のマナーアップ安全講習も行っています。

学校という現場での一番の課題は、やはり交通事故を防ぐということ。交通安全教育を心がけることによって技術や知識を身につけ、心の教育をしていかねばなりません。ここをしっかりやらないと運転技術が向上した際に気持ちのバランスが崩れることもあるので、重要な部分だと考えています」

※『三ない運動』
日本において1970年代後半から1990年代にかけて行われた教育運動のひとつ。高校生によるバイクの運転免許証取得・車両購入・運転を禁止するため、「(免許を)取らせない」「買わせない」「運転させない」というスローガンを掲げた日本の社会運動のこと。

【講演3】「二輪車の安全運転を考える」

株式会社スズキ二輪 代表取締役社長
濱本英信さん

「今回の講演では、テーマに繋がる3つのポイント『若年層への交通安全教育』『商品の作り込みによる安全運転』『リターンライダーに向けた安全運転努力』について話をさせていただきます。

まずは若年層への交通安全教育について、弊社では30歳未満の初心者の方々に向けた『スズキアンダー30セーフティスクール』を実施しております。参加者の平均年齢は25.4歳で、免許取得歴で見ると1年未満の方が47%と、約半数を占める状況で、『免許取得後に公道を走るのが怖く、一度も公道を走ったことがない』という人が多いのもこのスクールの特徴です。その受講者の多くが、技術の向上並びに安全運転への意識向上に繋がったという結果も得ているので、今後も継続していきたいと考えております。

『商品の作り込みによる安全運転』に関しては、ABS(Anti-lock Brake System / アンチロック・ブレーキシステム)などの電子制御装置はあくまでライダーを補助するものだと考え、走る・曲がる・止まるという二輪車の基本的な作り込みをしっかりと行って、電子制御装置がない状態でも楽しく安全に走行できることを目指して、商品づくりをしています。また、弊社ではこれまで大型車両に乗っていたライダーが体力的に厳しくなってきたお客様に向けて、ダウンサイジングすることへの抵抗をなくせるよう、体力や技量に合わせた車両選択ができる商品作りも行っています。これによってバイクライフにも余裕が生まれ、それが安全運転にも貢献できるのではないかとも考えております。

『リターンライダーに向けた安全運転努力』について、これは近年の二輪車事故の傾向とイベントで多く聞いた『もう一度バイクに乗りたいが、長いあいだ乗っていないので自信がない』という声から、リターンライダー向けの安全運転スクールの開催を検討しているところとなります。高校生からリターンライダーまで幅広い層に対して安全運転教育を行い、生涯にわたって交通事故を起こさないライダーの育成、そして安全運転を推奨する商品づくりと合わせて二輪車の交通事故を減らし、安全運転の推奨をしていきたいと考えております」

【講演4】「日本二輪市場における安全装具の重要性と普及方法について」

株式会社アールエスタイチ 企画部 部長
栗栖慎太郎さん

「二輪車の交通事故による致命傷の7割は頭部と胸部です。頭部はヘルメット着用が義務化されているので着用率が高く、あご紐の結束が大事になってくるという課題がありますが、胸部に関してはまだまだ胸部プロテクターの着用率が低く、伸びしろがあるとともに、用品メーカーとしてもライダーの安全を考える上で重要視しなくてはいけないと考えています。

弊社でも2008年から自社での胸部プロテクターの開発を行っており、2009年に全ジャケットにCPS(※1)マウントシステムの搭載をスタートさせ、2011年には日本人の体に合わせたプロテクターを開発、2015年にはCE(※2)レベル2の胸部プロテクターの男性向けモデルと女性向けモデルを登場させました。その後も新たな素材や新たなタイプの開発を行ってきましたが、胸部プロテクターの装着率はこの10年間で倍に増えたとはいえ、まだ8%程度という状況です。20年間胸部プロテクターの開発に取り組んできて、(胸部プロテクターの)装着率を上げるには製品の開発とともに環境整備も必要だと考えるようになりました。胸部プロテクターを着用しない理由を調べ、現在展開しているCPSマウントシステムを各社に供給しようという動きをはじめました。このCEマークがついていれば『確実な取り付けを保証します』という証明ですので、この考えに賛同いただいたメーカーには製品を供給しています。

我々は2030年までに『(胸部プロテクターの)装着率を現状の倍にしたい』という目標を掲げ、そのためにはCPSマウントシステムの販路拡大と胸部プロテクターの低価格化の実現を検討しています。気軽に着られるようなライディングウェアだったり、いろいろなファッションに合わせやすいデザインであることが、用品メーカーだからこそできるタッチポイントだと考え、まずは現状ライディングウェアを着ていないライダーに着用してもらう方向へと持っていこうと考えています。ライダーが考える『カッコいい』『快適』を我々の持つ技術で実現し、この問題を解決していきたいと思います」

(※1)CPS
Cyber-Physical System (サイバーフィジカルシステム)の頭文字を組み合わせた略語。現実世界(フィジカル)で収集したさまざまなデータや情報を仮想空間(サイバー)で融合させ、分析や解析を行なってから現実世界へフィードバックして最適化を図る仕組み。

(※2)CE規格
フランス語の「Conformité Européenne(英語:European Conformity)」の頭文字を組み合わせた略語。すべてのEU加盟国の安全基準条件を満たすための規格。

第2部:パネルディスカッション

シンポジウムの第2部には今回の講師陣たちによるパネルディスカッションがおこなわれました

4人の講師はそれぞれ自身の意見を発表し、業種や立場も異なるお互いの意見の交換を行いました。このパネルディスカッションで交わされた内容としては、20年前と現在との高校生のバイクに対する印象やイメージの違いをはじめ、管轄県内における高等学校での交通安全教室の実情や、安全装備を製作する側の今後の製品の方向性や展開、高校生への安全装備の推進と施策、女性ライダーの胸部プロテクター着用率の低さの原因、タッチポイントの創生における社内での発表や実施のタイミング、そして安全運転を推進する二輪車講習における新たな提案と実施などが意見として挙げられました。

安全装備の着用を推進している立場として、今後のプロテクターの方向性や展開などを尋ねた小坂さん
高校生への安全装備の推進とスムーズな着用を促す施策の実施について意見を述べた今井さん

20年前と現在での高校生のバイクに対する印象の違いについて、今井さんは

「20年前は『三ない運動』の最中で、特別な許可を得ていない生徒は隠れて乗るしかなく、罪悪感というかそういった気持ちのなかでバイクに乗っていたと考えられます。令和では二輪免許の取得やバイクへの乗車が認められ、バイクに乗ることを楽しんだうえで原付免許から二輪免許にステップアップしてツーリングに行くなど、そういうことを楽しみたいという子も増えてきています」

と話されました。

また、神奈川県内の高等学校における安全運転講習の実施について、小坂さんから

「神奈川県内の学校すべてではありませんが、一部の学校からの要請を受け、毎年白バイ隊が学校を訪れて(白バイ隊員が)生徒に安全講習等を行うという取り組みをしています」

と語られました。

神奈川県における高等学校に対しての二輪車安全運転の講習実施等の質問などをおこなった濱本さん
メーカーとして20年前と現在の高校生のバイクに対する印象やイメージの違いなどを質問した栗栖さん

タッチポイントの創生におけるスズキ二輪社内での発表や実施のタイミングについて、濱本さんは

「実態を確認したうえで社内で検討し、実施するような流れとなっています。また新たなライダー層に関しては安全の担保が必要であり、初心者向けのライディングスクールをはじめました。今後は業界の垣根を越えてコラボレーションをしていきたいと考えています」

と発言しました。

安全装備を製作する側の今後の製品の方向や展開について、栗栖さんは

「ライダーの裾野を広げてバイクライフを長く続けてもらいたいと考えています。製品に関しては、お客様が普段着ているものと違和感ない製品を目指します。ただプロテクション機能を推すだけでなく、バイクにいろいろなジャンルやカテゴリーがあるように、ウェアに関してもいろいろな選択肢というものを用意していくことが総合的な安全性の底上げに繋がるのではないかと考えています」

と述べました。

安全かつ安心して楽しめるバイクライフのために

「二輪車の安全運転を考える」をテーマとして開催された今回のシンポジウムは、二輪車の安全に関する業務に従事する交通警察、高校生教育、車両メーカー、二輪用品メーカーそれぞれの視点や取り組みを知る貴重な機会となりました。現在の二輪車の交通環境を理解したうえで「どのような取り組みが求められているのか」を二輪業界全体で話し合い、安全運転の普及啓発活動につなげていかねばなりません。この取り組みがひいては安全かつ安心して楽しめるバイクライフに結びついていくことでしょう。ライダーである皆さんが安全運転について考えるきっかけとなればと思います。

グッドマナー JAPAN RIDERS(ジャパンライダーズ)

https://www.japan-riders.jp

一般社団法人 日本二輪車普及安全協会

https://www.jmpsa.or.jp/

神奈川県警察

https://www.police.pref.kanagawa.jp/

埼玉県立秩父農工科学高等学校

https://chichibunoko-bh.spec.ed.jp/

スズキ二輪

https://www1.suzuki.co.jp/motor/

RSタイチ 公式サイト

https://www.rs-taichi.com/

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