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ライダーが日ごろ怠りがちなタイヤの状態確認:日常的な乗車前点検の重要性

過去にMOTOINFOでは、一般社団法人 日本自動車連盟(以下、JAF)ご協力のもと、バイクについてのロードサービス出動件数についての情報提供をいただいたことがあります。

JAFよりいただいた情報によると、高速道路では“燃料切れ”が、一般道路においては“バッテリートラブル”がそれぞれ最も多いトラブル(=ロードサービスの出動要請依頼)でした。しかし見逃せないのは、高速道路・一般道路とも二番目に多いのがタイヤに関するトラブルなのです。

資料提供:JAF
資料提供:JAF

こうした統計結果が公表されているにも関わらず、多くのライダーが日常的な乗車前点検を怠りがちな傾向にあり、日本自動車工業会 二輪車委員会が先般開催したメディアミーティングにおいても、タイヤの残量や空気圧チェックは意外と見落とされがちであるため、今以上に啓発が必要であるという議論が交わされました。

バイクにとって唯一路面と接しているのはタイヤです。つまり、ライダーの命を預けているのはタイヤなのです。そのくらい重要なパーツであるにも関わらず、タイヤについて注視している方が少ないということです。

そこで今回は、タイヤについて興味関心を持っていただくことで、日常的なメンテナンスにも目を向けていただくべく、『タイヤ新報』や『タイヤ年鑑』などタイヤにまつわる情報を専門的に扱うRK通信社の木本 史郎さん(以下、木本さん)にお話を伺い、進化を続けるタイヤの歴史や、タイヤに対する注意事項について解説いただきました。

ラジアル〜チューブレスと進化を続けるタイヤ

ラジアルタイヤとバイアスタイヤの構造

まず、木本さんにバイク用タイヤにおける進化の歴史について伺いました。

高速耐久性や燃費に優れるラジアルタイヤ※1は1937年ごろフランスのミシュランにより開発され世界に広がりました。

高速道路網の普及につれて、日本国内のクルマ用タイヤも1960年代後半からラジアルの生産が開始され、90年代には総生産数の75%がラジアルになり、現在ではほぼ100%を占めています。

骨格となるカーカスコードやベルトをガッチリ強固に編むラジアルタイヤは高価格でもあり、低速や悪路での乗り心地が良くて製造コストの安いバイアスタイヤ※2は今も多くのバイク用タイヤで使用されています。

またラジアル率と並行するようにチューブレスタイヤもクルマでは95%ほどと圧倒的ですが、ホイールとタイヤが空気圧で圧着されるチューブレスでは空気圧を高く保つ必要があり、やや空気圧を下げてトラクションを得るような使い方もするオフロードやトライアルなどのバイク用ではチューブタイヤもまだまだ一般的です。

※1:ラジアルタイヤ=高速走行時の乗り心地や走行安定性に優れていることから、比較的排気量が大きいスポーツバイクなどに使用されている
※2:バイアスタイヤ=大きな荷重への耐性や悪路、低速走行に優れていることから、小〜中排気量モデルなどに適している

2023年バイク用タイヤのラジアル・バイアス構成比(資料提供:RK通信社)

従って具体的な生産・販売数まではわかりませんが、国内の某タイヤメーカーの2023年版バイク用タイヤのラインアップ(種類・サイズ展開)を数えると、ラジアルタイヤが205種に対してバイアスタイヤが359種とより多く商品展開されています。主にロードスポーツ系はラジアルタイヤの割合が高く、ツーリングやオフロードモデル、スクーターなどはバイアスタイヤの割合が高いラインアップとなっています。

ラジアルタイヤとバイアスタイヤでは、モデルの用途によって特徴を発揮し、双方が両立しているようです。

バイク用タイヤの販売数はクルマ用の1/10以下

(国内・輸出)タイヤ販売本数推移 (資料提供:RK通信社)

木本さんによると、タイヤの国内市場は主に新車に装着されている“新車用”と、交換等の“市販用”2つの市場からなっているとのこと。

2022年のタイヤ販売本数の統計を見てみると、クルマの市販用販売本数は概ね新車用に比べて2倍の規模がありますが、バイクの場合だと市販用は新車用の1.3倍程度です(バイクでは冬用タイヤへの履き替え需要がないことが要因と推察)。

また、新車用・市販用の合計販売本数では、クルマ用が1億471万本に対し、バイク用は241万本と、クルマ用のおよそ2.3%にとどまります。売上規模についても、経済産業省の公表する2021年の統計を見ると、クルマ用が9,183億円、バイク用が116億円と、クルマ用の約1.3%程度となっています。

一方で輸出に目を向けると、クルマ用は3,794万本、バイク用は274万本(比率7.2%)と、国内市場用よりも輸出用の方がバイク用タイヤの割合が高くなっています。

約半世紀の国内・輸出合計の販売数推移を見ると、1970年ではクルマ用4,825万本、バイク用622万本(12.9%)となっており、クルマ用はその後2010年の1億7,410万本をピークに漸減し、2022年では1億4,266万本となっています。対してバイク用は1980年の887万本をピークに漸減。コロナ期から少し盛り返して2022年で515万本と、全体に少ない変動幅の中での推移となっています。

クルマの場合、新車への装着時も交換時も4本セットで履き替えることが当たり前ですが、バイクの場合は1本ずつ交換するケースも多いにも関わらず販売本数約500万本もあるとは驚きでした。

なぜライダーはタイヤの日常点検を怠りがちになるなのか

冒頭にも述べましたが、ライダーのなかにはタイヤの日常的なメンテナンス・点検についての意識が低い方も少なくありません。

先日、MOTOINFOがBLF関連イベントのバイク専用駐車場にてライダーを対象に行ったアンケートでも、毎乗車前にタイヤの空気圧をチェックするライダーはごくわずかでした。

「タイヤの空気圧チェックに関する意識調査」MOTOINFO編集部 2023年9月9日(単数回答 n= 47)

72%のライダーが回答した“月1回の空気圧点検”については及第点ですが、“年一回”、“タイヤ交換時のみ”、“していない”の合計が約20%、つまり5人に1人はタイヤのメンテナンスを怠りがちであるという結果が出ています。

こうした実態が先のJAFロードサービス出動要請数にも現れていることは言うまでもありません。では、なぜライダーはタイヤの日常点検について忘れがちなのでしょうか。このあたりの根本的な原因を木本さんに尋ねました。

あくまで推論なのですが、ファミリー層を含め主に家庭の必需品的な用途の多いクルマは、車検や定期点検などの制度が厳密に整備されているため、タイヤも含めたクルマの状態をプロの整備士に診てもらう機会が原則としてある程度確保されています。またクルマの好きな個人が自ら整備をするにも、車体が大きく重く、あまり手が出せないということもあります。

一方、家族の必需品というよりは個人の趣味・嗜好による使用が多いと思われるバイクは、ある程度のサイズまで車検の必要もなく、また車体もクルマよりぐっと小さく軽く身近なものですので、オイル交換などの定期的なメンテナンスを自ら行う個人の割合も高いと推察されます。その分、プロの整備士に診てもらう機会はクルマより少ないのではないでしょうか。さらにガソリンスタンドの多くがセルフ化している昨今、そうした機会はますます少なくなっているでしょう。

日々気軽に乗り出すことができるという意味でも、わざわざバイク用タイヤの状態をチェックすることはあまり行われていないのかもしれません。

そもそも点検を多く義務付けられているクルマに対し、特に車検のない排気量400cc以下のバイクの場合だと、そういった点検は購入店または個人に委ねられているほか、インターネットを使った個人売買の普及も要因のひとつかもしれません。

最後に、これから気温が下がる季節を迎えるにあたり、タイヤのケアについて伺いました。

暖かい季節はある程度ゴムの柔軟性が保たれますが、これから寒い季節になってくると、ゴムの劣化による硬化やひび割れが起きやすくなります。なるべくなら秋の行楽に出かける前、遅くとも年末年始を迎える前までには、一度バイクショップなどで愛車のタイヤの状態をプロの整備士に見てもらえると良いでしょう。

何かと見落としがちなタイヤのコンディションは、意識して乗車前に都度点検するのが一番の自衛策であることは間違いありません。旅先でタイヤトラブルにあうと、旅の続行はもちろん、仲間に迷惑をかける可能性や、帰宅できない可能性すらあります。

ライダーひとり一人が自身のために、これからの季節、乗車前のタイヤ確認を忘れないよう心がけましょう。

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