
“速いがエライ”じゃない『ライダースクラブ』が伝えたい、正しいバイクの楽しみ方
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半世紀近くスポーツライディングの楽しさを伝える老舗二輪車専門誌『ライダースクラブ』は、バイクの進化に合わせて性能をしっかり引き出すライディングのポイントを発信しています。ウェブでの情報発信が主流となる現代で、ファンにはお馴染みのRIDERS CLUBのタイトルデザイン、そして出版物というスタンスを軸に、変わらぬ取り組みを続けています。ウェブも活用しつつも基本は出版物、そしてサーキット走行会『ライディングパーティ』(以下、ライパ)を通じてライダーと交流する『ライダースクラブ』が見る二輪業界の未来について、編集長の河村聡巳氏に話を聞きました。

河村 聡巳
1965年9月3日生まれ。
25歳のときに二輪車新聞社に入社。5年在籍した後、専門誌制作への強い想いから内外出版社へ転職。『ビッグマシン』編集部、『ヤングマシン』編集部で多くの経験を積んだ後、ビッグマシン編集長に就任。内外出版社時代は編集のほか広告営業も経験した。その後、2014年に枻(エイ)出版社に広告営業として入社。本業に加えて編集業にも携わる。2020年5月『ライダースクラブ』編集長に就任。実業之日本社に移行後も編集長を務める。
今の『ライダースクラブ』とは

『ライダースクラブ』のコンセプト、誌面制作に関するこだわりや変遷などをお聞かせください。
「1978年に創刊された当初、『ライダースクラブ』は二輪総合誌という位置付けでした。私が編集長になった今の企画の方向性としては『バイクに乗ることはスポーツである』が根幹にあります。バイクは自立しない乗り物なので、それを自在に操れるようになることが醍醐味です。
サーキット走行に限らず、ツーリングや、それこそ街乗りでの交差点の右左折であっても気持ち良く曲がれたら、それはスポーツライディングだと捉えています。スポーツライディングと言っても、レースを目指すのではありません。“自分の乗っているバイクでどう楽しむか”を最大限発信することを軸に考えています。
どんなスポーツでも基礎がもっとも重要で、我流で乗るよりもプロや識者に正しく教わった方が上達への近道となります。本誌で掲載しているライディングテクニックのイロハも、サーキットで1/1000秒を刻むことを目的とはせず、“バイクでスポーツすることのヒント”となることを目指しています」
『ライダースクラブ』と聞くと、すごく攻めた走り方をする専門誌と思っていたので、印象が変わりました。
「確かに、以前の『ライダースクラブ』にはそんなイメージがあったかと思います。私が編集長に就任してから一貫しているのは、“今のバイクに正しく乗ること”です。
創刊時から考えると、バイクは大きく進化しています。それに合わせてバイクの乗り方だって変わっています。現代のバイクで安全に楽しくスポーツするためのライディングテクニックを提案しています」
安全にバイクを楽しむライパ

『ライダースクラブ』は、サーキット走行をともに楽しむイベント・ライパを開催していますが、そのコンセプトや狙いはどのようなものなのでしょうか。
「ライパは『ライダースクラブ』誌面と連動している、読者参加型のサーキットイベントです。普段スポーツバイクに乗っている人が、愛車のポテンシャルを可能な範囲で引き出すことで学びを得て、スポーツライディングする楽しさを知ってもらうことを目的としています。
誌面+リアル。これは他の紙媒体にはない、ライダースクラブの魅力だと思います。
とは言え、ライパは決してレーシングスクールではありません。タイム計測は行っていませんし、『このコースを何分何秒で走りましょう!』とか、『こうすれば何秒タイムを縮められますよ!』なんて言うこともしません。『こういう乗り方をした方が、安全に楽しく走れますよ』というアドバイスをしています。“速いがエライ”ではなく、自分のペースに合った走行ペースで、スポーツライディングを楽しんでもらうためのサーキット走行会なんです」

イベントの内容について教えてください。
「ライパは毎年4〜11月のあいだで5回ほど開催しています。開催場所は『袖ケ浦フォレスト・レースウェイ』(千葉県)と『モビリティリゾートもてぎ』(栃木県)で、定員はそれぞれ120名(袖ケ浦)と240名(もてぎ)です。有り難いことに、毎回キャンセル待ちが出るほどエントリーしていただいています」

ライパはどのような内容なのでしょうか。
「参加車両は、排気量200cc以上の市販オンロードスポーツバイクとさせていただいています。装備はレーシングスーツがベストですが、革製でプロテクターが内蔵されていればセパレートタイプでもOK。もちろんフルフェイスヘルメット、ライディンググローブ、ライディングブーツの着用は義務付けています。クラスは黄、緑、ピンクのカラー別で3つに分かれていて、黄が準ハイペースクラス、緑がビギナークラス、そしてピンクがサーキットデビュークラスになります。
昨年までは赤(ハイペースクラス)を設定していたのですが、サーキットビギナーがより気軽に参加できるよう変更しました。緑は毎回真っ先に定員に達していたこともあり、今年は、黄、緑A、緑B、ピンクの4クラスで実施します。緑を2クラス設けただけなので、A・Bに差異はありません。
ライパはあくまで初心者を対象とした走行会イベントなので、サーキットデビューする方を手厚くサポートし、サーキット走行を好きになってもらいたいと考えています。
走行スケジュールは、インストラクターが先導する慣熟走行を2回、自分のペースで走れるフリー走行を4回の計6回(それぞれ1回15分)設けていて、この他に座学やインストラクターごとのコンテンツを取り揃えています。愛車とともに、楽しく上達していただけるような内容を意識しています。フリー走行でも、希望があればインストラクターに先導してもらえます」
ライパでインストラクターを務めていらっしゃる方々は錚々たるメンバーですね。
「WGP(World Grand Prix / ロードレース世界選手権) 250チャンピオンの原田哲也さん、WGP125チャンピオンの坂田和人さんをはじめ、青木宣篤さん、中野真矢さん、そして長島哲太さんなど、ロードレース世界選手権で名を馳せた元GPライダーの方々にインストラクターを務めていただいています。また、全日本ロードレース選手権で活躍している現役ライダーをゲストに招くこともあります。普段はお会いできないようなプロライダーから直接レクチャーしてもらえるのは、参加者にとって魅力なだけでなく、この上なく価値があると思います。実際に参加者は、着実にレベルアップしています」

サーキットで走るためには、ある程度の費用がかかってしまいますよね。そのためか、ライパの参加者は自身のライディングスキルの上達を目指すマナーの良い方々だとお聞きしました。
「確かに参加費だけでなく、交通費、消耗品など何かと費用はかかります。でも、それを踏まえて、ライパはマナーを守ってくださる参加者ばかりなんです。他人の迷惑になるような走り方をする人はいないので危険性も低く、安心してライディングスキルの上達につながる流れができています。
参加車両の大半がフルカウルのスポーツバイクで、年齢層は40~50代が中心です。もちろん女性や20代のライダーの参加もあり、家族やパートナーと一緒に楽しんでいる姿もよく見かけます。ライディングスキルの上達だけでなく、気心が知れた仲間ができることから、リピーターも多いんです。5回全部に参加する方もいらっしゃいます。
新しい世代や新しい層の方々にも、“安全にスポーツライディングを楽しむ”ためのライパ、という存在を知ってもらいたいですね」
雑誌という形へのこだわり

現代のメディアにとって、ウェブやSNSは不可欠なツールとなってきました。そんな中でも伝統の専門誌を発行し続けている『ライダースクラブ』の紙媒体へのこだわりを教えてください。
「私たちもウェブの重要性は理解していて、最新モデルの試乗インプレッションの動画配信、ライパ参加者向けのライブ映像配信、YouTuberをライパに招いて配信してもらうなど、紙ではできないアプローチを図っています。
さまざまなツールが用いられる現代において、紙媒体を今なお続けているのは、確かな信頼性を持つ記事を、読者に正しく届けたいからです。
ウェブの登場で、情報収集の方法は大きく変わりました。例えばニューモデルの情報が欲しければ、検索するだけであらゆる情報がリアルタイムで手に入ります。紙媒体の発売日を待つ必要はありません。
そんな現代に読者の方々が紙媒体に求めているものは、企画と、それが信頼できるか否か、だと思っています。もちろんウェブにも、信頼性の高い記事があることは理解しています。
そのうえで必要なのが独自性です。繰り返しになりますが、だからこそ今のライダースクラブは、スポーツライディングに主軸を置いて制作しているのです。
長年専門誌を手がけてきた私たち自身は、紙媒体でもウェブ記事でも同じ緊張感を持って制作していますが、発行後に修正ができないこと、そして『ライダースクラブ』という媒体に対する読者の期待や信用の高さから、“間違ったことを伝えてはいけない”という想いを常に持ちながら制作に取り組んでいます。
特にバイクという乗り物は命に関わる部分があり、安全に楽しむためには正しいライディングテクニックを知る必要があります。その想いに則った企画と信頼性の高い記事をお届けしたい。『ライダースクラブ』という専門誌を続けているのは、私たちの意思の表れなのです」
確かに、同じ記事でも紙媒体で見るのと、ウェブで見るのとでは印象が違います。
「縦にスクロールし続けるウェブと違い、紙媒体は限られた誌面の中で“伝えたいことは何なのか”を考え抜いて表現します。企画をより印象づけるためのデザインの力が加わりますし、見せる力のひとつとして私たちは写真の美しさにもこだわっています。
企画内容を正しく伝えてくれるカメラマンによる写真の力があり、その写真をより印象づけるために紙も上質なものを用いています。プロライダーとプロカメラマン、そしてプロのデザイナーによる作品としてお届けしたいのです。
本棚に並ぶ背表紙を見て楽しむ、“コレクションする喜び”も『ライダースクラブ』が提供したい価値のひとつです」
ライダースクラブが伝えたい“バイクの楽しみ方”

『ライダースクラブ』が伝えたいバイクの楽しさ、バイクの魅力を教えてください。
「ゴルフをするならば河川敷よりもゴルフ場、テニスをするならば公園の広場よりもテニスコートというように、バイクでスポーツするならばサーキットが最適です。よく言われることですが、サーキットは一般道と違って自転車や歩行者がおらず、対向車もない。路面も綺麗に整備されているので、ライダーにとって安全な場所なんです。
安全な場所だから、一般道では発揮できない愛車のポテンシャルを、自分のスキルに応じて引き出せますし、正しく操ればバイクに乗る楽しさはさらに増すと思います。
私自身ロードレースが好きというのもありますが、『ライダースクラブ』では“バイクに乗る楽しみ”だけでなく、レース観戦の楽しさも伝えていきたいと考えています。特に若手ライダーは応援したいです。毎号誌面でもレース情報をお届けしているので、レースに興味を持ってくれるファンが増えてくると嬉しいですね。
また観戦型イベントとして、毎年シーズンオフに『ライパGP』を開催しています。ライパGPはミニバイクの耐久レースなのですが、日本を代表するレーシングライダーと、彼らのファンが一体となって真剣に遊ぶ、他にはないモータースポーツイベントです。シーズン中には決して見せない、プロライダーの素顔がそこにあるんです」
まだバイクの魅力に触れたことがない若い人たちへのメッセージをお願いします。
「バイクは生活になくてはならないものではありませんが、ひとたび乗ると本当に楽しい物なので、少しでも興味を持たれたら、どんな形でもいいのでバイクに触れてみてください。
私自身、バイクは存在そのものがカッコいいし、バイクに乗るライダーもカッコいいと思っています。信号待ちでショーウインドーに映る自分と愛車の姿を眺めたり、タンクローリーの後ろにつくと自分めがけて景色が吸い寄せられてくるかのような錯覚を楽しんだりと、バイクに乗っているからこそ悦に入れるシーンがありますよね。バイクに乗れば、誰でも間違いなくカッコよくなれますよ。
そして若い人たちにバイクに興味を持ってもらうためには、今乗っている私たち先輩ライダーが、彼らに見られて恥ずかしくない、憧れられるようなカッコいい存在でなければならないと思っています」
ライダーの幸せのための情報を届けてくれる専門誌

スポーツライディングやサーキットと聞くと、バイクに乗っていても「自分とは縁遠い世界」と考えてしまうライダーもいることでしょう。スピードの追求やレースといったイメージの強さがあり、サーキット走行に適した車種や装備、参加費などの費用と、高コストな点もハードルを上げていることは否めません。しかし、環境整備が行き届いているサーキットで、スペシャルなインストラクターと一緒に、自身の技量に合わせながら愛車のポテンシャルを引き出しながら楽しめるのがライパなのです。「バイクに乗ること自体がスポーツ。だからこそバイクでスポーツする楽しさをもっと知るために、正しい乗り方を知って欲しい」という河村氏の言葉が、今の『ライダースクラブ』を表しています。
装備からルールまで、サーキットにはさまざまな制約があります。でもそれは一般道を走るときも同様で、正しく乗るためにはサーキット同様に正しい装備、設けられたルールとマナーを守った乗り方を心がけねばなりません。ともにバイクを楽しむ者として、ライダーのためになる情報を『ライダースクラブ』は発信してくれているのです。ひとつでも上達すればバイクに乗ることがさらに楽しくなりますし、そのキッカケが『ライダースクラブ』にはあるはずです。今よりバイクライフを楽しくしたいという方は、是非お近くの書店で『ライダースクラブ』を手に取ってみてください。

RIDERS CLUB
出版社:実業之日本社
発売日:毎月27日
サイズ:A4
販売価格:1,200円
創刊した1978年以来、一貫してスポーツバイクの楽しみを探求しているオピニオン・マガジン、月刊『ライダースクラブ』。新たにリリースされるNEWモデルの紹介はもちろん、今乗っているバイクをどうしたらもっと楽しめるだろうか。そんな、今バイクに熱くなっているライダーに向けて、もっとバイクが楽しくなるライディングテクニックやカスタムマシンの紹介、グランプリ等のレース情報など、多彩な趣味的ライフを提案している、バイクを趣味として楽しむ 大人のためのバイク雑誌です。