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日本が誇るグローバル産業である二輪車産業の今後について経済産業省に話を聞いた

世界に誇る二輪車メーカーが4社も存在する日本は、世界の二輪車市場において核となる国であることは言うまでもありません。近年は世界各国からさまざまな二輪車関連企業が台頭し、電動化や水素エンジン、バイオといった代替燃料を用いた次世代バイクの開発が進みつつある状況です。

このように群雄割拠とも言える世界の二輪車市場で日本の二輪車産業が存在感を示していくには、どのような取り組みが求められるのでしょうか。日本のものづくりをアピールし、競争力強化に取り組む経済産業省(以下、経産省)製造産業局自動車課の是安俊宏氏(以下、是安氏)に、日本の二輪車産業の強みや期待するポイントについて話を伺いました。

経済産業省 製造産業局 自動車課 課長補佐(企業・流通担当)

是安 俊宏

1980年、兵庫県生まれ。

2010年に経済産業省入省。2023年より現職。二輪車をはじめ、商用車や産業車両、自動車流通(販売、中古流通)、その他個別企業対応など幅広い業種を担当。「BIKE LOVE FORUM(バイク・ラブ・フォーラム)」開催実行委員長として各年BLFの開催を牽引するなど、二輪車市場の活性化に尽力。普通自動二輪免許を保有。中小企業診断士。

新興国への進出

国民1人当たりGDP(Gross Domestic Product / 国内総生産)が3,000ドルを超えると、自動車が生活必需品化する「モータリゼーション」が到来する段階となります。アジアや南米、アフリカの新興国がモータリゼーションを迎えようとしている今、各国に日本の製品を選んでもらうべく、国際競争力を後押しする経産省として、どのような働きかけが必要になってくるのでしょうか。

「現在、日本の二輪車メーカーの車両は、世界各国で販売されており、2023年を例に挙げると、総販売台数2,560万台のうち約2,523万台(98.6%)が海外での販売となっています。この多くがインドやASEANなどのアジアの国々です。日本の二輪車産業がここまで成長したのは、過去に先人たちがさまざまな困難を乗り越え、当時新興国であったアジア諸国において二輪車市場の礎を築いてきたからです。

強みを一概に言うことは難しいですが、挙げるとすれば、過去の実績に裏打ちされたブランド力ではないかと考えられます。日本メーカーの二輪車は頑丈で壊れにくく、いつまでも長く乗り続けられるなど品質の高さについてよく聞く話ですが、世界でこれだけ支持されているのは、これまでの長い歴史の中で培われたこうした信用がブランド力につながっているのではないでしょうか。

今後、日本の二輪車産業が世界に冠たる産業であり続けるためには、既存市場だけでなく、今後市場が拡大すると見込まれる途上国へのアプローチも必要。引き続き日本の二輪車メーカーには頑張っていただきたいと思います」

次世代バイクの“あるべき姿”とは

電気、水素、バイオ燃料などの代替エネルギーを用いた次世代バイクの開発が各国で進められている中、世界市場から期待されている“次世代バイクのあるべき姿”はどのようなものでしょうか。

「我が国は、2050年カーボンニュートラルの実現、脱炭素社会の実現に向けて取り組んでいるところです。自動車において、2050年にライフサイクル全体でのCO2(二酸化炭素)の排出量をゼロにすることを目指していますが、自動車分野のカーボンニュートラルの実現に向けては、特定の技術に限定しない「多様な選択肢」を追求するマルチパスウェイ戦略が我が国の基本方針です。これらの考え方は、二輪車においても同様と考えています。

二輪車は四輪車と比べてCO2の排出量は少なく、エコな乗り物だと言われているものの、2050年のカーボンニュートラルを実現するためには、二輪車においても取り組みを進める必要があります。

また、カーボンニュートラルはグローバルな課題です。大需要国であるインドやASEAN(東南アジア諸国連合)の国々はカーボンニュートラルにおいて野心的な目標を掲げています。これらの国際情勢を踏まえると、世界をリードする我が国の二輪車産業は、国際的競争力の維持・強化の観点でも、カーボンニュートラルに取り組んでいかなければなりません。

国や地域によって利用環境や市場状況、インフラなども異なることから、カーボンニュートラル達成には様々な解決策があると考えています。例えば、四輪車の商用車では小型車両はEV(Electric Vehicle / 電動自動車)、大型車両はFCV(Fuel Cell Vehicle / 燃料電池自動車)が向いているといわれていますが、二輪車においても、原付バイクに代表されるコミューターと、排気量の大きいファンバイクでは使われ方や利用者の好みも異なることから、カーボンニュートラルへのアプローチや対策も変わってきます。電気や水素、バイオや合成燃料などさまざまな方法がある中で、技術的課題や我が国の強みというものを踏まえて、適したソリューションを検討することが必要です」

HySEがプロジェクトに用いている水素エンジン

国内二輪車メーカー4社が共同で取り組んでいる技術研究組合 / 水素小型モビリティ・エンジン研究組合「HySE(ハイス)」へ期待することは。

「水素エンジンもカーボンニュートラルを達成するひとつの解決策であり、国内二輪車メーカーの強みである内燃機関の技術を活かせるという点も大きな強みです。サイズや重量という点でも、水素エンジンは二輪車のような小型モビリティには有利です。水素エンジンのような新しい分野において、我が国の産業競争力の観点では、競争すべき部分は競争しつつも、協調出来る部分は協調していくということが必要です。

こうした観点から、HySEの取り組みは非常に意義のある取り組みと捉えており、経産省としても、HySE設立時に技術研究組合として認可しております。日本の二輪車メーカーが協力し、水素エンジンの分野でも世界をリードできるよう、引き続き研究開発を進めていただきたいと考えています」

国内バイク4メーカーが共同で取り組む水素小型モビリティ・エンジン研究組合「HySE」とは

二輪車市場へのスタートアップの新規加入

二輪車市場へのスタートアップの新規参入について、どのような流れを期待されていますでしょうか。

「二輪車は、特に内燃機関に技術の蓄積が求められる点などから、これまで新規参入は容易ではありませんでした。一方、近年の電動化の流れを受けて電動モビリティを手がけるスタートアップ企業が登場してきています。

2024年の『Japan Mobility Show 2024 – ジャパンモビリティショー』でも、電動モビリティを取り扱うスタートアップ企業が多く出展しており、私も会場でその模様を目の当たりにしました。斬新でカッコいいデザインのバイクや折りたためるバイクなど、どれも従来の二輪車の概念とは異なるものでした。スタートアップの参入によって、二輪車市場がさらに活性化することを期待したいですね」

海外でもスタートアップ企業による次世代モビリティの発展は大きいのでしょうか。

「海外では日本よりもダイナミックに変化しています。やはり電動化がキーになっており、スタートアップ企業が市場を席巻しています。従来、電動モビリティ市場といえば中国でしたが、近年では、世界最大市場のインドでも電動モビリティ市場が本格的に立ち上がりつつあります。直近の状況では、インドの電動二輪車の市場は2023年度では約86万台です。近年の日本の二輪車市場(原付含む)が約40万台なので、最近たった数年のうちに台数ベースで日本の約2倍の電動二輪車市場が形成されたことになります。

インドで電動モビリティ市場が伸びているのは、世界最大市場というパイの大きさに加え、補助金等による後押しがあるため、ビジネスとしても成立やすくなっていることも要因ではないかと考えています」

今後の日本経済で二輪車産業が担う役割とは

近年急速に円安が進みました。一方で、今後は円高になるという指摘もあります。こうした状況について、どのように捉えていますか。

「円高・円安どちらもあり、予測することは困難です。なお、二輪車に限らず一般的に『円安の方が収益を押し上げる効果がある』という話が多いですが、二輪車産業は、生産・販売ともにグローバルに行っているので、どちらに振れるかはドルだけでなくその他のアジアの通貨を含めた複雑な関数になっています。これらの結果、『円安の方が収益が増える方向に働くことが多い』という話ではないでしょうか。

国内の二輪車メーカー各社は、1980年代までの国内生産が多かったのですが、現在は海外需要に応じて、アジアやインドなどの海外生産拠点の構築・販売へとシフトしています。生産立地の戦略として生産面コストや需要地への近さなどを勘案したものですが、これ以外にも関税や現地生産比率や出資比率など、さまざまな要素を勘案してのものであり、この中に為替も入っているでしょう。

このように、メーカーはさまざまな状況を勘案し、戦略的にサプライチェーンを構築していると承知しています」

二輪車産業に期待する働きかけをお聞かせください。

「これまで内燃機関技術をはじめとする高い商品力によって、国内外の市場を開拓してきた日本の二輪車産業ですが、今は、自動車業界には、CASE(「Connected(コネクテッド)」「Automated/Autonomous(⾃動運転)」「Shared & Service(シェアリング)」「Electric/ Electrification(電動化)」というモビリティの変⾰を表す4つの領域の頭⽂字をつなげた造語)の波が押し寄せてきています。

これは、二輪車も例外ではなく、先ほど申し上げたように電動化をはじめとする顕著な変化が起きつつある中で、この変革期を乗り切れるよう官民一体となり、世界に冠たる日本の二輪車産業を守り、そして成長させていきたいと考えています。

国内の電動モビリティ市場はまだまだこれからです。産業界の皆様と力を合わせながら、引き続き世界の市場をリードし続けられるよう頑張りましょう」

官民一体となって二輪車産業を飛躍させる

国内外の情勢を常に見ながら、自国の利益に繋がる施策を考え、国内二輪車メーカー各社とともに取り組んでいる経産省の姿を知ることができました。成長を続ける世界の二輪車市場において、内燃機関をはじめとする技術力で世界を牽引してきた日本の二輪車産業がこれまで同様にリーダーとしての存在感を示していくには、これまでとはまったく異なる新しいアプローチや、スタートアップ企業が引き起こす新しい力が求められています。日本の二輪車市場のさらなる飛躍を期待しましょう。

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