【黄バイ】首都高の安全を守る黄色いパトロールバイク隊を徹底解説
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東京都内および周辺を網羅する首都高速道路(以下、首都高)のうち、2015年に開通した中央環状線「山手トンネル」は、全長約18.2キロと道路トンネルとしては日本最長を誇ります。このトンネルの安全を確保するために配備されているのが、真っ黄色なカラーリングから通称「黄バイ」とも呼ばれるパトロールバイクです。このバイクは、民間企業として初めて緊急指定を受けた赤色灯を備えるバイクでトンネル火災・事故・故障車等の緊急事態に出動し、利用者の安全を守ってくれています。今回、首都高バイク隊隊員のお話とともに黄バイについて詳しく解説します。
首都高速道路の安全を守る黄バイ
首都高バイク隊の黄バイは、民間企業である首都高パトロール株式会社が保有するバイクで、道路トンネルとして日本最長の山手トンネルの安全を確保するために2007年に運用が開始されました。黄バイは警察や消防以外で、政令によって緊急走行が認められた民間初のパトロールバイクなのです。
山手トンネル内で緊急事態が発生した場合、黄バイはその機動力を生かして迅速に現場に向かい、トンネル坑口の閉鎖をはじめ、利用者への避難誘導、初期消火活動等を行います。
首都高パトロール株式会社の役割
バイク以外にもパトロールカーや多機能レッカー車、運搬車などさまざまな車両を揃える首都高パトロール株式会社には、大きく分けて5つの役割があります。
- 首都高全線をパトロールカーで走行し、道路の異常や異変がないかを把握して安全な走行環境の確保や有事の際の処理や交通規制を実施する「巡回業務」
- レッカー車・運搬車・エアマットジャッキ車・ホイールローダーなどの特殊車両を用いて自走不能車両の牽引や横転車両の引き起こしなどを行い、道路障害を排除する「特殊車両運用業務」
- 警察等の関係機関と連携して首都高の構造保全と交通の危険防止を目的として車両諸元・総重量の計測や、車両制限令違反車両に対して措置命令や指導警告などの措置を行う「取締業務」
- 首都高本来の機能を維持するためにさまざまな機器を駆使し、収集した情報の提供や隊員への指示、警察、消防等の関係機関との連携を行う「管制業務」
- 道路トンネルとして日本最長である山手トンネルにおける安全を確保する「首都高バイク隊」
黄バイのお仕事
首都高バイク隊は現在40名の隊員によって構成され、基地は大橋・大井・志村の3拠点にあります。隊員はそれぞれの基地に2名1組、昼夜2交代制勤務で待機し、山手トンネルでの有事出動に備えています。山手トンネル内で事象が発生すると、首都高の管制室から現場直近の基地へ入る要請を受けて出動するのです。
さまざまな業務の中でももっとも重要な任務となるのが、トンネル火災発生時の対応です。18.2キロの山手トンネルで火災が発生すると、トンネル内に煙が充満してしまうのでトンネル内で足止めされた利用者の危険度が高まり、二次災害を引き起こすことにも繋がります。だからこそバイク特有の機動力を生かした迅速な初期対応が必要になります。
管制室からの出動要請を受けた首都高バイク隊はまずトンネル坑口に向かい、遮断機を閉めて新たな車両の進入を防ぎます。次に、トンネル内に残っている車両または利用者を出口まで誘導していきます。ときには初期消火を実施することもあります。ここまで行うと、後からやってくる消防・警察等と連携して引き続き対応にあたります。
首都高バイク隊はトンネル内の安全を守るため、日々有事の際のシミュレーションを行うとともに月一度の訓練に取り組んで自身の運転技術に磨きをかけています。その内容はブレーキング等の基本操作をメインとしつつ、高度なテクニックが必要となるコーススラロームなど、毎回課題を作って取り組んでいます。
そんな首都高バイク隊は、活動の範囲が山手トンネルに限られることからその存在を知る人が少ないこともあり、「東京モーターサイクルショー」や「8月19日はバイクの日 HAVE A BIKE DAY」といったバイクイベントで車両を展示するなどの認知活動も行なっています。
黄バイの装備
黄色いカラーリングが印象的な「黄バイ」の特徴は多岐に渡ります。緊急指定を受けた車両として、さまざまな装置や現場で必要な資器材も搭載された特装車です。
2024年11月にリニューアルしたバイク隊員の制服を紹介しましょう。
胸部と背中にはプロテクターを着用し、さらに上からリフレクター付きのエアバッグベストを着込みます。青い制服の肘、膝、肩にもパッドが入っています。また、ベストのフロントポケットには通信用のBluetooth子機と携帯無線機が備えられています。
首都高バイク隊が使用しているのは、バイザー付きのジェットヘルメットです。通信用のインカムを装備し、額部分にエンブレム、後頭部には首都高のジャンクションをモチーフとしたデザインが施されています。
黄バイを駆るパトロール隊員に話を聞いた
2018年5月から首都高バイク隊に勤務している荒巻さんにお話を伺いました。荒巻さんはどういった経緯でこの仕事を選ばれたのでしょうか。
「以前の仕事が自動車販売の営業職でして、クルマの販売はもちろんですが、お客様から『クルマが動かなくて困っている』と連絡をいただくことが多かったんです。そんなときに積載車に乗って伺うと、すごく感謝されまして、それで『人から感謝される仕事がしたい』と思うようになりました。雑誌やテレビで首都高パトロール株式会社のことを知り、人の役に立つ仕事であることはもちろん、バイクが好きな僕にとって首都高バイク隊の存在も大きかったです。クルマよりも機動力に秀でたバイクで迅速に現場に向かい、活躍するシーンに魅力を感じました。
首都高バイク隊に所属するには、パトロールカーなどでの通常パトロール業務を2年経験せねばならないのですが、入社当初から私は首都高バイク隊への希望を出していました。首都高バイク隊の訓練の見学にも参加していて、そんな取り組みを評価してもらえ、晴れて首都高バイク隊の一員になれたのです」
念願かなって首都高バイク隊の一員となった荒巻さんに、バイク隊員の日々の業務について伺いました。
「就業開始は8時45分で、9時になると大橋基地待機以外は大井基地・志村基地それぞれの配置場所に向かってバディ(相勤者)と移動します。管制室からの指示があるまでは、書類整理や火災発生時のシミュレーション、マニュアルの確認をバディと行います。平日の朝早い時間帯や大型連休時などの交通量が多い時期は特にそうですが、いつ出動要請がかかるか分からないので、常に万全の態勢で待機することを心がけています」
隊員になってから「バイクとの向き合い方」は変わりましたか。
「安全運転への意識が大きく変わりましたね。交通事故の現場に立ち会うようになり、それまで気づかなかった日常に多くの危険が潜んでいること、そしてバイクだとひとつの事故で重症になることを改めて知りました。バイクは楽しくて便利な乗り物ですが、その楽しさは安全運転ができてこそだと考えるようになりました。
あるとき、サイレンを鳴らして赤色灯をつけて緊急走行していたのですが、利用者に気づいてもらえずヒヤッとすることがありました。月一回の訓練では、『一般車両が気づいていないかもしれない』ことを想定してトレーニングするようになりました。実際の出動時には高度なライディング技術が求められることはありませんが、技術を高めれば視野も広がって余裕ができるので、安全な業務遂行のために日々勤しんでいます」
首都高バイク隊に求められるのはどのようなものでしょうか。
「冷静な判断力と迅速な決断力だと思います。バイクは機動力が高く、どんなときでも最初に現場に着きます。その際にまず『どの情報を共有しなければいけないか』を把握し、『どうすればそれを解決でき』、『その後の交通の障害を減らすことができるか』まで考えなければなりません。これを一人で判断する場面もあるので、常に最善の方法を導き出すためのシミュレーションを行っています」
緊張感が漂う日々を過ごしている荒巻さんの、普段のバイクでの過ごし方はどのようなものなのでしょうか。
「3年前までホンダ CB1300に乗っていました。休日にはパトロール隊のバイク仲間とツーリングに行ったりしていました。今はバイクを所有していないのですが、首都高バイク隊での業務でライディング技術が上がってきているので、いろいろなバイクに乗ってみたい気持ちになっています。今度はまた違ったバイクで走りに行きたいですね」
黄バイが展示された『8月19日はバイクの日 HAVE A BIKE DAY』に、荒巻さんもお越しになられていたそうです。
「イベント会場でいろんな方とお話ししたのですが、首都高バイク隊の存在がまだまだ世間の方々に認知されていないのだと感じました。イベント出展という形で参加することで、首都高のパトロールという形でバイクが社会の役に立っているんだと、バイクの活躍を広めていく機会にしていきたいですね」
バイクライフを楽しむライダーの皆さんにメッセージをいただけますでしょうか。
「首都高は複雑なジャンクションがあってカーブも多く、スピードを出してカッコよく走りたいという方もいらっしゃるかもしれませんが、実はゆっくり安全に走っても楽しい道路です。都会の中を縫うように作られているので、次々と景色が変わっていくさまを見られて面白いんですよ。自分のため、周りの人のためにも安全な速度でバイクを楽しんでください」
安心して走れる環境づくりのために
バイクの機動力を最大限に生かして有事の際に現場にいち早く駆けつけ、私たちを災害から守ってくれる民間初の緊急指定を受けた「黄バイ」は、今日も山手トンネルをはじめとした首都高の安全確保に努めてくれています。私たちも安全運転を心がけて、首都高バイク隊とともに安心してバイクで走れる環境づくりに協力しましょう。