
警察・学校・メーカーが考えるバイクの安全運転
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安全で快適なバイクライフを楽しむには、一人ひとりが安全運転を心がけることに加え、事故を減らすための環境や仕組みを社会全体で考えていくことが欠かせません。一般社団法人日本二輪車普及安全協会(以下、日本二普協)は、2022年から「二輪車の安全運転を考える」をテーマとしたシンポジウムを毎年開催しています。
2026年9月10日(木)に開催された第5回シンポジウムでは、警察、教育、二輪車メーカー、タイヤメーカーという異なる立場から4名の講師が登壇しました。それぞれの視点から、二輪車の安全について何が語られたのでしょうか。当日の講演とパネルディスカッションの模様をレポートします。
「二輪車の安全運転を考える」第5回シンポジウム
会場となった東京・渋谷の東京自動車サービス健保会館には、二輪車の安全に関わるさまざまな分野の関係者が集まりました。
開会に先立ち、日本二普協の荒井氏が開催趣旨を説明しました。

「第一回の開催以降、様々な分野で二輪車の安全に関する業務を担当されている方々を講師にお招きしています。それぞれ違った分野・方向から二輪車の安全に関する講義をいただくことで、講師、聴講者双方の安全に関する知見を共有し、各分野に生かしていただきたい」

続いて、日本二普協 専務理事の髙橋 亮氏が開会の挨拶を行いました。「ライダーの皆様が末永く、より豊かなバイクライフを送っていただけるよう、安全・安心・快適・楽しさという4つの観点で日々の取り組みを行っている」と協会の活動方針を紹介し、「このシンポジウムを通じて安全啓発活動を関係団体が連携したものへと昇華させ、社会のより多くの人の目に留まり、行動変容につなげていきたい」と語りました。

同シンポジウムは、2026年度から「二輪車安全運転推進運動の一環」として新たに位置づけられました。構成は、警察・教育・二輪車メーカー・タイヤメーカーという異なる立場から4名の講師が登壇する第1部の講演と、休憩を挟んでの第2部のパネルディスカッション・質疑応答の2部制。多角的な視点から安全運転を考える内容となりました。
登壇者一覧
| 所属・役職 | 氏名 |
| 茨城県警察本部 交通部交通総務課 管理官(茨城県警視) | 山田 洋史氏 |
| 山梨県立巨摩高等学校 | 教頭 小澤 幸生氏 |
| ヤマハ発動機株式会社 品質保証本部品質統括・品証部 安全普及グループリーダー | 中嶋 真澄氏 |
| ブリヂストンタイヤソリューションジャパン株式会社 | 佐藤 潤氏 |
講演1:山田 洋史氏(茨城県警察本部 交通部交通総務課 管理官)

山田 洋史氏は茨城県警察本部交通部交通総務課の管理官を務めています。県内の警察署勤務などを経て、現在は交通事故抑止に向けた高齢者対策、自転車・小型モビリティ対策、飲酒運転対策など、交通安全対策全般を統括しています。
なお、昨年の第4回シンポジウムには千葉県警察本部が登壇しましたが、今回は茨城県警察本部からの登壇となりました。
山田氏は「二輪車の安全運転を考える」という今回のテーマに沿い、自転車も含めた広い意味での二輪車を対象とした交通安全対策について、次のように語りました。
「私が勤務する茨城県の人口は約280万人で全国11位、北関東の中では最も人口が多い県です。道路の総延長距離は北海道に次いで全国2位と道路網は整備されている一方、公共交通機関は十分とは言えず、人口1000人当たりの自家用乗用車保有台数は約714台で全国3位です。一方で、茨城県は交通死亡事故が多い県でもあります。過去10年間の人身事故発生件数は平成28年以降令和3年まで減少した後、ほぼ横ばいで推移しており、昨年(令和7年)は6,162件、死者数は82人で全国ワースト10位でした。原付・自動二輪の人身事故は昨年440件発生し、11人が死亡しています。
二輪車は四輪車の約6倍、重大事故につながる確率が高くなります。茨城県内の過去5年間のデータでは、四輪車の死傷者約28,000人のうち死者・重傷者は約1,400人で死亡重傷率4.9%。これに対し二輪車の死傷者は約2,000人のうち死者・重傷者は約560人、死亡重傷率は約30%に達します。過去10年間に二輪車事故で亡くなった144人のうち46人がツーリング中でした。ツーリングというと、非日常感や開放感で気分が高揚し、安全運転への意識が低くなってしまう瞬間があるかもしれません。いつもの運転と変わらない、あるいはそれ以上に安全運転を意識していただきたいと思います。
こうした実態を踏まえ、茨城県警では『交通安全かわら版』の学校・企業・自治体への配布などの広報啓発活動と、いわゆる旧車会による爆音バイクへの対応など厳正な交通指導取締りの両面から対策を進めています。
さらに、2026年に施行された交通関係法令の改正についてもご紹介します。7月21日には危険運転致死傷罪に関する改正法が施行され、飲酒類型では呼気1リットルあたり0.5ミリグラム以上などの数値基準が設けられました。また高速度類型についても、道路の最高速度に応じた数値基準が明確化され、ドリフト走行やウイリー走行など、殊更にタイヤを滑らせたり浮かせたりする危険な走行も新たに対象となりました。
また9月1日からは、中央線などがない生活道路を中心に、自動車の法定速度が時速60キロから時速30キロへ引き下げられています。これまでと同じ感覚で運転することがないよう、十分注意していただきたいと思います」
茨城県内の二輪車事故の実態や相次ぐ交通関係法令の改正を紹介した山田氏は、ツーリング時も普段以上に安全運転を意識することの重要性を強調しました。また、近年増加している「ペダル付き電動バイク」や、2026年4月1日から16歳以上の自転車利用者に導入された交通反則通告制度、いわゆる青切符についても触れました。
講演の最後には、10月10日・11日に茨城県ひたちなか市の安全運転中央研修所で開催される「全国白バイ安全運転競技大会」も紹介され、一般来場が可能であることが案内されました。
講演2:小澤 幸生氏(山梨県立巨摩高等学校 教頭)

小澤氏は山梨県立巨摩高等学校の教頭を務めています。令和5年度から3年間、山梨県教育庁特別支援教育児童生徒支援課で児童生徒支援を担当し、いじめ・不登校対応や未然防止施策、学校と警察のパートナーシップ協定、交通安全に関わる業務に従事し、本年度より現職に就任しています。
昨年の山梨県立北杜高等学校に続き、今年も同じ山梨県内の巨摩高等学校からの登壇となり、県内での安全運転教育の広がりを示す形となりました。
小澤氏は、巨摩高校の概要やバイク通学の実情、生徒・保護者へのアンケート結果などを交えながら、次のように語りました。
「本校がある南アルプス市は山梨県の西側に位置し、美しい自然に囲まれた地域です。本校は大正11年に県立第三高等女学校として設置され、令和4年に創立100周年を迎えた伝統校で、生徒の95%が南アルプス市内から通学しています。
本市には電車の駅がないため、生徒の通学方法は自転車が66.2%、バイクが6%を占め、バスの12%や徒歩の4.5%を合わせても、自転車・バイクでの通学者が7割を超えています。こうした事情から、本校ではバイク通学について許可制度を設けています。年2回、4月と9月頃に許可を行い、学校から直線距離で5.5キロ以遠の生徒を原則の対象としています。登校時間は他の通学生の安全も考慮して8時15分までとし、車両は改造禁止、カブまたはスクーター型限定とするなど、安全を重視した校則を敷いています。免許取得は通学利用とセットで許可する仕組みです。
校内では、隣接する小笠原教習所の指導員による安全運転講習会を年2回実施し、一本橋、ブレーキング、スラローム、交差点右折など実技訓練を行っています。また、保護者の協力も得ながら年3回の『通学時マナー運動』を実施し、街頭で自転車・バイクへの注意喚起を行っています。今年度は4月時点で自転車事故が4件(前年同期5件)、バイク事故・違反はいずれも0件でした。
今年4月の通学許可者9名を対象にアンケートを実施したところ、通学理由は時間短縮や家族の送迎負担の軽減が大半を占め、一部には女子生徒の不審者対策としてバイク通学を選んだご家庭もありました。バイク購入時は家族・知人からの譲り受けが多く、新基準原付や中古車の購入へのこだわりはあまり見られませんでした。『免許取得と通学許可をセットにする校則』については、生徒・保護者ともに概ね理解を示していただいている一方、5.5キロ圏内の制限を見直してほしいというご意見も一部にありました。私たちとしては、安全が第一という考えのもとで規定を設け、指導しています。
7月1日から9月30日までの3カ月間、自転車・バイクの事故・違反ゼロを目指す『交通事故違反ゼロ3カ月運動』にも取り組んでいます。本校では横断幕の掲示、生徒生活委員会による校門での呼びかけ、職員9チーム・生徒8チームでの『セーフティートライアルチャレンジ123』などを行っています。県内の特別支援学校を含む約40校では、交通安全ポスターや標語の募集、校内放送での注意喚起、PTAによる街頭指導、警察署と連携した講話など、各校が特色ある活動を展開しています。
本県では令和5年度から自転車通学時のヘルメット着用を義務化しています。生徒が安全安心について主体的に、仲間とともに協働的に、体験を通して自分のこととして学ぶ機会を充実させることが大切だと考えています。家庭や警察をはじめとする関係機関との連携を継続しながら、校則づくり、いわゆるルールメイキングに生徒自身が関わる取り組みも支援していきたいと思っています」
巨摩高校での通学許可制度や安全運転講習、生徒・保護者へのアンケート結果を踏まえ、生徒自身が安全安心について主体的に考え、仲間とともに学ぶ機会づくりの重要性を強調しました。
講演3:中嶋 真澄氏(ヤマハ発動機株式会社 品質保証本部品質統括・品証部 安全普及グループリーダー)

中嶋氏はヤマハ発動機株式会社の品質保証本部品質統括・品証部で安全普及グループリーダーを務めています。コーポレート品質保証部安全普及グループのリーダーとして、日本およびASEAN地域における交通事故分析や交通安全研究を推進するとともに、ASEAN地域を中心とした国際的な交通安全プロジェクトや、日本自動車工業会・自動車技術会などの委員活動を通じて、産学官連携による交通安全活動に取り組んでいます。
昨年は本田技研工業、今年はヤマハ発動機からの登壇ということで、二輪車メーカー各社の取り組みを示す形となりました。
中嶋氏は「二輪車の安全を考える ヤマハ発動機の安全ビジョン」と題し、次のように語りました。
「本日は『二輪車の安全を考える ヤマハ発動機の安全ビジョン』と題し、弊社が事業部の立場ではなくコーポレートとして取り組む安全推進の考え方をご紹介します。
世界保健機関(WHO)の報告によると、世界の交通事故死者数は2010年の約125万人から2021年には約119万人へと5%減少した一方、二輪・三輪車の死者はこの間に約30%増加し、2021年時点で35.3万人、全死者数の約30%を占めるまでになっています。背景には、ASEANなど二輪車が生活に不可欠な交通手段となっている地域での若年ライダーや配送ライダーの増加があり、スマートフォンを使用した『ながら運転』の罰則強化が世界各国で進められている状況もあります。一方、日本では高齢ライダーの増加が課題で、事故発生時の受傷リスクや、年齢にかかわらず生じる認知機能・バランス感覚の低下への目配りが必要です。四輪車ではサポカーなどの運転支援技術が普及しつつありますが、車載センサーには検知の限界があり、事故ゼロに近づけるには通信技術を活用して死角の車両も検知する『コネクテッド』の取り組みが重要になると考えています。
弊社は『世界の人々に新たな感動と豊かな生活を提供する』という創業以来の経営方針のもと、2022年11月に『人機官能×人機安全』を掲げる安全ビジョンを社外公表しました。1960年代の開発現場で使われていた、人と機械を高い次元で一体化させることにより人の喜び・幸福を生み出すという『人機官能』の考え方に『人機安全』を掛け合わせたもので、足し算ではなく掛け算である点がポイントです。どちらかがゼロなら全体もゼロになってしまうという意味で、両方を高い次元でバランスさせることが大切だと考えています。安全方針は『技術』『技量』『つながる』の3つを軸に、ユーザーが楽しみながら能力を高めることで得られる喜びや感動を提供し、お客様とともに事故のない社会を目指すというものです。弊社初の二輪車『YA-1』の広告にあった『優美なスタイル・素晴らしい性能・安定した操縦性』という言葉にも、創業当初から人機官能×人機安全の思想が表れていると捉えています。
欧州5カ国の921件の事故事例を分析したところ、二輪車の事故は、ライダー側の認知・判断・操作ミスだけでなく、四輪ドライバー側の認知・判断ミスも要因となっており、二輪車側の対策だけでは事故ゼロは実現できないことがわかっています。また、事故発生から衝突までの時間を分析したデータでは、約7割が衝突の1〜2秒前という短い時間内で急速に進行していました。
こうした事故実態と二輪車の特徴を踏まえ、弊社では運転アシストの考え方を『被害抑止・防衛アシスト』『危険予知アシスト』『緊急回避アシスト』『被害低減』という4つの視点に整理しています。ESS(エマージェンシーストップシグナル)などのITS技術、走行環境データを活用して夜間や悪天候時の危険を予測する技術、ABSなどの緊急回避技術に加え、車両同士が通信して衝突を回避する協調型交通システム、マトリクスLEDヘッドランプ、前方車両との車間距離やサスペンションを制御するクルーズコントロール、死角の車両を検知するブラインドスポットアシストなどに取り組んでいます。三輪モデル『Tricity300(欧州仕様)』にはエアバッグも搭載しました。エアバッグがあるからヘルメットが不要というわけではなく、あくまで併用することでリスクを下げるための技術だとご理解いただければと思います。
弊社は『技術』『技量』『つながる』の3本柱で事故抑制に取り組んでいますが、ヤマハ発動機だけでは事故ゼロは達成できません。四輪ドライバーへの交通教育や、社会全体での規範醸成にも、ぜひ皆様のお力をお借りしたいと思っています」
世界の二輪車事故の実態や自社の安全ビジョン、開発が進む運転アシスト技術を紹介した中嶋氏は、メーカーの技術開発だけでなく、社会全体での安全運転への理解が不可欠であると訴えました。
講演4:佐藤 潤氏(ブリヂストンタイヤソリューションジャパン株式会社)

佐藤氏はブリヂストンタイヤソリューションジャパン株式会社に所属しています。ブリヂストンタイヤ東京販売株式会社へ入社後販売促進業務を担当。平成14年のブリヂストンモーターサイクルタイヤ株式会社発足に伴い販売担当課長に就任し、その後販売部長、販売本部長を歴任しました。平成29年に執行役員、平成30年に代表取締役社長に就任し、現在のブリヂストンタイヤソリューションジャパン株式会社への統合までの7年余りを務め、令和7年に同社常務執行役員に就任、本年役員を退任しています。
昨年はJAF(ロードサービス)の立場からの登壇があり、今年はタイヤメーカーが登壇することとなり、二輪車の安全を考える視点の広がりを象徴する顔ぶれとなりました。
佐藤氏は、タイヤの点検や空気圧管理の重要性について講演しました。
「弊社は2023年から、ビギナーライダー向けイベント『グッドライダーミーティング』に参画しています。コロナ禍の3年間で新たにオートバイに乗り始めた方が急増した一方、多くがソロツーリング中心となり、先輩ライダーや販売店から大切な知識を十分に引き継げないままバイクを降りてしまったのではないかという懸念がありました。そこでタイヤメーカーとして、偏摩耗したタイヤの展示などを通じ、空気圧不足が操縦安定性を損なうことをお伝えする活動を続けています。
点検のタイミングも大切です。乗る前(出発直前)に空気圧を点検するのでは、実はもう遅いのです。毎日乗っている方は徐々に空気が抜けていることに気づきにくく、逆にツーリング前夜にチェックして釘などの異物を見つけても、その場で対応するのは難しいものです。走行直後はタイヤが温まって内圧が上昇するため、目安として200キロパスカルが約220キロパスカルまで上昇しますので、正確な値を測るには冷えた状態、いわゆる冷間時に測定する必要があります。
オートバイは前後とも『名刺1枚分』程度の面積でしか路面に接地していません。タイヤは安全なライディングを支える非常に重要な部品です。近年の製品では、突発的なウェット路面でも十分な排水性能を発揮できるよう、溝のデザインが改良されています。タイヤサイズを変更する際は、荷重指数やスピードレンジが車両に見合っているかを必ず確認していただきたいと思います。
点検のポイントは大きく4つ。1つ目は外観で、紫外線や保管環境によるクラックやオゾンクラックがないかを確認します。2つ目はスリップサインで、残り溝0.8ミリが法定の使用限度です。3つ目は空気圧で、自然に月5%程度抜けるため月1回程度の点検と、同一のエアゲージの使用をおすすめします。4つ目はチューブレスバルブ。ゴム製ですのでタイヤ交換時に同時交換することが望ましいです。多くの車両メーカーの取扱説明書には、法定の使用限度よりも早い段階でのタイヤ交換を推奨するウェアインジケーターの基準が記載されていますので、ぜひご自身の車両の取扱説明書を確認していただきたいと思います。
タイヤの経年劣化にも注意が必要です。ゴムに含まれる老化防止剤は3年ほどで枯渇し、その後は表面が硬くなっていきます。溝が残っていても、ゴムが硬化すると制動性能が落ち、止まれるはずが止まれなくなる危険があります。保管環境にも注意が必要で、エアコンの室外機の近くに置かれたタイヤは高温の影響で劣化が進みやすく、長期間同じ場所に接地したままのタイヤはその部分にクラックが入りやすくなります。タイヤには使用期限が明記されていません。安全に管理していただくのは、ライダー・ドライバーの気持ち一つだと思っています。
私たちは毎年全国でサーキットでの走行会やライディングレッスンを開催していますので、安全に経験値を積む機会として、ぜひ活用していただきたいと思います」
タイヤの点検ポイントや経年劣化への注意を促した佐藤氏は、日頃からタイヤを点検する習慣が安全なバイクライフにつながると強調しました。
立場を超えて考える、これからの二輪車安全

第2部では、モデレーターを中心に4名の講師が登壇し、第1部の講演内容を踏まえたディスカッションと、会場からの質疑応答が行われました。
第1部の講演を受け、山田氏は交通指導取締りについてこう振り返ります。
山田氏「交通指導取締りのための取締りではなく、事故を起こさないための取締りをやっていかなくてはならないと改めて感じました。各地の事故発生状況を分析し、その結果を踏まえた適正な取締りを進めていきたいと思います」
続けて小澤氏が特に印象に残ったと挙げたのは、佐藤氏によるタイヤ点検の話でした。
小澤氏「乗る前よりも乗った後の点検が大事というお話や、販売現場でのお客様対応を踏まえたタイヤの管理方法のお話は、足元からという視点で非常に参考になりました」
この感想を受け、佐藤氏は高校生に向けて次のような提案をしました。
佐藤氏「部活動で使うスポーツシューズの減り方を生徒さん同士で見比べるのと同じように、通学用バイクのタイヤの減り方を生徒さん同士で見合う機会を作ってみてはどうでしょうか。月1回、学校で空気圧点検ができたら素晴らしいと思います。空気圧ゲージやコンプレッサーがあれば十分可能です」
世界と日本の違い

話題は各国の交通事情の違いへ。世界各国で交通安全活動に携わる中嶋氏は、ASEAN地域の特徴として「二輪車の絶対数」と「交通ルールの浸透度」を挙げました。
中嶋氏「大きな違いとしては、まず絶対数が違います。ASEAN地域などでは車両間の距離が近く、二輪車利用者の絶対数も多いのが実情です。免許制度はあっても交通ルールが十分に守られていない国も多く、一部の都市ではバイクを対象にしたカメラでの取締りが行われている例もあります」

この説明を受け、山田氏は日本で運転する外国人ライダーの課題を指摘します。
山田氏「外国のルールはわかっているが、日本のルールがわからずに運転し、事故や違反を起こしてしまうケースがあります。保険制度への理解不足も課題です。実際、ペダル付き電動バイクに関する昨年の交通違反検挙数は約90件、今年8月末時点の速報値で約40件に上り、そのうち9割以上が外国人で、無免許運転が最も多くなっています。こうした状況を踏まえ、外国人ナビゲーター制度などを通じた交通安全教育にも取り組んでいます」
高校生の安全教育とヘルメット着用率

山梨県で高校生の自転車用ヘルメット着用が定着している背景について、小澤氏は教育委員会、学校、家庭それぞれの取り組みを挙げました。
小澤氏「県内で高校生の自転車事故が多く、自転車通学中に四輪車の事故に巻き込まれ重症化する事例もあったことから、山梨県教育委員会が主体となって早くから県立学校でのヘルメット義務化を進めてきました。現在は職員による毎朝の校門指導、生徒指導部による節目の集会での呼びかけ、中学校段階からの着用習慣の引き継ぎ、保護者の理解などが重なって定着していると感じています」
プロテクターなどの装備について

ヘルメット以外の装備についても議論が及びました。小澤氏によると、巨摩高校ではグローブについて一定の条件を設けて指導しているものの、胸部プロテクターは必須としていません。これを受け、佐藤氏は胸部プロテクターの重要性と、学校・教習所・業界が連携した安全教育を提案しました。
佐藤氏「頭部の事故の次に、胸部の損傷で亡くなる方が多いと言われています。二輪業界では胸部プロテクターの着用を推奨しています。隣接する教習所と連携して、卒業までに普通二輪免許を取得できる仕組みを作れないでしょうか。タイヤの話をしに来てほしいと言われれば、喜んで伺います」
高齢ライダーへの安全啓発
議論は若年層から高齢ライダーへと広がります。中嶋氏が重要だと指摘したのは、本人への安全教育だけでなく、家族を含めた働きかけでした。
中嶋氏「もちろん高齢ライダーに向けての安全教育は大事なのですが、教習でしっかりお伝えしても、教習を出た後に行動が変わらないというのが悩ましいところです。本人だけでなく、ご家族の関わりを通じた行動変容が大事なのではないかと考えています」
山田氏も警察の立場から、認知機能や判断能力の低下と家族との対話の重要性に言及しました。
山田氏「二輪車に限らず四輪車も含めて、高齢層では認知機能・判断能力の低下があります。二輪車の事故は一瞬で起こりますので、あっと思った時にはもう起きているという短い時間で発生しやすいのです。ご家族内での対話を促すとともに、必要に応じて運転免許の自主返納についても話し合っていただきたいと思います」
今後の安全技術
安全技術の将来像については、「二輪と四輪の連携」が議論のテーマとなりました。中嶋氏は、さらなる事故削減にはコネクテッド技術が重要になるとの見方を示します。
中嶋氏「その流れになっていると思います。欧州では四輪と二輪のコンソーシアムが別々に活動していたものが統合する動きもあります。先進国では死者数がすでに一定水準まで減少している中、さらなる削減にはコネクテッド技術への期待が大きいのが現状です。二輪車への安全装備については、四輪車に比べて車両にかけられるスペースや構造上の制約が大きく、エアバッグのような技術も車種によって搭載の難易度が異なります。諦めているわけではなく、新しい素材や構造の研究を日々進めています」
続いて、二輪車の視認性向上とデザイン性の両立についても議論が及びました。
中嶋氏「デザイン性との両立は二輪車業界にとって重要な要素です。反射板などの物理的な対策よりも、コネクテッド技術による解決に期待しています」
会場からの質疑応答
続く質疑応答では、自転車の交通ルールの周知方法や、中央線のない生活道路における時速30キロ規制の運用などが議題となりました。茨城県に多い広域農道など、実態に合わない規制への対応について、山田氏は次のように説明しました。
山田氏「広域農道の30キロ規制についても、警察署で各道路の調査と実態調査を実施しています。中央線のない道路は法定速度が時速30キロとなりますが、標識などで指定された道路については30キロ規制の対象にはなりません。そうした実勢・実態に合わない道路については、常に警察署から情報を吸い上げて調整しており、例えばここは30キロには適さないという道路があれば、時速50キロ規制に変えるといった取り組みも実施しています。今後も住民の皆様の声を聞きながら、そうした道路があれば適正に対応していきたいと思います」
登壇者からのメッセージ

最後に、各講師から一言のメッセージがありました。
山田氏「これから秋になり、日没時間も早まります。皆さんもくれぐれもライトの早め点灯と交通安全ルールの遵守をお願いします。横断歩道の手前では必ず歩行者を優先していただくとともに、反射材を必ず身につけるよう、皆さんから率先して呼びかけていただき、事故防止に努めていきたいと思います」
小澤氏「自転車やバイクで通学する高校生が県内には非常に多いことから、警察の交通課の方に来ていただき、生徒や指導主事を対象にご説明いただいたり、茨城県と同様、本県でも警察の方に高校生へ直接講義していただく機会をほとんどの学校で設けています。今後も、各関係機関・団体の方々や、地域の方々、メディアの方々を含め、様々なご意見をいただきながら、より良い安全教育に努めてまいりたいと思います」
中嶋氏「事故ゼロは、皆さんに共通する目標であると思います。弊社は先ほどご紹介した安全事業に特化して、事故ゼロに向けたさまざまな取り組みを進めていきます。ただ、ヤマハだけでは事故ゼロは達成できません。いろいろな方、関係者の皆様と協力しながら、事故ゼロを目指して頑張っていきたいと思っています」
佐藤氏「タイヤは命を乗せているということ、そしてタイヤを変えれば走りが変わるということを、改めてお伝えしたいと思います。二輪車も四輪車も自転車も、目的に合わせたタイヤを選んでいただいて、安全に楽しく長く乗っていただきたいと思います」

閉会にあたり、日本二普協 常務理事の江原 伸一氏が挨拶を行いました。
江原氏「本日はお忙しい中、当協会のシンポジウムにご参加いただきありがとうございました。とりわけ講師の皆様には、二輪車の安全運転に関する様々な知見をご紹介いただき、誠にありがとうございました。二輪車ユーザーが楽しく快適なバイクライフを送るには、やはり安全運転がその根幹となるものと考えております。その意味で、今回のシンポジウムが一つのきっかけとなれば幸いです。当協会は二輪車の業界団体として、今後とも二輪車の安全安心に向けた各種活動を最重要課題として取り組みを展開してまいります」
警察、教育現場、二輪車メーカー、タイヤメーカーという4つの異なる立場から語られた今回のシンポジウム。それぞれのアプローチは異なりますが、事故を減らすにはライダー一人ひとりの意識だけでなく、交通ルールの周知や教育、車両の安全技術、そして日頃の点検まで、多方面から取り組んでいく必要があることが浮かび上がりました。
パネルディスカッションでは、コネクテッド技術による二輪車と四輪車の連携、学校でのタイヤ点検の習慣化、外国人ライダーへの交通ルールの周知、高齢ライダーと家族との対話など、具体的な課題とアイデアも示されました。安全なバイク社会は、誰か一人、どこか一つの組織だけで実現できるものではありません。立場を超えて知識や経験を共有し、それぞれができることを積み重ねていく。その重要性を改めて感じさせるシンポジウムとなりました。

















