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初心者が最初に身につけるべき「安全確認の型」とは?

免許を取ったばかりの人、これから教習所に通う人にとって、バイクはわからないことだらけです。装備は何を揃えればいいのか、乗る前に何を見ればいいのか、走行中は何に気をつければいいのか。これらを一つひとつバラバラに覚えるのではなく、毎回同じ手順で確認できる「型」として身につけておけば、落ち着いてバイクを楽しむことができます。今回は、モータージャーナリストであり、KRS(柏秀樹ライディングスクール)を主宰する柏 秀樹氏(以下、柏氏)に取材。初心者が最初に押さえておきたい「安全確認の型」を、装備・乗車前点検・姿勢・走行中の4つに分けて解説します。

モータージャーナリスト・KRS柏秀樹ライディングスクール代表

柏 秀樹氏

40年以上にわたって二輪の世界を第一線で走り続けてきたモータージャーナリスト。パリ・ダカールラリーをはじめとする過酷なレースを自ら経験し、その知見をもとに「KRS:柏秀樹ライディングスクール」を主宰。オンロードからオフロードまで、ビギナーからベテランまで、幅広いライダーに独自のライディング理論を伝えています。

柏氏の指導の根っこにあるのは、「速さ」ではなく「安全に、楽に、長く乗り続けること」。物理法則や身体のしくみに基づいた合理的なアプローチで、多くのライダーの“当たり前”を更新してきました。今回は「初心者こそ最初に身につけてほしい安全の考え方」について、柏氏にわかりやすく説明いただきました。

なぜ「安全確認の型」が必要なのか

ルールは守っている、確認もしているつもり。けれど、その一つひとつに理由があると意識できている人は、決して多くありません。バイクに乗るなかで、柏氏は「慣れ」と「上手さ」はまったく別物だということを語ります。

「スピードが出せるから、ここを越えられるから上手い、というのは大きな勘違いなんです。それは“慣れている”だけ。慣れと上手さは似ているけど、全然違います。下手な人でも、やるべきことを理解してゆっくり正確にやる習慣をつければ、普段の移動中がそのままトレーニングになります」

感覚だけに頼らず、毎回同じ手順で確認する「型」を持つことが、事故を防ぐ第一歩になる。そして柏氏は、初心者にはそれを身につける余裕が必要だと言います。

「スキルがあるからマナーも守れるというのもそうですが、まずはその余裕がないとルールもマナーも遵守できなくなってしまいます。ルールを守れるだけの心と体の余裕を、まず土台としてつくる。その土台こそが「安全確認の型」につながります」

運転技術がまだ十分ではなく、ルールやマナーをこれから身につけていく免許取得直後こそ、安全の「型」を習慣にする絶好のタイミングです。まだ自分のクセがついていないうちに、正しい手順と、その理由をセットで覚えておきましょう。

日常点検で特に重視したい3つのポイント

バイクの日常点検では、「ネンオシャチエブクトウバシメ」に代表されるように、確認すべき項目が数多くあります。ここで紹介する3項目だけで日常点検が完了するわけではありません。そのうえで、柏氏が特に重視しているポイントを紹介します。

確認ポイント①:タイヤの空気圧

「タイヤは空気圧と溝、それから製造時期を見てほしいです。指定空気圧は車種や乗車人数、積載条件によって異なるため、自分の車両の取扱説明書や車体表示で確認し、覚えておくとよいでしょう。セローだとリアが1.5、フロントが1.25。1000ccクラスだと2.5〜2.9くらいが多いですね」

意外と知られていないのが、タイヤの「製造時期」の確認方法です。タイヤの側面に刻印された4桁の数字から、製造された年と週を読み取れます。

「タイヤの側面に“4422”とあれば、2022年の第44週に製造されたことを意味します。製造から5年を超えると、溝があってもゴムが硬くなって、跳ねて滑るようになります。“溝があるから大丈夫”ではなく、交換時期を把握しておきましょう」

指定空気圧、残り溝、製造時期に加えて、ひび割れや変形、偏摩耗なども確認する習慣をつけましょう。異常や判断に迷う点がある場合は、自己判断で走行せず、販売店や専門店に相談することが大切です。

確認ポイント②:ブレーキは「パッド残量」と「効き始め」

2つめはブレーキです。ブレーキパッドの残量に加えて、レバーやペダルを操作したときの効き始め、握りしろ、踏み応えに普段との違いがないかを確認します。違和感がある場合は走行せず、販売店などで点検を受けましょう。

「ブレーキパッドがどれだけ残っているかの確認も重要です。これが足りていない場合が意外と多いんです。パッドの隙間を見るとその減り具合がわかります。フロントもリアも見方は同じなので、確認の仕方を一度覚えておきましょう」

確認ポイント③:アクセルの「遊び」

3つめは、アクセルの「遊び」です。

「アクセルの遊びの指定値は車種によって異なるため、取扱説明書で確認してください。ワイヤー式の場合は、使用に伴って遊びの量が変化することがあるため、定期的な確認と調整が必要です。スロットル・バイ・ワイヤ(電子制御)を採用し、アクセル操作を電子的に検知する車両もありますが、ワイヤー式は調整が要るということは、あまり意識されていない部分でもあります。遊びが大きくなると、アクセルを操作してからスロットルが反応するまでの感覚にずれが生じ、発進時のエンストや操作の遅れにつながることがあります。だから遊びの量を把握しておくことは大事です」

タイヤ、ブレーキ、アクセルの遊びを毎回同じ手順で確認することが、柏氏が特に重視する乗車前点検の「型」です。ただし、これらは日常点検項目の一部であり、灯火類やチェーン、オイルなど、車両に応じたほかの点検も必要です。

正しいライディングのポイント

乗車前の点検を終えたら、走り出す前にライディング時のポイントを確認しましょう。柏氏がライディング姿勢で重視するのは、「骨盤を起こす」ことと「脱力」です。

背中を伸ばすのではなく、「骨盤を起こす」

姿勢が崩れると、ふらつきや操作の遅れにつながります。土台となる骨盤の向きを整えることが、あらゆる操作の起点になるといいます。

「背中を伸ばすこととは違うんです。骨盤を起こすことで体幹を使いやすくなり、必要なときに身体を動かしやすくなります。上体が丸まっていると呼吸も浅くなりやすいため、姿勢を整えることが大切です。猫背のように背中を丸くすると楽に感じやすいけど、実は身体的に負荷がかかりやすく、消耗が早くなるだけなんです。
さらに、猫背は腰猫背と肩猫背とその両方があって、体幹が使えないことと同時に、瞬時のレスポンス、高精度な動きを妨げやすくします。これは、内臓圧迫・呼吸効率低下だけでなく、腰椎に荷重が集中して50代後半からの脊柱管狭窄症などヘルニアに関連する重大なダメージ蓄積となります。
ですので、仙骨を起こすフォームがロードレース、オフロードレースなどのほか、全てのスポーツの当たり前ですし、背中を丸めるでも伸ばすのでもなく、腰のアングルを正しくすることが欠かせません。呼吸脱力と連動してこそですが、立体的に無意識にできるようにすることで、真にリラックスした状態で乗ることができるのです」

「呼吸」で脱力、集中力を整える

柏氏が「レッスンの肝」と語るのが、呼吸と脱力の管理です。

「多くの人が、気づかないうちにグリップを強く握っていたりと、身体に力が入った状態で走っています。力んだ状態だと、息が止まって呼吸が浅くなる。そうすると“覚低状態”といって、目が開いていてもものが見えない、反応が遅れる状態になるんです。しかも手首、肘、肩が固まり、疲労も蓄積しやすくなります。その結果、身体の動きが鈍くなり、操作の速さや精度にも影響します。
力まない方法としては、鼻から3秒かけて息を吸い、口から7秒ほどかけてゆっくり吐きながら、身体の余計な力を抜いていきます。歯は食いしばらない。これを僕は“10秒マインドフルネスの二輪版”と呼んでいるのですが、信号待ちのときや、高速道路を走っている時には5分または5kmに1回と自分のなかでリセットする時間をつくることで定期的に身体を脱力する。それが集中力の維持にもつながり、結果安全な走りになります」

あえて「ニーグリップしない」練習も

柏氏のスクールでは、身体の力みや操作の粗さを確認するため、管理された講習環境で、あえてニーグリップに頼らず走る練習も行っています。

「わざとニーグリップをしないで、手にも余計な力を入れない。そうすると、自分の焦りや乱暴な操作がすべて露骨に出るんです。それを消していくことで、繊細な操作能力が身につく。その繊細さがあれば、濡れた路面やコーナリング中の雨でも、丁寧に操作できるようになります」

※これはインストラクターの指導を受けながら管理された環境で行う練習です。公道で意図的にニーグリップを解くことを勧めるものではありません。

乗車中の安全確認

姿勢が整ったら、いよいよ走行中の確認です。柏氏が考える走行中の安全確認は、「周りを見る」だけでなく「自分を見る」ことまで含んでいるのが特徴です。

発進時は落ち着いてゆっくりと

発進のときに焦ったり、アクセルを煽ってしまう人は少なくありません。柏氏は、これが緊張の始まりだと言います。

「アクセルをバッと勢いよく開けて発進してしまう人も多い。危険なのもそうですが、実はこれすごく疲れるんです。アクセルワークが荒い場合は、身体がこわばっていたり、焦ったりしている証拠。特に発進時や一時停止で止まった時は、マシンを止めているわけですから、一呼吸おいて、先述したように脱力することが大切です。そして目視で確認してスッと出る、アイドリングしながらでも十分です、ゆっくりと焦らず発進することを心がけましょう。特に、午後3時を過ぎると、体力も集中力も落ちてくる。目は慣れているからペースを上げようとするけど、体はついてこない。この乖離が、午後の重大事故につながるので注意が必要です」

目視の視線は「首ごと」動かす

「遠くを見る」「首を振って確認する」、その理由を、柏氏は人間の目のしくみから説明します。

「人間の目は、正面から左右上下35度以内の“中心視野”でしか、距離や相手の表情を正確に把握できないと言われています。それを外れると周辺視野になって、見えてはいても、相手がスマホを見ているかどうかまではわからない。だから、目だけを動かすのではなく、必要に応じて顔を確認したい方向へ向け、視線の中心で周囲の情報を捉えることが大切です」

柏氏が「アゴを過度に引く」姿勢を勧めないのも、視線が近くへ落ちやすくなるためです。顔を下へ向けすぎず、進行方向や周囲の状況を広く確認できる視線を保ちます。

なお、右左折や進路変更では、ミラーと目視による安全確認に加えて、ウィンカー(方向指示器)による意思表示も欠かせません。柏氏が勧めるのは、早めにウインカーを点け、早めに進路を寄せる“早めの入力、遅めのキャンセル”とのこと。

「左折するなら、早めにウインカーを点けてスッと左に寄る。“早めの入力、遅めのキャンセル”です。思っているよりも後ろの人はウインカーを見ていないので、すぐ消すと“点けていなかった”という印象になることもあります。左に寄っていれば追突もされにくいし、左に曲がるんだと相手に気づかせることもできる。そういう意思表示も大切です」

「かもしれない運転」と、危険を“かわす”判断

近年問題になっている、あおり運転への向き合い方についても、柏氏の考えは明快です。

「世の中には、100人に1人くらい、かなり危ない人がいる。そういう相手と遭遇したときに、戦っても何も良いことは起きません。5秒でも10秒でも先に行かせて、自分は一度曲がってやり過ごせばいいです」

身体を守る装備類

安全確認の第一歩は、身体を守る装備です。柏氏の装備選びには、長年ライダーとして様々な怪我を経験してきたからこその選択があります。

ヘルメット

バイクに乗るうえで絶対に必要なのがヘルメットです。

「一般的にはフルフェイスのほうが安全だと言われており、それはその通りです。ただ、“絶対にこっちがいい”とは言えないケースもあります。例えば、ジェットヘルメットにチンガードをつけてレースに出場した知り合いがいました。彼は転倒して顔を怪我したのですが、頸椎は怪我をせず命は守られました。これは、少し柔軟性のあるチンガードだったから衝撃で頸椎を痛めることがなかった。このように、ジェットヘルメットだからだめ、とは一概には言えません。フルフェイスは保護範囲が広い一方で、夏場は内部に熱や湿気がこもりやすく、ベンチレーションの状態や走行環境によっては、暑さによる身体への負担が増し、熱中症のリスクにも注意が必要です。それぞれの特徴を理解したうえで、自分の好みや用途に合わせて選ぶことが重要です。ただし、人間の頭で一番弱いのが側頭部です。ですので、耳が出ているタイプはありえません。ここは必ず覆われているものを選んでください」

なお、ヘルメットには寿命があるため、長い目で見て交換時期も把握しておくことが大切です。

「使用開始から3年が交換の目安ですが、最低でも5年に1回。帽体(外側)自体はそれほど劣化しないけど、中の内装がへたってきます。メーカーによっては点検や内装交換のサービスもありますので、それを活用するだけでも随分違います」

見落としがちな「反射材」と「サングラス」

ヘルメットを使ううえで柏氏が特にこだわるのが反射材。「転んだときにこそ見えることが大事」だと言います。

「夜間の走行中はもちろんですが、雨天や夕暮れ、トンネルの中など、視界が悪い場面での事故を防ぐために反射材は必要です。また、車のヘッドライトの光軸は、路面を照らしています。転倒したときはヘルメットもバイクも地面にあるため、その地面にあるものが光らなかったら事故の二次災害にもつながります」

同じ「視界」の観点から、サングラスも柏氏は重視します。

「サングラスはファッションだけでなく、まぶしさを抑え、視界を確保するための装備でもあります。特に偏光レンズは光の乱反射を抑えるから、逆にクリアに見える、裸眼より見やすいくらいです。UVカットは白内障の予防にもつながるので、5年10年先の安全という意味でも大事です」

※濃いレンズは夜間やトンネル内で視界を暗くするほか、偏光レンズでは車両の液晶メーターなどが見えにくくなる場合があります。使用環境と車両の表示を確認して選びましょう。

ヘルメットと同じくらい優先すべき、胸部プロテクター

柏氏が「これは絶対に外せない」と語るのが、胸部プロテクターです。

「頭のてっぺんから足先までさまざまな装備がありますが、胸部プロテクターは特に重視してほしい装備です。胸部への強い衝撃は重大な結果につながることがあるため、ヘルメットとともに優先して身につけてほしいと思います」

※警視庁によると、都内の二輪車乗車中死者における致命傷部位は、過去5年平均で頭部が43.2%、胸部が29.2%となっています。胸部プロテクターは、身体に合ったサイズを選び、走行中や転倒時にずれないよう正しく固定することが重要です。

胸部に加えて、背中、肩、肘、膝を保護するプロテクターや、手を守るライディンググローブも基本的な装備です。プロテクターは装着位置がずれていると十分な保護性能を発揮できないため、身体に合ったサイズを選び、正しく固定しましょう。

なお、肘のプロテクターとグローブの付け方について、柏氏はしっかり固定することを強く勧めます。

「装備は、身につけたあとの“固定”も大事です。特に肘と手首。ここをしっかり締めておかないと、転んだときに袖がまくれ上がってしまいます。締めが甘いと、エルボープロテクターもズレるので、転倒して地面を滑った際にしっかりと保護することができません。実際に私自身も怪我を経験してきました。きっちり寄せて固定する、着用の仕方まで意識してほしいです」

ジャケット・パンツは「素材」で選ぶ

夏場はつい軽装になりがちですが、柏氏はジーンズよりもレザーを勧めます。

「大型バイクをはじめ、車種やエンジン配置、排熱構造、走行環境によっては、エンジンや排気系の熱が脚に伝わり、低温火傷をしてしまうケースもあります。その点、ジーンズよりレザーのほうが火傷しづらい。ビギナーの方でもいきなり大きいバイクに乗ることがあるから、レザーをおすすめします。近年は通気性に優れたメッシュタイプや、汗をかいてもべたつきにくい冷感インナーもあるので、これらを上手く組み合わせることで夏場も快適に安全にバイクに乗ることができます」

ブーツは「くるぶし」を覆うものを

足元は、つま先とくるぶしを保護できるブーツが基本です。ここで柏氏が教えてくれるのが、「歩きやすさ」と「安全性」はある程度反比例するという考え方です。

「ソールは本来、登山靴ぐらい硬いほうがいい。ただ、硬すぎると今度はブレーキやチェンジのフィールが分かりにくくなる。絶妙なところですし、スキルや目的によって変わります。公道ではぶつかったり踏まれたりする危険性もあるということは念頭において、歩きやすさだけで選ばず、いざというときに足を守れるかどうかを基準にする。くるぶしまで覆う、脱げにくいタイプが安心です」

装備を大切にする意識の根っこにあるのは、柏氏の「安全に、楽に、長く乗り続けること」に対する想いです。

「僕は、ライダーは“怖がり”でいいと思っています。怪我をして松葉杖の生活を送るより、怪我をしないのが一番いいんですから」

型は、繰り返すことで身体に染みつく

装備・乗車前点検・姿勢・走行中という4つの場面で、「毎回同じ手順で確認する」という型を持ち、習慣にすること。それが、初心者が最初に身につけるべき安全の土台です。型は、一度覚えれば終わりではなく、繰り返すことで自然と身体に染みついていきます。そして、その一つひとつに「なぜそうするのか」という理由があることを理解しておけば、確認は単なる作業ではなく、自分の安全を守る“意味のある習慣”になります。

柏氏が最後に語ってくれたのは、時間軸を長くとってバイクと付き合ってほしい、という願いでした。

「僕が提案したいのは、“今の安全”だけじゃなくて、“5年10年後の安全”なんです。頑張って上手くなるのではなくて、当たり前の法則性を理解して、まっすぐ走って、まっすぐ止まることから始めればいい。それを意識できれば、自分が今どういう状態なのかを客観的に見られる人になれる。それがすごく大事です」

免許を取得したばかりで公道走行に不安がある場合や、基本操作を改めて確認したい場合は、KRSなどのライディングスクールや、ベーシックライディングレッスンなどの講習会で、インストラクターの指導を受けることも一つの方法です。正しい型を、理由とセットで身につける。その積み重ねが、これからのバイクライフを、より安全で楽しいものにしてくれるはずです。

KRS:柏秀樹ライディングスクール

https://kashiwars.com/

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