MFJ(日本モーターサイクルスポーツ協会)が目指す今後の展望とは?
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一般財団法人日本モーターサイクルスポーツ協会(以下、MFJ)は、日本国内のモーターサイクルスポーツを統轄し、モーターサイクルスポーツの普及振興を図り、国民の心身の健全な発達に寄与することを目的として様々な活動を行う機関として1961年に設立された協会です。さらにMFJは、モーターサイクルスポーツの世界統轄機関である国際モーターサイクリズム連盟(FIM)に加盟する唯一の日本代表機関でもあります。
今回は、そんな60年以上の歴史を持つMFJが改革を推し進めているとの情報をキャッチしたため、MFJの鈴木哲夫会長(以下、鈴木会長)に現在のMFJ、そして今後のMFJについてお話を伺って来ました。
コロナ禍でレース界も大打撃。浮かび上がった危機感
2020年は新型コロナ感染拡大で全日本選手権からローカルレースまで多くのレースが中止や延期に追い込まれました。
ロードレース界の二大イベントと言われる「鈴鹿8時間耐久ロードレース」と「MotoGP日本グランプリ」は、2018年、2019年ともに、のべ10万人近い観客がサーキットへ足を運んでいましたが、コロナ禍で2020年2021年ともに中止を余儀なくされました。2022年には、3年ぶりの開催となりましたが、万全のコロナ感染症対策により、一定の制限の中での開催であったため、観客数はコロナ禍以前にはもどりませんでした。
一方で、レースに参加するためにMFJが発行するライセンス(≒ライセンス取得者数) 数やレース参加者の数は、コロナ禍初年度に大きく落ち込みましたが、2021年以降は回復傾向にあります。
サーキットは“ライディングスキルを競い合う者同士の戦い”の場であり、せっかく競技をするライダーが増えたとしても、そこに足を運んでくれる観客が少なくてはサーキット場の運営継続が困難になるとして強い危機感が浮上しました。
新しいチャレンジのトライアンドエラーは続く
MFJが転換期を迎えたと感じる背景には二つの大きな要因があります。
一つは、ユーザーのバイクに対する価値観が大きく変わったことです。スピードやパワーといったバイクの性能よりも、ファッションの一部のごとく各自の趣味やライフスタイルとの親和性を重視する考え方が当たり前になったことでした。
こうしたユーザーの価値観が多様になったことにより、レース観戦の楽しみ方へもユーザー各自の多様化に従う必要があると考えました。
多くの観客に来ていただくために、映像メディアでのレース露出を増やし、魅力を発信しなければなりません。YouTubeチャンネル「Motoバトルライブ」では、全日本ロードレースやモトクロス全大会のライブ動画配信を行い、2021年よりその内容向上に着手し、2022年は視聴数、チャンネル登録者数も大きく伸長することができました。
さらに、レース会場に来ていただいた来場者サービスの一環として、2021年の全日本ロードレース選手権とモトクロス選手権シリーズから、マルチ画面で同時に様々な視点から ライブ配信アプリ「Grooview(グルービュー)」が導入されました。
このアプリが導入される前までは、広大な会場で自分の視界に入る情報しか知る術がなかったのに対し、来場者が自身のスマホやタブレットで複ライブ映像を視聴したり、タイムスケジュールや選手リストなどの情報を自由に組み合わせて閲覧出来るようにしました。トップライダーは、わき目も触れずひたすらスピードを競い果敢なレース展開を進め、観客は誰がトップを走っているのかもわからずに広い会場をさまよう。こんな不自然な光景が今、変わろうとしています。
さらなる加速をする情報・チケットのデジタル化
もう一つの要因は世の中のデジタル化です。
電子マネーをはじめとするキャッシュレス化やペーパーレス化、さらにはコロナ禍による非接触方法の推奨など様々なシーンでデジタル化が加速していますが、各種レース会場での入場もデジタル化が進んでおり、通信環境が安定している会場から電子チケットが導入されました。前売りはもちろん当日の飛び入り観戦も容易になり、入場もQRコードでスマートに入場できるため、チケット購入から入場までの流れがスムーズに改善されています。
さらに、2021年3月よりMFJの公式WEBサイトを全面リニューアルし、スマホ閲覧に対応させた結果、モバイル端末での閲覧割合が50%から約70%へと高まり、アクセス数も向上しました。
公式WEBサイトのコンテンツも見直され、従来までのレース説明だけではなくオススメの観戦スポット紹介など、初めてレース観戦に行くユーザーでも楽しめる情報を主軸にすることで、レースだけではなく会場でも楽しく快適に過ごせるよう改善されています。
モーターサイクルスポーツがライダーの楽しみの一つになって欲しい
鈴木会長によると、 MFJはこれまでモーターサイクルスポーツの普及振興に向けた活動を行ってきましたが、大半のバイクユーザーにとってレースは遠い存在で、魅力が伝わっておらず、興味を持つまでには至らなかったと振り返ります。
そこでバイクユーザーと直接のタッチポイントである二輪販売店との接点を作り、ユーザーサービスの一環としてレース観戦やレース場でのアクティビティに利用していただきたいとの思いから、一昨年からメーカー販売会社と共に「モーターサイクルスポーツ普及対策部会」という会議体を作り、販売店にレースのeチケット取り扱いを依頼するなどの活動を始めました。
将来的に目指すのは、日本におけるモーターサイクルスポーツがエンターテイメントとして確立し、バイクユーザーにとってツーリングやキャンプと並ぶ“楽しみ方”のひとつのアクティビティとなることです。
そこで昨年は、「SSTR」や「モトライダースフェスタ2022」「大分・阿蘇ツーリングキャンペーン」など、バイク業界における他ジャンルのイベントへ積極的に協賛・露出することで、モーターサイクルスポーツを知るきっかけを作っています。
また、世界のモビリティ産業がカーボンニュートラルへの対応を迫られる中、モータースポーツにおける取り組みが求められています。将来のモータースポーツ継続のためにも必要なことと判断し、今年から全日本ロードレース選手権JSB1000クラスでは100%非化石由来のバイオ燃料を、世界の主要二輪レースに先駆けて導入します。また、全日本トライアルにはEV車両の正式参加を認め、その規則を制定しました。
先に盛り上がったサッカーW杯のように、あるいは日本人選手も大活躍しているメジャーリーグベースボールのように、観客と選手が一体となって、レース会場が大きな歓声に包まれる日がもうすぐ来ることを期待しましょう。