モータースポーツを支えるオフィシャルの魅力とは?
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ロードレースが行われるサーキットでは、バイクを操り100分の1秒を争うライダーがやはり主役であり、ライダーのモチベーションを高め、レースを盛り上げるのは応援する観客の大歓声ではあるが、レースシーンでは、ライダーと同様の緊張感を持って様々な役割を担うに従事するスタッフによってレースが運営され成り立っている。
TV中継や動画配信などで私たちが目にすることができるのは、ライダー以外ではマシンの整備やタイヤ交換等を担うピットクルーやチームの監督をはじめとするレーシングチームスタッフ。また、アクシデントが発生した時にセーフティカーで先導するドライバーなどであるが、これは一部に過ぎず、まだまだ数多くのスタッフがレースを陰で支えている。
オレンジ色のつなぎを着て、レースを運営する上でもっとも大事なライダーにコースやレースの状況を伝えるフラッグを振ることや、コース上の障害物を撤去するための清掃、動けなくなってしまったマシンの移動・撤去作業など、レース運営を陰で支える通称「オフィシャル」と呼ばれる係員の存在だ。
チームスタッフやレーサーと同じフィールドであるサーキットコース内でレース運営に携わるため、生半可な気持ちでは務まらないほど重要な役割であることは言わずもがな、レース運営の一端を担う責任感も求められる。また、モータースポーツは常に危険と隣り合わせのスポーツであるため、オフィシャルの業務にも少なからず危険が伴う。
しかし、オフィシャルの仕事は、基本的にレースが開催されるときのみ活動を行うためレース毎に募集され、基本的にはオフィシャルとしてサーキットに勤務するような仕事ではない。
では、なぜ彼らはオフィシャルに応募するのか。実際のオフィシャル業務経験者とレースを開催する施設である鈴鹿サーキットモータースポーツ課の服部博晃さん(以下、服部さん)にお話を伺った。
鈴鹿サーキットでは8時間耐久ロードレースを含め年間13戦開催(二輪ロードレースのみ)
実際に現場で従事するオフィシャルは6つに分かれており、学生から主婦まで県内外問わず多くの応募を受けているという。
- コース:監視ポストから走行中ライダー/ドライバーへフラッグやシグナルでコース状況を知らせたり、インターバルでの清掃、コースメンテナンス、トラブル時の車両移動・撤去など多岐に渡る。
- レスキュー:競技中、転倒やクラッシュなどのトラブルに見舞われたライダー/ドライバーの救出がメインで、時間との闘いになる業務。
- パドック:グリッド・ピット周辺で活動し、レースの進行や秩序維持を担っている。スタート進行からペナルティ判定、ピットレーンでの時間計測、チームへの各種通達などレーシングチームに最も近い。
- 技術・車検:参加車両や耐久レース時の燃料補給装置の検査、ライダー/ドライバーの装備品の安全性チェックなど、安全性やレースの公平性に関わる大事な役割。
- 計時:主にコントロールタワーで競技結果のタイム計測関連を担う。最新鋭の計測機器やコンピューターを駆使し、ラップタイムやレースタイムを1,000分の1秒単位で集計・整合して発表・配布と、正にレースの鍵を握る。
- 事務局:レース前の参加受付やライセンスチェックに始まり、大会期間中はコントロールタワーを拠点に各セクションの責任者と連動して業務全般を行う責任ある任務。
毎年7月末~8月初めにかけて開催される鈴鹿8時間耐久ロードレースの場合は、全セクション合わせて300名の応募があった。この中から本人の希望する配属先や日程を尊重しながら配置されていく。
オフィシャル業務の魅力とは?
前述のように一言でオフィシャルといっても、様々な場面で特有の緊張感と一体感の中で行われる業務になるので、特にレースの結果自体に関わる役目を担うオフィシャルは、事前に想定される様々なシチュエーションの洗い出しと、その時の担当割りの確認や、救助訓練なども行われる。
例えばコースオフィシャルの場合、朝、集合場所にて全体ミーティングを行い、規則の再確認や新規則の共有を行う。また、過去にコース内で起きた事例とその対策についても共有している。その後、各業務の従事者が配置につき、持ち場のコースの特徴(消火器やドクターバリアの位置、ガードレールの開口部等)を確認し、様々なシチュエーションを想定しながらメンバー同士でも共有しあう。また、隣接しているポストとも対応範囲の確認をレース毎に行っているのだ。
ではなぜオフィシャルに応募したのか、実際にオフィシャルを経験した方から理由を伺ってみた。
コース担当Aさん
大好きなレースを観客としてではなく、裏方で支えられるようになりたいと応募した。2013年の鈴鹿8時間耐久ロードレースが初めてで、それ以来現在まで続けられている。
レスキュー担当Bさん
元々バイクが好きで8耐観戦の際にレースプログラムでオフィシャル募集の案内を見たことがきっかけ。オフィシャルができれば一番身近でレースが見られるという少々不純な動機だったが、今年で13年目に入る。
パドック担当Cさん
子供のころから家族でサーキットには来ていた。オフィシャル自体は認識していたが、選ばれた人だけがなれる特別な存在として憧れだった。そんな中でたまたまオフィシャル募集の案内を見つけ、今しかないと双子の兄と一緒に応募!
車検担当Dさん
レースを観戦する側でなく、支える側になれるチャンスと思い応募。4年目に入った。
計時担当Eさん
モータースポーツに関わりたく、友人に勧められたことがきっかけで30年続けている。
実は応募には難しい資格や必要なライセンスなどはない。興味関心は持っているものの、自分ができるものではないと勝手に思い込んでいる方も多いようだ。
MFJの主催する全日本のレースや、鈴鹿8時間耐久ロードレースともなると、約300名にのぼるオフィシャルの協力を要し、食事の支給はもちろん、遠方から来てくれるひとには宿泊も準備されているなど、受け入れ体制も万全だ。
オフィシャルの経験を通して得られた感動体験とは!?
驚いたのが、5年以上、10年以上と本業ではないのに長く続けている方が意外と多いことだった。
真夏の猛暑日もあり、耐久レースのように長時間に及ぶレースもあり、それなりに過酷であることは容易に想像がつくが、なぜそれほどまでに続けたくなるのか。毎年継続して従事したくなるほどの魅力について、あらためて聞いてみた。
コース担当Aさん
勤務中は、瞬時に判断を求められることがある。モータースポーツの経験によって、実は本業の仕事の中でも的確に冷静に判断できる自分に気付くことがある。
そして何と言っても国際大会も開催する鈴鹿サーキットだからこそ見られる景色があった。
レスキュー担当Bさん
この仕事をしていなかったら「モータースポーツが好き」という共通項を持った人に出会えなかった。ちょっと変わっているけれど(笑)、楽しい仲間が出来た。
そしてレスキューを始めたおかげで、交通事故に遭遇しても冷静でいられるという度胸が身に付いた。
パドック担当Cさん
自分の1メートル横をマシンが通り抜けていく。エキゾーストノートもその分だけ大きく聞こえる。こうしたシーンを想像はしていたが、初めて体験したときは、地響きのような内臓を震わせる感覚にとても興奮した。
マシンだけでなく、選手や監督も近くで見ることができ、年齢・学歴・経歴に関係なく、努力次第でモータースポーツの重要な役割の一端を担うことができ、自分の自信にもつながっている。
車検担当Dさん
モータースポーツを、レースをより良いものにしようと、同じ目的に向かってみんなで活動している。それゆえに、専門知識や、人との接し方など、多くのことを学べる場にもなっている。鈴鹿8耐ピット側から見る光り輝く観客の埋まったグランドスタンドの風景は、体験した人にしかわからない感動をもたらしてくれる。
計時担当Eさん
オフィシャルの仕事を通じてチームワーク、コミュニケーションの大切さを学んだ。また無事にレースが終わった時には達成感を味わうことができる。
最後に服部さんにあらためてオフィシャルのやりがいについて伺った。
オフィシャルは、レースへの情熱をもって任務を全うした時の満足感、仲間との連帯感に尽きます。時には炎天下にさらされることも、炎上するマシンに近づく救出作業もあります。レース・観客との一体感の中で行う活動は、普段の生活でも幅広い相手に対する心遣いや、仲間同士、仕事で一緒になった同士での協力しあう気持ちをもたらしてくれる、唯一無二の体験になるのは間違いないでしょう。
現在オフィシャルとして参加する方は、ほとんど他業界他業種の仕事をしている方が多いそうで、年齢や経歴に関係なく一丸となって協力し、経験したことのないほどの達成感や感動を共有するために、毎年多くの応募が集まっている。
好きなことに触れるかけがえのない経験の選択肢として、一度チャレンジしてみてはいかがだろうか。
取材協力:鈴鹿サーキット
「鈴鹿サーキットレースオフィシャル募集」
https://www.suzukacircuit.jp/ms-entry_s/official/pdf/official_general.pdf