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トレンドを作るバイクデザイナーに聞く!ライフスタイルに寄り添うデザインとは?(ホンダ・黒部武輝さん)

2023年6月20日、神奈川県川崎市にあるTrex Kawasaki River Caféで、ホンダの新型モデル「CL250/CL500」の発表試乗会が行われました。この日は天気も良く、会場はメディア関係者で賑わっていました。また、会場には、CL250/CL500のデザインを手掛けた本田技研工業株式会社(以下、ホンダ)二輪・パワープロダクツ事業本部 開発生産統括部 商品開発部 商品開発課 デザイナーの黒部武輝さん(以下、黒部さん)も参加されていました。

そこで今回は、実際にCL250/CL500をデザインしたデザイナーの黒部さんに、CL250/500のデザインコンセプトから、デザイナーとしてのこだわり、そして日常生活までをお話しいただきました。

 

現代の若者カルチャーや嗜好を捉えたデザイン

21世紀ももうすぐ四半世紀になろうとする現在、世の流れとしてはさまざまな分野で“多様性(ダイバーシティ)”が叫ばれ、画一的な見かたやカテゴライズなどは敬遠されるようになりました。そこへ取って変わるように、情報を自由に取得し、自分なりのライフスタイルとして色付ける志向が若者を中心に増えてきました。

そんな時代にホンダが提案するこのCLシリーズは、若者を中心とした幅広いユーザーにバイクの本質を楽しんでもらうために、体格やライディングスキルを問わず、さまざまな使い勝手を考慮し、250ccと500ccという異なる排気量のエンジンさえも選択の幅として用意されました。

 

まず、メインのユーザー層と楽しみ方の想定について、デザイナーの黒部さんに伺いました。

日本の250㏄は20~30代で、まさに私と同年代の若者層がターゲットです。

  • ストーリーへの共感 … ブランドよりもコンセプトを重視
  • タイムパフォーマンス重視 … 短時間で高い満足感を求める傾向
  • 自分らしさ … 自分自身に合った価値かどうかの見極め

こうした現代の若者の価値観を開発チームが共有することで、商品に必要な要素を決めていきました。

フレームは両車共通としながら、250cc、300cc(日本未発売)、500ccの選択肢によって、日本のみならずアジア・中国・欧州などグローバルに展開しています。

楽しみ方としては、「街乗り+郊外+(ハードすぎない)フラットダート」を想定しており、楽しむ場所もユーザーが選択しやすいようにしています。

 

スタイリングのコンセプトは「シンプル・タフ・素材感」

さらに黒部さんへ、CLシリーズのコンセプトについても伺いました。

ホンダとしては「Express Yourself」を共通のシリーズコンセプトとし、既にご好評をいただいているクルーザータイプのRebelに、今回新たにスクランブラータイプのCLが加わるカタチとなっています。

そしてこのCLは、若者世代で多様化する楽しみ方に応えるため、バイクを“楽しむための素材”として「モデルのシンプルさ、多様なユーザーの使い方に応えるタフさ、素材感」をスタイリングテーマとしました。

全体の印象として、力強い足回りのイメージを達成するため、フロントには19インチの大径ホイール、リヤにはホイールトラベル145mmのツインショックを採用しています。

 

左:シンプルでスマートな外観を達成するために、メーターステー等のディティールにも注力、中:スイングアームの曲げポイントはマフラーの通しを考慮した形状となっている、右:サイレンサー本体はリヤショックを避ける形状となっている

特にこだわったポイントしてはマフラーですね。サイレンサーの位置と、ボリューム感の検討は非常に苦労しました。デザインと足つき性確保の観点から、なるべくスマートな取り回しとしたく、出力や音、熱対策をしながら、スイングアームとリヤショックの形状にも意思を入れました。具体的には、スイングアームの曲げポイントをRebelから変更してスペースを確保し、リヤのツインショックは右側だけを内側に寄せてサイレンサーの張り出しを抑えています。また、ステンレスのプロテクターはヘアライン仕上げとし、アップマフラーがCLの象徴的なパーツとして認識されるように際立たせました。

 

技術的な課題もアイデアでプラスに転換

次に、タンクパッドが標準で装備されている理由についても問いました。

燃料タンクは、シンプルで飽きのこない外観を達成するために、非常に重要なパーツでした。ところが、共有しているRebelのメインフレームラインに合わせて燃料タンクのデザインを成形すると、どうしても成型の都合上、思い通りの形状にはなりませんでした。

そこで、タンクの外観と成型性を満たしつつ、ニーグリップのしやすさを機能として追加し、タンクパッドを標準装着にすることで解決しました。さらには細かいことですが、シンプルではあっても味気なく寂しい印象にはしたくなかったので、タンクパッドには動きのあるグラフィックをエンボス加工で施しました。

黒部さんは、デザイナーとして理想とする機能的デザインを追い求めながらも、技術的または製造上での課題をうまくプラスに転換されていました。さまざまな制約のなかで、ユーザーに乗る喜びを与えるバイクデザイナーの真骨頂を垣間見ることができました。

 

自由な発想を生み出す環境で暮らす黒部さん

また、デザイナー黒部さんの休日、余暇時間についてもお話を伺いました。

バイクもクルマも洗車が好きで、車両がキレイになること自体が好きなのですが、どんな使い方をしたらどこが汚れるのかを観察するのも好きです。仕上がったボディを眺めたときに、まるで自分の一週間を振り返る鏡のように見つめる自分がいます。洗車をしながらその週にあったことを振り返り、気持ちの整理と自分をリセットすることで次の一週間に備えることが出来ます。

また、ファッションも時代の変化に合わせて楽しんでおり、それに合わせてシューズや時計などをコーディネートするようにしています。

 

時代は変わってもヒトの感性と判断の重要性は変わらない

最後に、デザイナー黒部さんの眼にいまのユーザーがどう映っているのか。そして、今後のAIなどによるデジタル技術の進化によって仕事の環境がどのように変遷するのかについてご意見をいただきました。

自分と“自分らしさ”を大切にし、そして自由に発想出来るように、より自然体でいられる環境の中だからこそ、自由を求める風潮は恒久的に続くと思っています。

それによって、モノに愛着が湧いたり、ライフスタイルに浸透したりすることで、バイクやバイクを楽しむ環境が、普遍的な価値になっていくのではないかと思っています。

自分なりに無理のないやり方を探し続けていくことで、モノにもコトにも自然と末永く接することが出来ると信じています。

私自身も自然豊かな熊本県で思う存分乗り物を気張らずに自由に楽しんでおり、こうした経験も自由な発想として仕事に生かされているのかもしれません。

また、デジタル技術の進化により、デザイン開発においても、現物を必要としないバーチャルでの検討手法が確立されつつありますが、そんな中でも、カラーリングを一つ例に取ると、実際は国によって人の瞳の色も太陽の日差しも異なり、色のイメージもさまざまで、同じ色でも全く異なった印象として捉えられていることがあります。なので、最後は人間の眼と感性で実物を、評価することを大切にしたいと思います。

たとえどんなにAI技術が進化しても、人間の感性は大切にしたいと思いますし、人間を中心としたデジタル技術の活用というカタチができればよいのかなと思っています。

移り変わるバイクユーザーの価値観をしっかりと受け止め、ユーザーの多種多様な楽しみ方を提案する。そしてそれを具現化するために機能・デザインともに妥協せず、さまざまな制約をもプラスに変える発想でデザインに落とし込む黒部さん。これからも、世の潮流をしっかりと捉える能力に加え、自由な発想と優れた感性によって、私たちの期待値を超えるほどの魅力あふれるニューモデルが創造されていくことでしょう。

また、こうしたデザイナーの自由な発想を具現化させることのできるホンダの社風に、羨ましさすら覚えました。

ホンダ公式サイト - バイク

https://www.honda.co.jp/motor/

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