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トレンドを作るバイクデザイナーに聞く!新しい時代への挑戦 (スズキ・遠藤勇太さん)

スズキ株式会社(以下、スズキ)といえば「Hayabusa」や「GSX-S1000GT」などのモデルに代表されるスポーツツアラーのジャンルに定評があるほか、スクーターからオフロードまで幅広く展開する日本が誇るモーターサイクルメーカーです。さらに昨今では、日本のみならず世界中で人気が加熱するアドベンチャーのジャンルにおいても、250ccから1,050ccクラスまで4つの排気量ラインアップを持つ「Vストロームシリーズ」が市場展開されています。

そんなスズキから2023年3月24日にリリースされた排気量775㎤の新型ロードスポーツモデル「GSX-8S」。本モデルはGSX-S1000からの流れを踏襲しつつも、新開発のエンジン︎&フレームと躍動感あるスタイリングを併せ持ち、同社のラインアップのなかでも次世代モデルとして世の注目を集めました。

まず、本モデルを見て頭に浮かんだ疑問が「なぜこのような前衛的なコンセプトが生まれてきたのか」「どのようなデザイナーがどのような意志でこのデザインをされたのか」でした。

そこで今回は静岡県にあるスズキ本社を訪れ、本モデルをデザインされた二輪事業本部 二輪営業・商品部デザイングループの遠藤 勇太さん(以下、遠藤さん)に、このモデルが誕生するまでに至った経緯を伺いました。

 

満を持しての新しいチャレンジだった

2000年代に入り、徐々に国内市場における大型バイクのラインアップも増え、欧州と変わらないようになりました。

また、年々ユーザーのマインドも変化しており、大型バイクへの憧れは根強いものの、自分の体力や技量に合わせてモデルを選択する傾向になりました。そうした流れのなかで、いわゆる“ミドルサイズ”と呼ばれる排気量600cc~750ccクラスのモデルも徐々に増えていきました。

このような潮流を背景に、このクラスに全く新しいモデルを投入した理由を尋ねました。

ご存じと思いますが、欧州においては初心者や比較的体力に自信のない女性層を含め、ミドルクラスの需要はいまだ高いです。弊社でも「SV650」や「GSX-S750(現在は生産終了)」といったモデルがありましたが、バイクのライディングを極めるためだけではなく、バイクを楽しむことにも機能する制御系のデバイスは、1,000ccクラス以上のハイエンドモデルにのみ装備される傾向がありました。

初めてバイクに乗られる方からベテランライダーまで、あるいは現行の250ccクラスの「GSX250R」や「ジクサー」などからステップアップするユーザーも期待できるのではないかと考え、普段使いからロングツーリングまでオールマイティにライディングを楽しむことができるモデルを世に出したいという考えが背景にあります。

そのためにもフラッグシップモデルに採用されている出力モードの切り替えやトラクションコントロール、フル液晶のメーターパネルなどを思い切って採用しました。

 

久しぶりのエンジン&フレーム全て新開発のモデルだった

スズキにとっては久しぶりのエンジン・フレームともに新設計となった「GSX-8S」の開発を進める過程において、メンバーと認識の方向性を揃えるために必要なコンセプトワードはどのようなものだったのでしょうか?

GSX-8Sのデザインコンセプトは“An Icon for a New era of Functional Beauty”です。

これは、外観と実際のバイクの性能となる機能の美しさを高度に融合させたい、新時代にふさわしい機能美の象徴となるようにしたい、という開発サイドの強い意志の表れです。

当時このプロジェクトは、デザイナーとして新しいデザインに挑戦できるという一方で、挑戦できる範囲の広さや自由度にワクワクしたことを今でも鮮明に記憶しています。

思えば、過去にスズキは数多くのエポックメイキングなモデルを登場させ、何度も話題をさらってきた経緯があります。

1980年代の「KATANA」「RG250Γ(ガンマ)」、1990年代には「SW-1」「バンディット」「Hayabusa」などなど、チャレンジングなモデルを登場させるのは挑戦に寛容なスズキの社風から生み出される賜物なのかもしれませんね。

 

開発メンバーのモデルイメージは初期段階に固めることができた!

モデルのコンセプトに沿ってデザインを進めるにあたり、どのようなキーワードがあったのでしょうか?

キーワードは3つありました。

1つ目は「ビジュアルストラクチャー」です。つまり機能部品をバイクの外観要素としてデザインすることで、バイクの魅力をカウリングなどでカバーすることなく、あえてむき出しにして美しさを狙いました。また、エンジンやフレームは外観要素として美しさを追求し、艤装(ぎそう)パーツ(電装部品などを隠すカバー類)は極力コンパクトに納まるよう追求しました。

2つ目は「New Era(ニューエラ)」。言い方を変えれば、新しい時代を創造するということで、今までにないフレッシュさをデザインしました。

 

3つ目は「アイコン」です。機能一辺倒な外観にするのではなく、総合的に“美しい塊=アイコン”として目を惹くデザインになるよう意識して作業を進めました。

開発メンバーとは、開発の初期段階から出張先の宿泊部屋で互いにプレゼンをし、イメージとなる画像やスケッチを使いながら、目指す方向性を共有していました。

その結果、エンジニア、企画者、営業担当者を含め、比較的早い段階でメンバーのベクトルを同じ方向に収束することができました。

 

遠藤さんが初めてトータルデザインを任されたのは「リカージョン」

遠藤さんが初めてデザインを任されたのは、2013年の東京モーターサイクルショーでコンセプトモデルとして出展された「Recursion(リカージョン)」。

588㎤の水冷直列二気筒エンジンにターボを搭載した、走る楽しさを追求したコンパクト・ロードスターというコンセプトの先鋭的なマシンでした。

デザイナーとして非常にチャレンジングなモデルを経験されている遠藤さんですが、非常にクリエイティブな発想が求められる挑戦的なプロジェクトにおいても、冷静沈着かつ穏やかでいられた理由は、自身の過ごされた学生時代に隠されていました。

 

生粋の金属工芸好き&バイク好きだった学生時代

取材のなかで、少し遠藤さんの経歴についても伺ったところ、学生時代に作り上げたマシンを見せていただきました。

エンジンこそ既存モデルを流用していますが、なんとフレームはしっかりと走行できるようにホイールベース、ホイールトラベル、車体のディメンションなどすべて計算して設計されたというのだから驚きです。しかも材料の切り出しから、曲げ、溶接、塗装の全工程を全てご自身で行ったといいます。

 

デザイナーとして机上のスタイリングに留まらず、立体(しかも現物)を作り上げてしまう創造力とバイタリティは学生時代からすでに片鱗を見せていました。つまり、遠藤さんは生粋のデザイナーでありながら、クリエイターの気質も持ち合わせた方でした。

 

入社後すぐHayabusaを入手。休日はロングツーリングの日々

自分でオリジナルのバイクを作り上げてしまうほどのスキルを持つ遠藤さんは、スズキに入社してからすぐにHayabusaを手に入れ、東北を中心にこれまで何度もロングツーリングに出かけたそうです。

 

現在はご自身がデザインを担当された「GSX-8S」に乗り換え、コンセプトのとおり普段使いからツーリングまで、目指したコンセプトがお客様に届いているか、実際にライダーの目線で走行し、検証を続けているとの事でした。

 

ちなみに遠藤さんは現在、ヴィンテージの家具をインターネットや家具屋を回って探し出し、自分の好みにリメイクすることにのめりこんでいるようで、見せて頂いたリビングはまさにデザイナーズハウスそのものでした。

また、遠藤さんは音楽にも傾倒しており、往年のロックから海外の音楽トレンドシーンまでジャンルを問わずお気に入りのソファでくつろぎながら聴いていると言います。その興味はもっぱら音楽が作られるプロセスにあり、オーケストラが創り出すサウンド手法から、バンドが生み出すサウンド、DTM(PCを用いた音楽制作)など、常にクリエイティブな思考で楽しまれていることが伺えます。

 

イタリア駐在で学んだデザイナーとしての役割とは?

遠藤さんは以前、イタリア・トリノにある欧州デザイングループに3年間在籍していたと言います。

そこで“イタリアンレッド”の色が持つ歴史や表現手法を知り、この色は単なる色ではなく、イタリア人の情熱、国のイメージそのものを宿すカラーであると学びます。そしてこれは、バイクメーカーが作り手側の情熱とモデルの機能をデザインに宿そうとする事と同義である、と改めて気付いたそうです。

最後に、昨今のAIを筆頭とするデジタル技術進化によって、未来のバイクデザインにおけるプロセスがどのように変化するのかについての見解を伺いました。

いかにデジタル技術が今後発展していこうとも、デザイナーからするとそれは、デザインをする道具の選択肢が増え、さらに楽しくなるだけなのではないかと予想しています。

また、デザインの評価については変わらず人間の意見を主体とするのではないでしょうか。

そもそも「いったい何を作りたいのか?」というポイントが明確にされないと、いくらAIによる生成技術が発達してもアウトプットは人間のクリエーションを超えるのが難しいのではないかと思います。

デジタル技術進化を、自身のデザインツールのひとつとして非常にポジティブにとらえている遠藤さん。バイクや音楽など、出来上がった完成品だけでなく、制作プロセスにまで深く興味関心を持つクリエイティブな姿勢は、あの学生時代の金属工芸に没頭した頃に醸成されたのかもしれません。

 

遠藤さんに取材を行った際、彼は「あまり取材を受ける機会はないんです」と最初に述べていましたが、今回の取材を通じてわかった遠藤さんというデザイナーの背景を知り、画期的なニューモデルが生まれるのもむしろ自然なことだと感じました。それと同時に、もっと同社のプロダクトに関わる方々のお話を伺いたい衝動に駆られました。

今後もどんなエポックメイキングなモデルが世に輩出されるのか楽しみです。

スズキ公式サイト

https://www1.suzuki.co.jp/motor/

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