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トレンドを作るバイクデザイナーに聞く五感を刺激するバイクデザインの哲学とは(ヤマハ・神谷徳彦さん)

今年3月の大阪を皮切りに東京、名古屋の3都市で開催された各モーターサイクルショーは、バイク愛好家はもちろん、バイクに興味のある多くの方の来場で賑わいました

そんな各モーターサイクルショーの会場に出展していたヤマハ発動機のブースのなかでも、特に注目を集めたのが、市販予定となる3種の新型原付二種(排気量50cc超~125cc以下)モデルでした。

そこで今回は、近年、販売台数が増加傾向にある原付二種クラスに投入される3モデルのなかから、ネイキッドモデル「MT125」のデザインを手掛けたヤマハ発動機クリエイティブ本部プロダクトデザイン部の神谷徳彦さん(以下、神谷さん)にお話を聞く機会を得ました。

MT125は、はたしてどのようなアプローチやクリエイティブな思考をもとにデザインされたのでしょうか。
※第39回大阪モーターサイクルショー(2023年)75,138名(2022年比222.4%)、第50回東京モーターサイクルショー(2023年)139,100名(2022年比112.7%)、第2回名古屋モーターサイクルショー(2023年)42,355名(2022年比117.0%)

 

MT125は一貫したMTスピリットを受け継ぐ末弟モデル

2014年にセンセーショナルなデビューを飾ったMT-09(画像は現行モデル)

まず神谷さんに、MT125のコンセプトやデザインのこだわりについて尋ねました。

デザインコンセプトは『Capturing by Entertainment』。

毎日のコミューティング※1を想定したモデルになりますが、そのコミューティングが少しでも楽しくなるよう、エンターテイメント性の溢れるデザインを目指しました。

また、排気量のポジショニングから、ターゲットは日本・アジア含め大学生や新社会人といった若者層としています。

マインドとしては大型バイクへの憧れや、アクティブなライフスタイルに憧れる若者に訴求したいと考えていたため、MTシリーズの本質であるトルク&アジャイル※2をスタイリングでしっかり表現しました。そのため、このMT125にもMTシリーズの血筋はしっかりと引き継がれています。

※1:コミューティング=通勤・通学などで移動すること
※2:アジャイル=素早く、俊敏な

 

MT125のイメージスケッチ

スタイリングにおける特徴は、 “アジャイル”というキーワードを成立させ、自由度の高いライディングを想像していただくために、シートからタンク、そしてハンドルなどといったユーザーのタッチポイントに重点を置き、作り込みにこだわりました。

価格的には求めやすい位置にありながら、MTシリーズを感じさせる刺激的な表情も、MTブランドに通ずるものになります。

 

日常と非日常で乗るバイクを変えてユーザーマインドを毎日シミュレーション

高校生の時に二輪免許を取得してから、多くのバイクを乗り継いできたという神谷さんですが、デザイナーとしてバイクと向き合うことについて、どのような努力をしてきたのでしょうか。

バイクの使い分けはハッキリしています。通勤に使うバイクは、自分がプロジェクトに関係性のあるバイクを購入し、ユーザー(所有者)の気持ちに到達するまでトコトン乗り込みます。そのため、プロジェクトが終了したら、次のプロジェクトに向けてバイクを乗り換えることもあります。

一方で、週末のプライベートな時間は、完全に自分が没頭できる趣味の時間として頭を切り替えています。例えば、古いバイクをフレームから収集し、必要な部品を探しては一つひとつ組み上げていく、まるで実物大のプラモデルのような楽しみ方をしています。

普段からバイクユーザーの気持ちを知るための努力をしながらも、趣味としてもユニークな視点でバイクを楽しんでおり、バイクを主軸にオンもオフも没頭している様子が伺えます。

 

バイクデザイナー神谷さんの興味はバイクだけにとどまらず

最近、神谷さんがプライベートでハマっているのはアウトドアとのこと。しかし、“アウトドア”と聞いてキャンプそのものやキャンプツールなどを思い浮かべて会話を進めていたら、少しスケールが違いました。

自宅の庭先に張るタープを簡単に美しく見せるために、D.I.Y.で木製のフレームを自作してしまったとのこと。このしっかりとしたフレームに張られたタープの下で、さわやかな風を受けながらくつろぐのは至福の時間とのことでした。

そんな感性豊かな神谷さんは、バイクに対する最近の日本人の価値観を次のように捉えていました。

感覚的な意味では、「(過去のモデルも含めて)性能や見た目を重視する志向」と「自分の身の丈志向」に二極化していると思います。前者はいわゆる“バイク好き”による往年の価値観。後者はそこまで全精力を注いで傾倒するまでではないものの、バイクに興味があり自分のライフスタイルを今よりも楽しいものに変えてくれそうという比較的新しい価値観があるように思います。また、技術面においても燃費や排気ガス値などといった環境性能が進化しています。さらに最近ではサステナブルな価値観も重要視するマインドの変化も起こっています。ただし大事なポイントとしては、バイクそのものが持つ“人間の五感”に訴えかける部分は、今も昔も変わらずバイク特有の普遍的な魅力であり価値なのではないかと思います。

思い返せば、バイクに使用する材料の進化やエンジン性能の進化など、各時代においてバイクは様々な技術進化を遂げてきましたが、バイクそのものの魅力や乗ることの喜び・感動は常に普遍的であり、むしろ技術進化によってさらにダイレクトに伝わるようになってきているのかもしれません。

 

これからのバイクデザインはどのように変化(進化)する?

21世紀初頭から、特に3D技術の革新によって、当然のことながらデザイン作業や二次元のスケッチなどのスタイリング確認にも用いられるようになり、データを立体的に(実体かのように)表現する技術が大幅に進化しました。

最後に、こうした先端デジタル技術がバイクデザインにどのよう影響をもたらすのかについて伺いました。

今後重要になってくるのはやはりAI技術ではないでしょうか。

クリエイションの場でのAI活用により、より効率的な作業への期待も考えられるほか、情報技術の進化によって従来までは考えが及ばなかった潜在的なユーザーに対する魅力的な提案や具体化された世界観のアプローチが期待できます。

しかし、同時にAIを扱う側(AIにインプットする側)にいる人間の発想力も非常に重要になってくるでしょう。少し話を戻すと、バイクをデザインする上で重要になるのが“人間の感覚領域の部分”です。それらを無くして本質、つまり“バイクの楽しさ”は語れないですし、今を超えるバイクは創造し得ないとも思います。なにより、常に人間が考える提案がAIを進化させていって欲しいとも思います。

今後、人が乗ることのないバイクが世の中に必要とされれば話は変わってきますが…。

本来、バイクは操ることによって楽しさを感じ、それこそが大きな魅力の一つと言われていますが、まだその楽しみを知る人は多くありません。しかし最近、若者の間で新たな趣味としてバイクが徐々に注目され始めました。そんな今だからこそ、もっと多くの若者にバイクに乗る楽しみを知ってもらいたいものです。

 

神谷さんのデザイン哲学は、バイクの魅力が人間の五感に訴えかける部分にあるという考えに基づいており、今回携わったMT125においてもデザインからエンターテイメント性を追求し、バイクの本質的な楽しさの可能性について表現されました。

人間の感覚領域を重視し、それを無くしてはバイクの楽しさの本質は語れないと語る神谷さんのバイクへの情熱と独自の視点は、新たなバイク体験を提供し、若者の間でバイクが新しい趣味として注目されるきっかけを創出するのではないでしょうか。

ヤマハ・MT125に跨り、神谷さんのデザインにかけた情熱を是非感じとってみてください。

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