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【親子三世代】バイクの楽しみ方と伝え方の秘訣とは?(木村大輔さん)

「血は争えない」という慣用句のとおり、親子または親族における才能の遺伝はよく耳にする話だ。プロ野球選手の息子が野球界に入ったり、政治家の孫もまた同じ道を志すといったように。そしてそれは二輪モータースポーツの世界においても少なからず存在する。

今回は、親子三世代に渡って二輪モータースポーツの道へと進む木村大輔(きむらだいすけ)さん親子に、バイクの楽しみ方や伝え方の秘訣を伺ってみた。

趣味嗜好の多様化が話題となる昨今、なぜ二輪モータースポーツの道を志すことになったのか。そこには、特異なコミュニケーションがあるのではないか。

 

初代チャンピオンの息子というプレッシャー

トライアル世界チャンピオンミックアンドリュース氏と治男さん、大輔さん親子

静岡県在住の木村大輔さん(以後、大輔さん)は、トライアルバイクショップを営む傍ら、いまも現役のプロライダーだ。そして彼の父である木村治男さん(以後、治男さん)もまたプロライダーであり、全日本トライアル選手権の初代チャンピオンだった。

大輔さんが小学2年生の頃、現役のプロライダーであった父の治男さんは、軽い気持ちで大輔さんをバイクに乗せてみた。その時のことを大輔さんは今でも鮮明に覚えていて、自らの意志は無く全く気乗りしなかったそうだ。

いざバイクに跨がれば、「あれがチャンプの息子、サラブレッド、金の卵だ」といった周りの人からの視線を一斉に浴び、バイクを楽しむどころか、単なるプレッシャーでしかなかったと語る。

一方、父である治男さんは「木村家としてバイクに乗ることは避けて通れない。まずは体験させてみよう」という気持ちだったと当時を振り返る。

※トライアルとは、岩場や崖など、高低差や傾斜のある土地に設定されたコースを、バイクに乗ったまま、いかに足をつかずに走り抜けることができるかを競う競技のこと。

 

友達と一緒にバイクに乗った日、初めてバイクの楽しさに目覚める

ロープをつけて後ろから追いかける母親

そんな後ろ向きな気持ちだった大輔少年に転機が訪れたのはその数年後。

親子バイクスクールというレッスンに同級生たちと参加する機会があった。この時初めて同年代の友達と一緒にバイクを体験し、面白さや大変さを共感し合えることで、ようやくバイクの楽しさを味わうことが出来たのだった。

「母親は心配されませんでしたか?」と尋ねると、治男さんは当時のこと振り返り、バイクで危険が及ぶ場面には、プロとして、また父として細心の注意を払っていたため母親もそこまで心配はしていなかったほか、スピードではなく操作技術を競いあうトライアル競技から始めさせられたのは、息子の経験として良かったのではないかと語ってくれた。

 

競技の上ではライバル関係。それが親子の絆をさらに深める

大輔さん(右)、治男さん(右から二番目)。大輔さん13歳の大会初陣(全日本四十雀トライアル)

大輔さんにとっての一番の思い出、それはトライアル競技の大会に親子で参戦したこと。

当然、周りは親子対決と冷やかし、大輔さんもまさか年老いた父に負ける事はないと思っていたが、難所と呼ばれる急坂を大輔さんが、あの手この手でなんとか登った後、父は腰を据えたドッシリとした走りで軽々と登り、結果的に治男さんに敗北を喫することとなった。

実はこの大会で、大輔さんのマシンは途中から調子が悪くなり、その後ずっと息子のマシンを父親が修理してくれていた。自分も同じ大会に参加しているにも関わらず、それでも文句ひとつ言わず、黙々と大輔さんのマシンを修理してくれる父の背中を見て、感謝と共に偉大さを感じたとのことだった。

 

楽しさは伝えるものではない。本人が楽しいと感じられる世界を見つけること

左から治男さん(祖父)、倭さん(孫)、大輔さん(父)

どんなバイクも好きだと語る大輔さんは、今では古いバイクやクルーザーモデルなど、車種やジャンル問わず楽しんでいるという。そのことに対し治男さんは「自分の考えや思考を押し付けず、選択肢としてトライアルを教えただけ。」と笑顔で語ってくれた。

「お子さんにバイクの楽しさをどう伝えるのがよいのか?」と尋ねると、「まず絶対にネガティブな記憶を植え付けてはいけない。スパルタ教育や、モノで釣るような手法ではなく、とにかく本人が楽しいと思える世界を見つけること。レースではいつか勝てなくなる日が来るので、息子にはバイクの楽しさを感じいつまでも楽しいバイクライフを過ごしてもらいたい。自分もそうしたい。」と、目を細めていました。

 

大輔さんから息子(倭さん)へバイクの楽しさの伝え方

大輔さんは幼少期、バイクトライアルと並行して自転車トライアルも練習しており、こちらの場合は周囲の過度な期待や視線もなく、同年代の友達もいて楽しかったようだ。そんな記憶からか、大輔さんの息子(以下、倭=やまとさん)にも、トライアル一家の3代目として、過度な期待に悩まされぬよう配慮しているとのことだった。

倭さんが三歳の頃、初めて乗った二輪車はペダルなし自転車だ。芝生の広がる公園で、走り回ることなく、なぜか石を見つけては乗り越えているのを見て、大輔さんも血筋を感じずにはいられなかったそうだ。そしてそのペダルなし自転車もボロボロになるまで乗り潰した。

それから数年経ち、倭さんも父や祖父がトライアル競技に挑む姿を見て、自分も上手くなりたいと憧れを抱き始めた。

 

親子で支える孫の未来

現在、倭さんは自転車のトライアル競技における将来有望なライダーへと成長している。

しかも、2021年6月27日に長野県佐久市で行われた全日本トライアル選手権(自転車競技)の11~12才の部で優勝という快挙も成し遂げた。

少し前までは、自転車ではなく、将来の夢に向かい早々にバイクに乗り換えようかと迷っていたそうだが、優勝できたことで気持ちの変化があり、踏みとどまる決心がついたとのこと。そのため今では、父親からは身体作りに必要最大限の食事やトライアルに効率的なトレーニングを伝授してもらい、自転車のメンテナンスは祖父にお願いしているそうだ。

バイクに乗り換えるのは、しっかりと身体を作ってからと、笑顔で語ってくれた。

 

親には親の願いがあるが、子どもにも同様に自我がある。

バイクや自転車など、自分の好きなことに我が子も誘引したいと考えるのであれば、我が子が楽しいと思える世界を一緒になって見つけ、それを尊重することなのではないだろうか。

祖父が孫を、父が子をバックアップし、そして孫がそんな父や祖父の楽しむ姿に憧れ、何世代にも続くバイクライフが形成されていくのであろう。

皆さんのお子さんが成長されて自転車やバイクに興味を持ちそうになった時、この記事を読んで少しでも参考になれば幸いだ。

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