ライダーを守るために。4メーカーが本気で取り組む「事故ゼロ」活動

バイクの楽しさは、安全に走り、無事に帰ってきてこそ続いていくものです。国内二輪メーカー4社は、車両そのものの安全性能を高めるだけでなく、ライダーの知識や運転技術、安全意識を育てるための活動にも長年取り組んできました。

納車時のアドバイスからライディングスクール、親子で参加できる体験教室、さらにはWEBコンテンツまで、そのアプローチは各社さまざまです。

では、それぞれが安全をどのように捉え、ライダーに何を伝えようとしているのでしょうか。カワサキ、スズキ、ホンダ、ヤマハの国内二輪メーカー4社の担当者が、各社の想いと取り組みをご紹介します。

国内4メーカーに共通する「安全があってこその楽しさ」

警察庁が2026年2月に公表した統計によると、2025年の交通事故死者数は2,547人で、前年より116人減少しました。そのうち、自動二輪車と一般原付を合わせた二輪車乗車中の死者数は476人。前年より11人減少しているものの、交通事故死者全体の18.7%を占めています。

今回、国内二輪メーカー4社に安全運転普及活動を通じて最も伝えたいことを聞いたところ、表現は異なっていても、そこには共通する考え方がありました。

カワサキ「私たちは『安全だからこそ、もっと楽しめる』ということをお伝えしたいと考えています。二輪車を安全に楽しむためには、車両の知識や運転技術だけでなく、自身の状態を把握し、周囲の状況を予測する意識も重要です」

スズキ「安全こそ楽しさの基盤と考えております。正しい知識と運転技術を身につけ、気持ちに余裕を持つことで、バイクライフを楽しみ続けていただきたいと考えています」

ホンダ「混合交通の中で、全ての交通参加者に思いやりを持った運転を心がけ、加害者にも被害者にもならず二輪車の持つ有用性や楽しみを末永く享受して頂きたい」

ヤマハ「ライダーの皆さまに最も伝えたいのは『安全があってこそ、バイクの楽しさがある』ということです。Yamaha Riding Academy(YRA)の理念である『正しく・安全に・楽しく・役立つように』に基づき、安全運転普及活動を続けています」

安全は、バイクの楽しさを制限するためのものではなく、長く楽しみ続けるための土台である。その認識は4社に共通しています。

では各社は、その考え方をどのような活動へ落とし込んでいるのでしょうか。

カワサキ:日常の接点から「安全に操る喜び」を伝える

カワサキが安全運転普及活動の根底に置くのは、ライダーに「移動する楽しさ」や「操る喜び」を安心して味わってもらいたいという思いです。

「カワサキは、二輪車を通じて移動する楽しさや操る喜びを提供したいと考えています。そのためには、お客様が安心して二輪車ライフを楽しめる環境づくりが重要です。当社では、安全アドバイスやイベントでの安全啓発活動を通じて、安全意識と運転技術の向上を支援しています。安全運転普及活動は、二輪車文化を発展させるための重要な取り組みであり、販売会社として推進していきます」

その考え方が表れているのが、ライダーとの日常的な接点を活用した安全啓発です。

「カワサキでは、納車時などにSafety Riding Adviceハンドブックを活用した店頭での個別安全指導、カワサキプラザ主催イベント等におけるSafety Riding Adviceハンドブックやツーリングガイドの配布・活用による安全推進活動を通じて安全運転普及活動を実施しています」

販売店やイベントなど、ライダーと直接接する機会のなかへ安全啓発を組み込んでいるのがカワサキの特徴です。「安全だからこそ、もっと楽しめる」。操る喜びを伝えるメーカーだからこそ、その前提となる安全にも継続して向き合っています。

スズキ:若者とリターンライダーへ開く安全の扉

スズキの安全運転普及活動で特徴的なのが、経験や年代に応じて用意された3つのライディングスクールです。

  • U30スズキセイフティスクール:若年層・初心者向け
  • スズキリターンライダースクール:リターン・初心者向け
  • スズキ北川ライディングスクール:中・上級者向け
スズキ北川ライディングスクールの様子

2025年には、U30スズキセイフティスクールを2回開催し23名、スズキリターンライダースクールを3回開催し43名、スズキ北川ライディングスクールを4回開催し123名が受講しました。

なかでも特徴的なのが、若年層を対象とするU30と、リターンライダーを主な対象とするスクールをそれぞれ設けている点です。

U30スズキセイフティスクールの様子

「U30は年齢を区切ったスクールとすることで若年層が気兼ねなく参加できるスクールとしたいという狙い。一方でリターンライダーは30歳以上が対象であることがわかるような名前にすることでスクールの内容を明確にし、気持ちと体力のバランスを考慮したスクールとしたかった思いがあります」

また、U30スクールではGSX250Rのレンタル車両も用意されており、まだ自分のバイクを持っていない人でも参加できます。その狙いについてスズキは、次のように説明します。

「免許は取得したものの公道走行に自信が無く一歩踏み出せないでいる方や、リターンを考えているが車両を購入する前にスクールを受講してから購入したい等の要望に応えるためです。低速での安定性や乗りやすさを重視しGSX250Rを選択しています」

スズキリターンライダースクールの様子

さらに、「安全運転のため」と「スキルアップのため」を両立するカリキュラムでは、こんな工夫をしているといいます。

「運転行動の仕組みや、身体の操作が車両の挙動に与える影響を解説しています。その後、実技では基本操作に関するカリキュラムをじっくり練習し、一人ひとりの技量に応じた個別アドバイスを行うことで、操作への自信と安全意識を同時に高める工夫をしています」

参加者からは「受講生の年齢が近いので気兼ねなく受講できる、教習所ではできなかった練習を1日かけてできる(U30スズキセイフティスクール参加者)」「休憩も多くせかされず受講できる、何年も乗車していなかったがスクールに参加したことで安心してリターンできる(スズキリターンライダースクール参加者)」などの反応が届いているとのこと。

「スクール受講後に『車両を購入し公道デビューしました』や『リターンライダーとして自信がつきました』などポジティブなお言葉をいただけております。また、北川スクールにステップアップして受講していただけることもあり、手応えを感じております。

開催回数等が十分に対応できておらず、受講者の要望に応えられていないことや、若年層がスクールに参加していただくことが課題ですが、開催地域や回数を増やし、より多くの方に参加いただけるようにしていきたいと考えています」

ライダーを一括りにするのではなく、年齢や経験、不安の内容まで見ながら、その人に合った学びの場をつくる。そこにスズキの安全運転普及活動の特徴が表れています。

ホンダ:1970年から続く「人から人への手渡しの安全」

ホンダが安全運転普及活動を始めたのは1970年10月。以来、活動の軸としてきたのが「人から人への手渡しの安全」と「参加体験型の実践教育」という二つの考え方です。

「車両や安全デバイスがどれだけ進化しても最終的に操作するのはヒトであるため、車両の正しい知識や正しい操作については個々にお伝えすると同時に、実車を使って専用コースで専門のインストラクターによる参加体験型実践教育も大切だと考えています」

その実践の場となっているのが、もてぎ、和光、埼玉、浜名湖、鈴鹿、福岡、熊本の全国7か所に展開する交通教育センターです。

ライダー向けにはHonda Motorcyclist School(HMS)をはじめ、親子でバイクを楽しみながら交通安全を学ぶ「親子でバイクを楽しむ会」などを開催。オンロードやオフロードなど、参加者のレベルや目的に応じたプログラムが用意されています。

「HMSはスキル偏重ではなく、公道で安全に走行頂くための安全意識向上+スキルアップを狙いとしています。一方、親子でバイクを楽しむ会は、インストラクターはあくまでサポート役として、基本は保護者が先生役となり、バイクを通じた親子のコミュニケーションと交通安全意識の向上、マナーアップを目的としています」

HMSは全国5か所の交通教育センターで年間1,000回以上開催され、延べ15,000人以上が参加しています。また、個人向けのスクールだけでなく、企業・団体向けの安全運転研修にも対応しています。参加者からは、「安全意識が向上した、スキルアップした」といった声が多いといいます。さらにホンダは現在、世界43の国と地域で安全運転普及活動を展開しています。2023年度には、海外で約450万人が教育プログラムを受講しました。

そして「人から人へ」という考え方は、安全を教える側であるインストラクター(指導員)の育成にも及びます。インストラクター養成研修や競技会などを通じて指導技術と考え方を継承し、次の指導者を育成する仕組みも整えています。

さらにホンダは、2050年に全世界で「Hondaの二輪車・四輪車が関与する交通事故死者ゼロ」を目標に掲げています。そのマイルストーンとして、2030年には、全世界でHondaの二輪車・四輪車が関与する1万台当たりの交通事故死者数を、2020年比で半減させることを目指しています。

車両技術が進化しても、最後に判断し、操作するのは人です。1970年から半世紀以上にわたり、ホンダが安全教育を「人から人へ」伝え続けてきた理由は、そこにあります。

ヤマハ:子どもから大人まで「体験」と「学び」の場を広げる

ヤマハが安全運転普及活動の軸に据えるのが、世界各国で展開するYamaha Riding Academy(YRA)です。その理念をこう説明します。

「当社にとって、お客さまの安全と安心は事業活動の根幹であり、モビリティを提供する企業として最も重要な責任の一つです。ヤマハ製品をお使いいただくお客さまに、安全かつ正しく製品をご利用いただくため、取扱説明書による情報提供や販売店での説明、適切な装備の推奨、定期的なメンテナンスの案内などを行っています。

しかし、二輪車の安全は製品性能だけで実現できるものではなく、ライダー自身の『安全意識』と『運転技量』の向上も欠かせません。そのため当社では、世界各国で展開するYamaha Riding Academy(YRA)を通じて、安全運転の啓発とライディングスキルの向上を目的とした活動を継続しています。

YRAは、お客さまがヤマハ製品を『正しく』『安全に』『楽しく』『役立つように』お使いいただき、期待する価値を最大限に実現できるよう支援する安全運転普及活動です。お客さま一人ひとりが安心してモビリティライフを楽しめる環境づくりを目指し、安全運転普及活動に取り組んでいます」

また、次世代ライダーの育成として注力しているのが、小学生以上の子どもと保護者が一緒に参加する体験型プログラム「ヤマハ親子バイク教室」です。

「バイクの楽しさと交通安全を“親子で”学べる体験型プログラム『ヤマハ親子バイク教室』を全国各地で開催しています。本プログラムは、小学生以上のお子さまと保護者が一緒に参加し、バイクの基本操作や交通安全を楽しく体験できる教室です。保護者にバイクの知識や免許がなくてもインストラクターがサポートするため、安心して参加いただけます」

プログラムは4段階に分かれています。

  • 体験コース:気軽に参加できる直線走行のみのコース
  • トライコース(入門):バイクの仕組み、走る・曲がる・止まるの基本操作を体験
  • サーキットコース(基礎習熟):設定課題に取り組み、より自由に操作するテクニックを身につける(保護者伴走可)
  • アドベンチャーコース(オフロード体験):凹凸道や小さな山越えにチャレンジし、自然の中で冒険気分を味わう(保護者伴走可)

2025年は37回開催され、1,133名が参加しました。なお、この活動は、“楽しさだけでなく教育的価値も高い”として第11回キッズデザイン賞「審査委員長特別賞」を受賞しています。

一方、免許保有者向けには「車両貸出レッスン」と「車両持込レッスン(オーナー向け)」があり、それぞれオンロードとオフロードを展開しています。

「オンロードレッスンの主な対象者は、免許取得後まだ公道を走ったことのない方、久しぶりにバイクに乗るリターンライダー、運転技量に不安を感じているビギナーライダーです。基本的な車両操作や安全運転のポイントを実践的に学んでいただくことで、安心してバイクライフを楽しんでいただくことを目指しています。

一般のお客さま向けのレッスンに加え、ヤマハ製品を導入いただいている企業様向けに、座学と実技を組み合わせた安全運転講習も実施しています。企業で車両を利用される方々の安全意識向上と事故防止に貢献することを目的としています」

レッスン受講後にバイクを購入した方へ「レッスンが購入の判断に影響したか」を伺ったところ、91%が「影響した」と回答。安全に乗るための知識や技術を学ぶ機会が、バイクライフを始める後押しにもなっていることがうかがえます。

さらに、WEBサイトでも、気軽に学べる安全コンテンツを発信しています。

「実際のレッスンや講習会だけでなく、WEBサイトを通じて気軽に学べる安全コンテンツも提供しています。その代表的な取り組みが『乗らずに学べるバイクレッスン』です。初心者ライダーやリターンライダーの方々を中心に、公道を安全に走るための知識やライディングのコツ、バイクの仕組みやメンテナンス、安全装備の重要性などを、ブログを通じて分かりやすく紹介しています。内容としては、坂道発進や通行ルールの解説、交差点での注意点、ライディングポジションの調整方法、安全なツーリングの楽しみ方、日常点検やメンテナンス、クラッチやトランスミッションの仕組みと操作のポイントなど、幅広く取り上げています」

近年は参加者から「もっと壮大な景色の中を走ってみたい」という声を受け、宿泊型の「ヤマハバイクレッスン プレミアムツーリング」も始まりました。

「プレミアムツーリングでは、単なるツーリングイベントではなく、まず初日にしっかりとレッスンを受講していただき、自信と安心感を身につけたうえで、翌日に雄大な景色の中をツーリングしていただくというプログラムにしました」

子どもにとっての最初のバイク体験から、初心者、リターンライダー、そしてツーリングを楽しみたいライダーまで。ヤマハは、それぞれの段階に合わせて安全を学べる場を広げています。

「売って終わり」ではない。安全に乗り続けるところまでがメーカーの役割

国内二輪メーカー4社が取り組む安全運転普及活動について見ていくと、その方法にはそれぞれ特徴があります。

カワサキは販売店などライダーとの日常的な接点からしっかりと安全を伝え、スズキは年代や経験に応じた裾野の広いスクールを展開。ホンダは半世紀以上にわたって「人から人へ」安全を伝える仕組みを育て、ヤマハは子どもから大人、リアルな体験からWEBまで、幅広い入り口を用意しています。

方法は違っても、4社に共通しているのは、バイクを販売することをゴールにしていないという点です。

ライダーが安全に走り、無事に帰り、また次のツーリングへ出かけられること。その積み重ねがあって初めて、バイクを長く楽しむことができます。

免許を取ったばかりの人も、久しぶりにバイクへ戻ろうとしている人も、長く乗り続けているベテランも、一度自分に合ったスクールや安全コンテンツを探してみてはいかがでしょうか。

安全を学ぶことは、バイクの楽しさを減らすことではありません。むしろ、安全への意識と技術を磨くことも、バイクをこれからも楽しみ続けるために欠かせないライディングスキルの一つです。

カワサキ|セーフティライディング

https://www3.kawasaki-motors.com/safety-riding/

スズキ|交通事故の削減

https://www.suzuki.co.jp/sustainability/social/safety.html

ホンダ|交通教育センター

https://global.honda/jp/safetyinfo/center/

ヤマハ発動機|安全普及活動

https://global.yamaha-motor.com/jp/sustainability/social/safety/riding-safety-promotion/

警察庁|令和7年における交通事故の発生状況について

https://www.npa.go.jp/news/release/2026/20260226jiko.html

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