電動バイクは普及するの?産官学ですすめる「eやんOSAKA」の狙いとは?
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「近い将来バイクは全て電動になるの?」そんな疑問をよく耳にするようになりました。
これは、120以上の国と地域で2050 年までに「カーボンニュートラル」を目指すという取り組みに対して日本も合意し、当時の菅首相によって「2050年までに温室効果ガスの排出を”実質ゼロ”とする」という宣言が出されたことに起因するものでしょう。
しかしバイクを全て電動化するには多くの課題があることも事実です。
そこで今回は、電動バイク普及の可能性について検証を進める「e(ええ)やんOSAKA」というプロジェクトについてご紹介いたします。
カーボンニュートラルとは?
昨今世界中で頻発する異常気象。その原因の一つとされる地球温暖化。その温暖化の原因となる二酸化炭素やメタン、フロンガスといった「温室効果ガス」の排出を”全体としてゼロ”にして、脱炭素社会の実現に向けて世界中が取り組み始めています。
重要なポイントとしては、温室効果ガスの排出自体を無くす取り組みではなく”全体としてゼロ”にするという点です。これは「排出量-(吸収量+除去量)」で差し引きゼロにすること、つまり「ニュートラル(中立)」を目指しており、それを「カーボンニュートラル」と言います。
現在走っている内燃機関バイク(ガソリンで動くバイク)が電動バイクに置き換わることで期待できるメリット、それは「低炭素=二酸化炭素(CO2)排出量の削減」です。
しかしながら、日本国内の運輸部門におけるCO2年間総排出量に対し、バイクが占める割合は0.4%(2018年)に過ぎず、バイクの電動化は低炭素化に向けた一つの手段であることを予めご留意ください。
国内における電動バイクの歴史と課題
国内バイクメーカーは、1990年代から電動化の取り組みを行っており、過去に8モデルの電動バイクが発売されました。 しかし、以下のような様々な制約がユーザーにとっての懸念材料となり、なかなか普及までは至っていません。
<課題は主に航続距離>
- 車体が小型なため、クルマのような大容量バッテリーが搭載できず航続距離が確保できない
- 充電のために自宅に戻らなければならないため、行動範囲が自宅を中心とした航続に限られる
<次に充電時間>
- 充電している時間は乗ることができない
- バッテリー数を増やせば航続距離は増えるが、充電時間も増えていく
<あとはコスト>
- バッテリーの仕様がメーカーで異なり、かつバッテリー調達量が少ないため、購入コストが高くなり、その結果車両価格が高額になる、などです。
「eやんOSAKA」の考える電動バイク普及に向けた課題解決方法とは?
これらの解決策として考え出された仮説が、”交換式バッテリー”を使用した電動バイク(以下、交換式バッテリー電動バイク)の使用と、バッテリーステーション設置による電動バイクの普及です。
交換式バッテリーとは、着脱式電池を用いて街中で満充電のものと交換するといったように、インフラとセットでの普及を想定した電池のことです。
交換式バッテリー電動バイクであれば、移動先で充電済みバッテリーに次々と交換できるようになるため、充電時間や航続距離の心配もなくなります。ましてや、外出の際に充電器を持って行くようなことも無くなります。また、サブスクリプション型の交換式バッテリーを採用することで、車両価格に改善の余地もあります。
しかし、この解決策は各バイクメーカー単体だけでもユーザーだけでも実現できません。これが「eやんOSAKA」をスタートするきっかけでした。
なお、この交換式バッテリー電動バイク普及のキモとなるバッテリーについては、「電動二輪車用交換式バッテリーコンソーシアム」において、日本での電動バイク普及に向けて相互利用を可能にする交換式バッテリーとそのバッテリー交換システムの標準化(共通仕様)に関する取り決めに、国内メーカー4社が2021年3月に合意しました。
この共通仕様のバッテリーを使うことで、将来的にメーカー(車種)を問わずバッテリーが利用でできるようになるほか、バッテリー調達量の増加による安定供給や、低価格化も期待できます。
海外で進む電動化の流れ(台湾の事例)
2016年より本格的に交換式バッテリー電動バイクの販売が開始された台湾では、複数メーカーが毎年着実に交換バッテリーステーション数を増やしています。
というのも台湾では、政府が車両メーカーに協力し内需拡大と高性能な電動スクーターの開発を推進し、さらにメーカーの輸出市場拡大もより積極的にサポートすることで、台湾製の電動スクーターを世界に売り込みたいという狙いもあり、国策として電動バイク普及の補助を続けてきたという背景もあります。
例えば、「Gogoro(ゴゴロ)」という交換式バッテリー電動バイクの製造販売および交換バッテリーステーションの設置を行うメーカーでは、交換式バッテリー電動バイクの販売実績が現在約17万台、バッテリーステーション約2,000箇所にまで拡大しています。
また、台湾における交換式バッテリー電動バイクの使用比率は、全電動バイクの95%を超えるシェアとなっています。
台湾内全てのバイク販売台数における電動バイクの比率は、ユーザーへの購入補助金制度等を背景に上昇し、現在10%~20%で推移しています。
バッテリーステーションの設置に補助も行なわれており、以前に比べると電動バイクが徐々に浸透しつつある環境に向かっていると言えます。
「eやんOSAKA」に取り組むそれぞれの狙いとは?
「eやんOSAKA」は、大阪府・大阪大学・日本自動車工業会の、いわゆる”産官学”連携で、2020年9月から行っているプロジェクトです。なお、3者の狙いとしては以下の通りです。
日本自動車工業会(産)の目的は「街中でのバッテリー交換の利便性の検証と電動バイク普及を阻害する要因を洗い出すこと。さらに電動バイクの認知度向上によって、数ある移動手段の中から”選ばれる”モビリティーになることを目指す」としています。
また、大阪府(官)の目的は「大阪に多数の企業が立地する蓄電池関連分野の産業振興や、大阪・関西万博が目指しているSDG’s達成による社会課題解決ビジネス創出につなげる」。
大阪大学(学)の目的は「地域活性化と大阪府民の生活向上、および社会課題の解決に向け、大阪府包括連携協定の基づきこの取り組みを推進して行く」としています。
つまり、交換式バッテリーの電動バイクの有用性の検証しながら、電動バイクの可能性を広く世の中に知ってもらい、ひいては生活向上や社会課題の解決、ビジネス創出までを考えていこうという壮大なプロジェクトです。
なお、一部の課題対応として実証実験を延長し(半年)、10月より5期目の実験を開始。
5期目からは原付二種(125㏄クラス)に相当する機種も追加されました。
このプロジェクトをきっかけとして、ついにバイクメーカーだけではなく、地方自治体や行政も一体となって、共に問題解決に取り組む段階まで来ました。
今後の課題はインフラ整備であり、実現のためには行政の支援も必要でしょう。
次回は、「eやんOSAKA」の具体的な実証実験内容について、詳しく見ていきたいと思います。
環境省「二輪自動車・原動機付自転車の次期排出ガス規制について」
http://www.env.go.jp/council/former2013/07air/y071-48/mat01-3.pdf