リアルに匹敵する楽しさ!?ペーパークラフトバイクの世界【大熊光男さん】
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これから梅雨に入り、屋外でバイクに乗ることが減ってしまう時期。そんな時こそインドアでできる趣味として、バイクのペーパークラフトはいかがだろうか。ペーパークラフトは手軽に楽しめるうえ、完成品を飾って楽しめるので、バイクと同じように愛着を持てる点が魅力だ。
1990年代、バイク雑誌は最盛期を迎え30誌以上も存在していた。そのなかでも、ある一誌で長い間大熊光男さん(以下、大熊さん)というペーパークラフトのTV番組で3年連続優勝した経験もある方のペーパークラフトバイクが表紙を飾っており、当時のライダーたちにはおなじみの存在だった。
そこで今回は、ペーパークラフトバイクのトップランカーである大熊さんのギャラリー「P-BOX(ピーボックス)」を訪れ、ペーパークラフトバイクの魅力はもちろん、彼がどのような幼少期を過ごし、どのような感性をはぐくんだのか、そして世界観を創造するときにどのような苦労があるのかについてお話を伺った。
作り上げたものに一切の執着がなかった少年時代
建築関係の仕事をしている大熊さんの父親は、6、7歳頃から大熊さんを仕事現場に連れて行くことが多かったそうだ。そこで子どもなりに資材の切れ端などを積み木のように組み上げることで、ひとり遊びの魅力に取り憑かれていった。どれひとつ同じカタチや素材のものはないものの材料には困ることのない建築現場という環境は、幼少期の大熊さんの創造力を豊かにした。
その反面、次々に作り出した作品への執着心は一切なく、現在残っている最古の作品は上掲したバイクの水彩画だけだという。
この水彩画ですら、中学1年生が描いた作品だとはにわかに信じがたいが、彼に言わせれば、このような世界に入ってくる人間は、100人中100人とも幼少期からクラスで一番絵が上手い人ばかりだとあっけらかんとしていた。
創造の世界がくりだすサイズ感と精巧度
父親の道をなぞるように建築系の学校を卒業後、一時期は建築設計事務所に在籍していたこともあった大熊さんだが、あるとき自身で作ったペーパークラフトが少年誌のコンテストに入賞したことをきっかけに、クルマ雑誌の表紙に掲載するエンジンやクルマのペーパークラフト作品を創作するようになった。
中学生の頃から実際のバイク車両も触る機会があり、高校生でバイク免許を取得、20代では400㏄のバイクでレースにも参戦していた。その頃は、バイクレースとペーパークラフト、そしてコンビニの店長という“三足のわらじ”を履きながら、ペーパークラフト作品を作っては売り込み、一時期では4冊のクルマ・バイク系雑誌で表紙を飾っていた。
現在でもバイクに対する情熱は冷めておらず、5台のバイクを所有しているという。
創造力の源泉は自身で見たものor経験したことが中心
主な材料となる紙材は誰でも簡単に入手可能な市販の紙を使用しているが、長年の経験から、加工や接着、保存に適した紙の選定(厚み・色・硬さ・表面等)がされている。
紙の加工は「切る・丸める」をメインとし、基本的な設計は平面だ。この平面上で切り出したものを貼りあわせることで立体が生まれるわけだが、驚くべきは接着する際に貼り合わせ部分(=のりしろ)を設けないという。
不定期で開催するペーパークラフト教室でも、初めての人はやはりサイズのバランス感覚(例えば顔と胴体、腕や脚のバランス)に苦労し、のりしろのない接着方法にも手を焼くそうだ。このあたりは冒頭の通り、幼少期に決まりのない素材で工作をし続けたことで鍛えられた大熊さんの創造力がクリエイティビティの根底に生きているのではないか。
大熊さんが作品を作る際のソースは、普通の人と変わらず自身が実際に見たものや映像・画像だ。しかも驚いたことに、イメージスケッチや設計図といったものはなく、脳内にある精巧な見取り図だけを頼りに創造するそうだ。
現実の風景に溶け込む絶妙な躍動感
ペーパークラフトバイクを製作する場合は、まずモチーフとするバイクの車種を決め、次に乗り手を想像し、その乗り手がどのような使い方をするかまでを想像したうえでロケハンまで行うそうだ。
最も重要なのは天候で、風があってはダメ。雑誌などの掲載は1ヶ月ほど先なので、そのタイミングに合わせた風景や日差しが大事になってくる。
最近のカメラはモニターが回転して動くので楽になったが、20年くらい前まではモニターが固定だったので地面に這いつくばって撮影していた。
多少の画像処理はするものの(斜めにするのに針金などの支えを消す作業)基本何もしないようにしているとのこと。
作ったバイクに合う光や空気感を見つけるのが最大のキモとなる。
もしも撮影現場周辺でお子さんに見つかると、興味を持って集まって来てしまうのは嬉しい悩み。小石や小枝であっても巨大な岩や巨木のように映ってしまうこともある。こうしたことに注意しながら、作品が風景に溶け込むような角度で撮影することで、上のような躍動感あふれる写真が完成する。
広がるペーパークラフトの世界
現在はつくば市を拠点に、同じくペーパークラフトアーティストの酒井志保さんと夫婦でペーパークラフト教室なども積極的に開催しているという大熊さん。
ツーリングに行った先を撮影して、ハードディスクで保管したままの人が大半かと思うが、今後、なかにはペーパークラフトに興味を持ったライダーがツーリング先の思い出をペーパークラフトにして残すライダーも現れるかもしれない。
大熊さんのペーパークラフト作品を眺めながら、思い出の現像方法に新たな可能性を感じた。