バイクで脳の活性化実験【第二弾】様々な乗り物で比較してみた結果を公開!
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前回の記事では、バイク乗車中におけるライダーの脳の働きを計測するために用意された計測器によって、脳が活性化しているという測定結果が出たところまで。
バイクの操作は左右手足で異なる操作を行うため、多くの関係者が「バイクに乗ることで脳が活性化する」という想定は出来ていたものの、科学的な証明にまでは至っていなかった。それが証明できた一方で、普段からバイクもクルマも利用する人にとっては、どのようなモビリティと走行シチュエーションが最も効率良く活性化するか?という疑問を生むこととなった。
そこで脳活性化実験の第二回となる今回は、一般的に常用されることの多いモビリティを用意して様々な走行シチュエーションで脳の活性化を比較し、さらに個人が普段から乗っているモビリティによっても脳の働きに変化があるのかについて検証した過去の実験結果を、東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授(以下川島教授)とともに振り返りながらお話を伺った。
バイク・クルマ含め様々な乗り物を用意して挑んだ実証実験
今回、実験のために用意した乗り物は以下の7種類。
- 電動アシスト付き自転車
- スクーター(原付一種)
- クルマ(MT)
- クルマ(AT)
- スクーター(400cc)
- ネイキッドバイク(5速MT /400cc)
- オフロードバイク(5速MT/125cc)
被験者は、男性31名:女性1名、年齢は19~60歳まで(平均年齢36.8歳)で全員右利きの方に参加していただいた。また、日常的なモビリティの運転経験でも以下の5項目に分別し、各5名以上に協力していただき検証した。
- 普段乗り物に乗っていない方
- 日常的に原付スクーターを利用
- 日常的にオフロードバイクを利用
- 日常的に中型以上のバイクを利用
- 日常的に中型スクーターを利用
※オフロードバイクは実際のオフロードコースでの走行を行った
“ギア付き”の運転には脳が活発に働く傾向
実証実験の結果としては、クルマ(MT)、ネイキッドバイク(5速MT /400cc)、そしてオフロードコースを走行したオフロードバイク(5速MT/125cc)、これら3つのモビリティを運転中に前頭前野の活動が高い傾向にあった。
なお、電動アシスト付き自転車は本実験の初期段階で脳の活動が低いことが判明したため実証実験から除外した。
また、日常的に利用しているモビリティによる前頭前野の活動に違いが見られたものの、顕著な明らかな傾向や特色など判明しなかった。
上記の表は、左が「スクーター(400cc)」、右が「ネイキッドバイク(5速MT /400cc)」で、それぞれ日常的に異なるモビリティに乗っている人に走行していただいた際に計測した酸化ヘモグロビンの量だ。
同様に左は「スクーター(原付一種)」、右は「オフロードバイク(5速MT/125cc)」で走行していただいた際の比較となる。
全体的な傾向としては、走行時の操作量や周囲の変化に対して身体の対応を多く要するモビリティほど、脳を使っていることがわかる。
脳が活性化するからといって、走行時の操作量を増やし安全面に支障をきたしては本末転倒であるため、現在世界中に普及している乗り物の中で「ギア付きバイク」は、ある意味で合理的に脳を最大限活性化させられる数少ないモビリティなのかもしれない。
走行シチュエーション別で脳の活性化を比較
次に行った実証実験は、バイクで想定されるシチュエーションでの脳活動の比較である。実験に使用するモビリティは、クルマのAT化が進みMTのクルマに乗るユーザーが減ってしまったことや、オフロードバイクでオフロードコースを走ることも一般的でないので、ネイキッドバイク(5速MT /400cc)でテストすることとなった。
バイクを操作するシチュエーションとしては以下の5項目だ。
- 発進して加速する
- ブレーキをかけてカーブに入る
- 小さめのカーブを旋回する
- カーブ出口から加速する
- ブレーキをかけて停止する
また被験者は、普通自動二輪免許を保有している男性11名:女性2名、年齢は23~65歳まで(平均年齢38.1歳)、全員右利きの方に参加していただいた。
この実験においては、日常的にバイクに乗っている人と、スクーターに乗っている人に分けて比較した。
この実験で判ったことは、全般に「ネイキッドバイク(5速MT /400cc)」の方が「スクーター(400cc)」よりも様々なシチュエーションで大脳右半球にある前頭前野の活動が高い傾向にあったことだ。さらに、ブレーキ操作や小カーブでの車体操作などといったように繊細な操作を要する場面では、さらに前頭前野の活動が高まった。
実験結果となる科学的データからも、やはりバイク操作と走行中の周辺環境への注意が脳の活性化につながっていると言える。
MTバイク利用はスクーター利用よりも脳が活発に働く傾向
計測器から送られる電波の受信漏れがないように被験者とも入念な打ち合わせをし、左回り・右回り各5周ずつ、電波受信圏内の決められたコースを周回してもらった。
この実験から判ったことは以下の2つ。
1つ目は、日常的なMTバイクの利用者と、スクーター利用者の比較では、脳の前頭前野の活動に違いが見られ、MTバイク利用者の方が様々な走行シチュエーションで右半球前頭前野の活動が高い傾向にあった。
前回の記事でも触れたとおり、前頭前野の役割は「情報の適切な処理、予測などの機能の中でも、より視覚的・直観的な処理」とある。
日常的なMTバイク利用者の方が、どんなモビリティに乗っても常に情報の適切な処理、予測などをする傾向にあるということが判った。
また、スクーター利用者でもひとたびバイクに乗ると、まるで呼び起こされたように脳の動きが活発になる面白い傾向も見られた。
ここまでの実証実験で、”脳とバイク走行の関係”がだいぶ見えてきた。
アンチエイジングではなくスマートエイジング
川島教授が唱えるのは「アンチエイジング」ではなく「スマートエイジング」という考え方だ。
言わずもがな、こころ(脳)と身体の刺激には密接な関係があり、こころが身体に影響を及ぼす、あるいはその逆もあるということを忘れてはならない。
エイジング(加齢)とうまく付き合うためには、こころ(脳)も身体も元気であることが必要最低限の条件であり、決して加齢に逆らうアンチエイジングではなく、個人も社会も知的に成熟することを目指すスマートエイジングの考え方が重要だ。
人生100年時代と言われる昨今、エイジングとの上手な付き合い方は私たち人類にとっての課題とも言える。幸いにもバイクと出会い、乗ることができるようになり、脳が活性化するとわかった今、残すは”どんな乗り方”が一番良いのだろうか?
これさえわかれば、バイクライフの理想型が見えてくるだろう。