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バイク用品メーカーが続ける地道なライダーとのタッチポイント作りとは?

バイクに乗るライダーにとって、ライディングウェアの着用は当然のことながら安全性を求める。そしてライディングウェアブランドもその需要に応えるかたちで製品作りを続けている。

つまり、ライディングウェアブランドは、製品を販売することで商売が成り立っているわけだが、なぜか商売に直結しているとは思えないイベントを、しかも10年以上もの長きに渡って続けているブランドがある。

週末(土日)に、相当な人員を割いてコーヒーのサービスをするカフェイベント、これを実施しているのが、ライディングウェアブランドKUSHITANI(クシタニ)だ。

彼らは、なぜこの活動にこだわりを持って続けているのか?そこにはクシタニなりの俯瞰した見方があり、考えがあった。

そこで今回は、特異な活動を続けるクシタニの考える方向性、そしてそこから見えた予想外の効果について、お話を伺ってきた。

 

ユーザー接点の模索で誕生したイベント「KUSHITANI COFFEE BREAK MEETING」

今回お話を伺ったのは、クシタニの櫛谷信夫(くしたにのぶお)さん。

クシタニでは以前から、サーキットにおけるイベントや、ライディングレッスンを盛んに開催する中で、バイクの楽しみはツーリングだと答えるユーザーが最も多いことに気がついた。そこでユーザーとの接点が無いと思った同社は、接点の模索を繰り返した。

まず初めに取り組んだのは、月に1~2回、道の駅や敷地の広いバイク店のスペースを借りて、来訪したライダーにコーヒーをサービスするだけの「KUSHITANI COFFEE BREAK MEETING略称CBM(以降カフェ)」だった。

ライダーならだれでも”来るもの拒まず”で、もちろんライディングウェアがクシタニ製である必要もなく、バイクを買ったけど実際は乗ってない人なども含め、とにかく間口を広げた。

 

広い意味で”二輪車業界底上げのためのスパイス”と割り切った

カフェの活動は、美味しいコーヒーを無料で提供すること以外は、話しかけられた時にライダーと会話するくらい。商品の販売促進をすることもなく、ライダーにとっては単なるツーリングの通過点にすぎない。

このために毎回場所を借り、土日に出向く人を手配し、提供するコーヒーを用意する。当然のことながら出費はかなりのものであるにも関わらず、信夫さんは同社の事業全体で見た時に必要な活動だとして継続した。

飲食のプロではないのでそのことでの収益を見込んではいない。利益が出せる算段などない。

しかし、我々のミッションは最終的にはバイクにどう乗るかであり、乗っていて良かったと思えるようなバイクライフを形成するものの中に、ライディングウェアもある。バイクに乗ったはいいが「面白くない」とならぬよう、どうすれば楽しいバイクライフになるのか。この”楽しいバイクライフ”というキーワードを基に考えた結果が、集う場所の提供に繋がっているのである。

週末のツーリング目的地(行き先)を探しているライダーがいる。バイクに楽しさを見出せず降りてしまうライダーもいる。これらのライダーにとって集える場所であったり、気軽に立ち寄れる場所があったらよいのではないか、そんな想いでカフェを続けていると、予想だにしない反響も増えてきた。

来場者は少ない時でも200名前後、多い時だと800名を超えるようになり、カフェの常設化を望む声も増え、遂には2013年、箱根大観山に期間限定で常設店舗をオープンするまでに至った。実際には季節的な理由により年間9か月の営業(冬季クローズ)、そして3年で終了したが、別の地域からも常設店舗のオファーが舞い込むようになった。それが、現在も運営を続ける新東名高速道路のNEOPASA清水の店舗である。

なお現在、常設店舗も4店舗にまで拡大している。

 

阿蘇 瀬の本レストハウス

 

たかがコーヒー一杯、されどコーヒー一杯

信夫さん曰く「もともとバイクは趣味性の強い乗り物であり、いつまで乗り続けられるかもわからないもの。だからこそ、しっかりと装備をして末長く乗って欲しい。そして、安全に楽しく乗ってもらうためには我々が何かきっかけを作らないといけない。買っただけで乗らなくなることもあるし、倉庫にしまってるなんて話を聞くと本当に勿体ないし寂しい。」

クシタニではサーキット走行のサポートイベントや、PA(高速パーキングエリア)を基点としてのライディングスクールも実施している(コロナ禍で一部休止中)。

カフェの本当の意味として、峠道やツーリング途中の通過点に立ち寄っていただき、一息ついて気持ちを落ち着かせて欲しい、そんな狙いもあったのだ。

また、そこに気づいた道の駅や観光協会といったツーリングスポットを有する関連団体からも、カフェ開催のオファーが多数寄せられるまでに至った。

 

「カフェは誰もが気軽に立ち寄れるものであり、ツーリングの経由地でも目的地でもどちらでも構わない。それよりも続けることにこそ意義がある。だから今後も開催できる場所を探していきたい。」

「事故が多いと言われるようなツーリングスポットには常設店舗を出して、安全に対する啓発活動を続けていきたい。また、我々が提唱する安全なライディングウェアの展示もし、購入できるようにもしていきたい。」と信夫さんは続ける。

 

安全啓発としての手応え

ジャーナリストやインフルエンサー(プロライダーなど)による、バイク走行時の安全装備の啓発を情報として発信しているおかげで、しっかり装備するユーザーが増えている手応えも感じており、今後もより一層の訴求が必要だと考えているようだ。

また、近年常設店舗に来店するユーザーが、明らかに若年層化しているとのこと。

20代のユーザーを接客している時に「どこでクシタニを知ったのか?」と聞いたところ、たまたまカフェに寄ってブランドを知ったというケースも増えている。

また、父親が革ジャンを購入し、家に持って帰ったら、息子がカッコイイと言って取られ、仕方なく父親がもう一着買いに来たこともあったそうだ。

ライディングウェアブランドとして愚直に製品作りを続けてきたクシタニだが、カフェやイベントなどによって、ライダーのみならず、潜在的なユーザーにも確実に接点が増えていると言う。最近では、カフェでクシタニの存在を知り、入社試験を受けに来たという若者までいるそうだ。

 

バイクがニッチなモノになればなるだけ、その世界は煮詰まってしまう。

カフェのような敷居の低い接点を設けることで、若者や潜在ユーザーが興味を持つタッチポイントを創る。これからもより一層、誰でも立ち寄れるような商業施設にも店舗を増やし、並行して、バイクライフにおいて最も重要である安全性の啓発も続けたいとのことだった。

私たちのバイクライフが楽しいと感じられるのは、ユーザーと真摯に向き合う同社のような方々の努力によって成り立っている、そう感じさせてくれた。

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