【走る博物館】自走可能な昭和のバイクが集まる「遠州クラシックバイクラン」とは?
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2023年9月10日、静岡県周智郡森町にある森町体験の里 アクティ森で開催された旧型車のイベント「遠州クラシックバイクラン」。現在の静岡県西部地方を指すここ遠州で今年から始まったこのイベントには、こんなにも現存していたのかと驚かされるほど多くの実働可能なクラシックバイクが静かに集まりました。
そんなクラシックバイク愛好家たちが集い語らうこのイベントに、一体どのような方が何を楽しみに集っているのかについて知るべく、主催者の佐々木 郭(以下、佐々木さん)さんにお話を伺いました。
遠州ならではのバイク好きが集まる町
会場に集まったクラシックバイクはおおよそ80台。それぞれが受付を済ませ、参加記念のステッカーを受け取った後に、メーカー名・モデル名・年式・所有者名を記した名札を愛車のヘッドライトにつけ、バイク談義にいそしんでいました。
まずは、主催の佐々木さんにこのイベントを始めるきっかけを伺いました。
もともと私自身も古い年式のバイクが好きで、全国規模のモーターサイクルクラブに加入する傍ら、地元で小さなミーティングイベントも主催していました。コロナ禍以降は、思うようにミーティングイベントが開催できなくなり、寂しい思いをしていました。
今年になって感染状況が落ち着き始めたこともあり、再びイベント開催の構想を練り始め、 “森町体験の里 アクティ森”が会場借用について快諾していただけたことを起点に、地元のバイク仲間たちにも声を掛けて「遠州クラシックバイクラン」の開催に踏み切りました。
初開催は2023年3月12日(日)でした。5月に第二回の開催を予定していましたが、雨天中止になってしまったため、今回(9月10日)が2回目となります。
今年は11月にも開催を予定しており、今後は年4回の開催を目指しています。
参加要件はどのようにして決定されたのでしょうか。
第一回開催時は、昭和のバイク(1988年製まで)を参加要件としたため、約180台の参加がありました。しかしながら、会場のキャパシティにも限りがありますので、昭和40年代(1974年まで)に参加条件を改め、今回は約80台の参加がありました。
「基本的にはバイクに乗って集まろう!」をモットーとしているので、年式の古いバイクでも自走で駆けつけやすい近隣の浜松市や磐田市、袋井市、掛川市、森町の方が多いです。なかには岡崎市や静岡市、都内からの参加者もいらっしゃいます。
参加者の特徴はありますか?
参加条件を1974年までのバイクとしていることもあり、参加者の年齢層は比較的高めですが、意外と若い方の参加もあります。若い方でも古い年式のバイクに造詣が深い方もおり、他の人とは違ったバイクに乗りたいといった意見をよく耳にします。
メーカー主催のミーティングイベントしかり、こうしたクラシックバイクのイベントでも世代を超えたコミュニケーションが盛んになってきており、バイクという共通した趣味をきっかけにボーダーレスな交友関係が築かれていることに明るい兆しを見出しました。
博物館級にレアなバイクが勢揃い!
モデルの歴史に惚れたオーナーたちは自らの想いを載せる
バイク歴50年、乗ったバイクは45台というIさん(左)は、モデルが持つストーリーも含めて愛車であるホンダ「CB500」をこよなく愛しているそう。
ホンダの創業者である本田宗一郎氏が、先に発売された「DREAM CB750FOUR」では日本の道路を走るには取り扱いにくいだろうと開発された「CB500」。そんな本田宗一郎氏の想いが伝わったのか、取り回しも足つき性も走行安定性も全てが日本の交通環境とマッチしているとベタ褒めでした。しかも、オークションサイトで発見し、はるばる桜島から取り寄せたという逸話まで持っていました。
一方、30歳のMさん(右)は、たまたま立ち寄ったバイクショップでたまたま「CB500」を見つけてゲットしたといいます。前のオーナーはレストアして走行可能な状態に仕上げるまでが楽しみという方で、完璧に仕上がったため手放されたよう。なぜ最新のバイクではなく古い年式のバイクに乗っているのかを尋ねると、もともと味のある旧型車が好みだったとのことでした。
こちらは1959年式のヤマハ「YDS-Ⅰ」と1964年式のヤマハ「YDS-Ⅲ」の前で。
左に映る御年80歳の方は、小さい頃から憧れていたYDS-Ⅰを30年間探し続け、ようやく手に入れたそう。走行可能な状態にまでレストアされたYDS-Ⅰは、まさに宝モノだと愛情たっぷりに笑顔で話してくれました。
右のOさんはバイク歴30年、御年69歳ですが、なんとオークションサイトで昨年YDS-Ⅲを落札してレストアしたと言います。他にもSⅠ型、SⅡ型を入れ替わりに手に入れてバイクライフをとことん楽しんでいるそうです。
キレイなカワサキ「W1」に乗る同じく御年80歳になるこちらの方は、浜松W1クラブの会長さん。愛車のW1は1969年製がベースですが、オリジナルサイレンサーなど、さまざまなパーツを制作しているとのことで、とてもきれいに保たれているバイクでした。40年前に横浜で9年間住んでいた頃から乗っているそうです。
なお、浜松W1クラブは発起人の後継として会長を継いでおり、現在15名ほどの会員がいるそう。会員同士で部品の供給有無や調達先などの意見交換で話が尽きないそうです。
知り合いから譲ってもらったばかりだという1966年式スズキ「T125」で参加されていたFさん(70歳)は、早朝に岡崎市を出発し、110kmの道のりを自走で来られたとのこと。
T125は当時からいつか手に入れたい憧れのモデルだったそうですが、今となっては時代を感じさせる古めかしい雰囲気も気に入っているそうです。なお、Fさんは他にも「ウルフ125」なども所有しているスズキファンでした。
静岡県で旧型二輪車クラブをまとめるWさん(52歳)と、愛車のラビットSuperflow 200。
5年前に行き着けのジーンズショップでたまたま売りに出ていたラビットを購入したことがきっかけとなり、現在ではすっかり“鉄スク(鉄板で外観が成型されているスクーター)”にハマっているようです。
毎月第2日曜がツーリングとのことで、静岡県近隣で“鉄スク集団”を見つけたらWさんたちかもしれないですね。
個々のモデルに生産背景や誕生秘話があり、オーナーが手に入れた後もさまざまな思い出があり、各自がクラシックバイクとともに十人十色のストーリーを積み重ねながら楽しんでいる様子が感じられました。
かなり年代もののホンダ「カブ」ですが、エイジングも含めて大切にしている様子が伺えます。それにしても笑顔が素敵ですね。
おそらく初代(1958年頃)のホンダ「カブ」。ご本人の笑顔からもカブに対する愛情が滲み出ています。
こちらは1973年製のヤマハ「RD125」。ちなみにこの時代は燃料タンクの塗り分けが流行っていました。
最後の質問として、主催の佐々木さんにこのイベントの継続によって期待されることを伺いました。
クラシックバイクの愛好家はどこかで繋がりがあり、ここ(遠州クラシックバイクラン)での再会を喜んだり、親交を深めている場面を多く目にします。また、ベテラン層が若年層へバイクの歴史などを話していることもあり、イベントの主旨であるバイクを通じた人と人とのリアルな繋がりにマッチしていると思います。インターネットで簡単に繋がれる時代だからこそ、こうしたリアルな集まりにも需要が高まっているのかもしれません。
古いクルマやバイクを大切にする文化は欧米では根付いていますが、日本でも流行りやファッション感覚で一時的にもてはやされるのではなく、こうして目に触れる機会が増えることで、日本でも文化として醸成されることを願っています。
何人かの方にお話を伺って、これは地域的な特性が育むバイク文化なのではないかと感じる瞬間がありました。
数名の方に「部品は今でも手に入りますか?修理の面で不安はありませんか?」と尋ねると、ほとんどの方が近隣の知人(仲間うち)で解決しているそうです。
そう、この遠州から本田技研工業、鈴木自動車工業(現:スズキ)、ヤマハ発動機、丸正自動車製造など、多くのバイクメーカーやバイク関連企業が誕生しており、そこで開発から製造までさまざまな経験を積まれた方が多く在住しているからこそ、こうした方々の知識と技術が今も生きているに違いありません。
遠州ならではのバイクが繋ぐ世代と歴史。そして、こうした古いバイクを大切にする文化も、今後より一層全国的に、いや世界的に広がっていくのではないでしょうか。環境変化に伴う技術革新の側面で、モノ作り大国である日本の真価が発揮されるかもしれません。